行く年来る年 蕎麦行事
「姫神さんや」
「姫っち~。久しぶり~」
冬の往来で出会ったのは、風変わりな猫耳少女((かける2))。
「つい先日も会った気がするがの?」
姫神は、うんざりした表情をしながらも、再会を喜んでいるようだ。
「そういや、もうすぐ大晦日だな」
「そうじゃな」
「忙しくなりますね」
「うむ」
神、四名の言葉にオレはしっくりこなかった。
「なんで?仕事は休みってのが多いのに……。オレは今年もバイトだけどさ」
この時期は時給がいいから外せないんだよね。
「お正月は初詣とか言って、人間がこぞって願い事をする日じゃろう」
「そう言われれば……そうだな。神様にとっては、年に一度の大きな行事になるのか」
「そうじゃ。ただ最近の願いはよくわからぬものが多くての。叶え難いのじゃ」
「へえ。神様も大変だな」
「というか、不可能」
「え」
三毛猫の異様に落ち込んだ声に吃驚する。
「人間社会をいくら勉強しても追いつけないんです」
「あー。すぐ変わっちゃうからね」
時代の流れで、流行が変わるように、願い事も変わっていくのだろう。
なんとなく想像できる。
「あ、そういえば、年越し蕎麦って知ってるか?」
「なんじゃ?それは」
「人間の行事の一つだよ。年を越す時に蕎麦を食べたり、越した後にうどんを食べたりする。家庭によって食べ方はちょっと違うみたいだけど。どうかな?」
「おもしろそうだな」
黒猫が興味津々で食いついてくる。
「家族で祝うのですね」
「そんな感じかな。うちは……いろいろ変な奴がいるから、どうなるか。わからないが……」
「お邪魔じゃなければ」
三毛猫は嬉しそうに微笑み。黒猫も笑ってみせる。
「なら、蕎麦と具材買わないと」
「買い物か?手伝うぞ」
「ありがと。俺たち、今から食材買いに行くから、どこかで待ち合わせしたほうがいいかな?場所知らないよね」
「姫っちがいるから簡単だ。においでわかる」
「猫ですからね!」
「なら、後で合流な。方向は……」
言うより先に姿がない。
「あっちじゃろう。放っておいても、奴らは来る。心配するな」
「猫ゆえに気まぐれってことか。だからって、急にいなくなるなよ」
ひとしきり蕎麦を食べ終え、猫たちも満足気だ。
「そうだ。お前、今度うちの神社に来ないか?」
「ええ、いいですね」
「じゃ、御節でも持ってお邪魔するよ」
楽しげな様子に、つい、そんなことを言ってしまった。
「よいのか?金がないのじゃろう」
「ん。何とかするよ。だって、神様は多忙なんだろ。あれなら日持ちするし、おなかもいっぱいになるよ」
「姫っちは仕事しないんだろ。だったら、姫が場所知ってるから届けに行くよ」
それから少しだけ談笑を楽しむと、猫たちは帰り支度を始めた。
「そろそろ行くよ。遅れたら参拝客に悪いからな。お節料理とやらを楽しみにしているぞ」
「では、ごきげんよう」
「来年もよろしくね」
「もう来なくともよい」
去り行く背を見ながら、姫神が毒づく。
「はははっ。仲いいんだね」
「うぬ。まあ、古い知り合いじゃからな」
「お正月が楽しみだね」
「あと少しじゃな」
「うん。にしても、あいつらがいないと平和だな」
玄関から消えた二足の靴。
天使と悪魔は、この国が珍しいようで、早々に出かけてしまった。
「狐は寝てしもうたな」
「マタタビ酒って狐にも効くのか?」
「さあな。静かでよいわ。今夜は雪かの」
「どうかな。冷えこんできたけど、猫には厳しいんじゃないのか?」
当たり前の疑問を並べれば、叱責される。
「あやつらも神のはしくれ。防寒対策ぐらい、ちゃんとしておるわっ」
「だね」
今年一年、お疲れ様でした。
今年の更新はこれが最後になります。
来年も続く?予定ですので、引き続きよろしくお願いいたします。