「儚い」という字は「幸せ」でできている
クリスマスの挨拶をし、猫神たちと別れた帰り際。
「姫と狐は何か、欲しいものとか、あるの?」
姫神も狐も珍しいことを聞かれたようで、ふたり揃って首を傾げた。
「?そんなものはない。神は、神として言うなら、お前の不運を取り去ってやりたいと思うておるがな。じゃが、あれではそれも叶わんじゃろうし」
「私もそう思います。幸せにしたいですが……」
後に続く言葉が何であれ、姫神と狐の言葉に胸が熱くなる。
「オレは充分幸せだよ。皆がいてくれるからね」
「お前の願いとやらはなんじゃ?大人にはサンタとかいうやつは現われぬのじゃろう」
「姫たちには、今、言ったけど。皆がこうしてそばにいてくれることが幸せだ。だから、何もいらないよ」
「ささやかな願いじゃな」
「本当にささやかですね」
夜空を眺めるオレは、珍しく心からそう思っていた。
そう思っていたんだ……
この瞬間だけは…………
翌日。
「前言撤回。お前ら全員今すぐ出て行け!」
「寒いだの、雪降ってるだの、道に迷うなど、行く宛てがないだの。そんなことは知らーんっ!」
「この惨状はなんだ?俺に何の恨みがあるのか?言ってみろっ!」
「ち、ちがいます」
「それは違うぞ。ひとまず話を」
「聞かん。今日という今日は追い出してやる。この疫病神どもめっ!」
悪魔と姫神の声を盛大に無視!
日頃の鬱憤を爆発させぬばかりの勢いに、少女達は焦り始めた。
「いかんっ。あやつを止めねばっ!」
「たいへんっ!何が起こるかわかりません!!」
「ええい。これでも飲んでおれっ!!!」
ぽすっ。
「お、お神酒?」
ばたん。
「はー。酒に弱い男でよかったわ」
「助かりましたね」
ほっとした様子で、悪魔はその場に座り込んだ。
「あやつらが手土産代わりに置いていったものじゃが。思わぬところで役立ったの」
姫神は手にした酒瓶を見ながら、昨夜の出来事を思い出す。
くーすーぴー
「とりあえず。今のうちに片付けねばな」
「そうだな」
姫神の呼びかけに、様子を見守っていた天使が頷き、座り込んでいた悪魔も立ち上がった。
「皆さん。起こさないように静かにやりましょうね」
「わかっている」
「わかっておる」
「わかってますう」
「……」
はりきる四名に浮遊霊も加わって、騒ぎの発端である部屋の掃除を開始した。
バイト出勤時刻まで、後○○分。