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街を歩けば猫に出会う

「きゅふんっ。しゃむいれす」

「冬だからね。しかたないよ。大丈夫?家に帰る?」

ふるふる。

狐の頭と尻尾が同時に動いた。

「一緒に……いる……」

狐は北のイメージがある。が、居候中のお狐様は温暖な気候育ちのようだ。

「あれ?姫っちじゃん」

「あらあ、ほんとうですわ~」

「ん?」

狐に集中していたら、どこからか、のんびりとした声が聞こえてきた。


「お、お前達はっ」

「え、知り合いなの?」

指を指さぬばかりに驚く姫神に対し、冷静すぎるオレがいる。

「知り合いも何も。同じ神じゃからの」

「へえ、神様なんだ。何の神様なの?」

「見てわからぬか?猫神じゃ」

「ねこ?って、ああ、確かに尻尾ついてる。耳もある」

「いいだろう?オレ様の毛並みはふさふさなのだ」

「お手入れの賜物ですね」

「そういうこと!」

えっへん。

「相変わらずじゃな」

ふんぞりかえる黒猫と、それを褒め称える三毛猫を、知り合いらしき姫神は生温かい目で観賞していた。


その間に、オレは姫からふたりの情報を聞きだす。

艶やかな毛並みが自慢の黒猫とマイペースな突っ込みを入れる三毛猫のペア。

彼女たちはこの町にある福猫神社の猫神ズだそうだ。


「そういう姫っちは、なんで人間と一緒なんだ?」

「いろいろあってな」

「ふうん。で、後ろの狐はなんだ?」

「あうう」

「えっと……」

鋭い指摘に、オレと狐が言葉に詰まる。

「あれじゃ、居候というやつじゃ。路頭に迷っていたのを拾ってやった」

「ほう、一緒に住んでいるのか。やしろに住むのではなく、居候とは、変わっているな」

「狐さんには狐さんの事情があるんですよ。でも、迷子には気をつけないとダメですよ。最近は都市化が進んできて私たちの住居すら危ういですからね。迷ったりしたら永久に帰れなくなっちゃいますよ」

「だな。人間が勝手に荒らしたりするから困るんだ」

「さらりと恐ろしいことを言うな」

猫神ズの言葉に背筋が寒くなる。

「うぅ、居心地悪っ」

そう言って震えていると、別方向からの鋭い指摘が聞こえてきた。


「そういや、お前、見えるのだな」

「変わった。人間さんですね」

「変なやつだな。ま、でも、姫っちが懐いてるなら、悪いやつじゃないのだろう」

「ですね。そういえばもうすぐ、『くりすます』とやらが、あるらしいですね」

「ああ、人間の行事だろう。電飾つけまくって、みんな浮かれている。何かいいことでもあるのか?」

「いろいろね。人によって楽しみ方はそれぞれだけど。恋人や家族と過ごしたり。子ども達はプレゼントを届けてくれるサンタを心待ちにしてたりするね」

「ぷれぜんと?さんた?」

「えっと、プレゼントは贈り物で、サンタはそれを届けてくれる人のことだよ。ほら、ああいう格好をした人」

目に入った赤と白の衣装を着た人を指し示す。

すると、意外な所から声がした。

「ほほう、あれがそうなのか。奇抜な格好しているものがおると思ったら、そうであったのか」

「え、姫も知らなかったの?テレビとかで知ってるとばかり思ってたよ」

興味深そうに眺める姫神を見ながら、あることを思い出す。

「そういえば、彼女いいのかな?悪魔にとってはよくない日だと思うんだけど」

「そうなのか。ものすごく浮かれていたぞ」

「日本だからかな。信仰心もそうあつくないし。オレの場合は何信仰しているのかすら定かじゃない状態だし」

「?」

首を捻り、真剣に考え込んだオレを、姫神は不思議そうに見つめている。

「お、贈り物といえば、『くりすます』とかいうのには早いかもしれんが……。ほれ、酒じゃ」

黒猫がどこかから一升瓶を取り出し、オレ達に突き出した。

姫に代わって、受け取り、ラベルを確認する。


神が手にしているお酒だ。かなりいい酒に違いない。


が。


……あまかった。


「……マタタビ酒。本当に猫だったんだな」

「なんだ。疑っていたのか?神を疑うとは失礼なやつだな」

どっかで聞いた台詞だなぁ。

「よいのか。お前らのじゃろう?」

「いいって、久々に会った記念だ。取っておけ」

「さすがは神様、大盤振舞だね」

「当然だ。どこぞの貧乏人とは違うからな」


ぐっさ。


何かが刺さった。

「で、でも、ちょうどよかったんじゃないか?クリスマスイブに、もうなってるようだから」

一升瓶を掲げてみたが、姫神はオレの腕にある時計を見たいようだった。

しかたないので、腕を下ろして、時計が見える位置に持っていった。

「十二時を過ぎておったのか」

「うん。明日はケーキ。って、もう今日か」

「冷えるね。雪でも降ったらホワイトクリスマスなんだけど」

「雪が降るといいのか」

「んー。ロマンチックなだけだよ。たぶんね」

「ふーん」

通じたのか?ニュアンスで察したのかな?

猫って勘がいいって聞くし。


こうして夜空を眺めるのも、悪くない。

「メリークリスマス」

オレの言葉にきょとんとした女の子たちの顔が映る。

「それは挨拶ですか?」

「うん。今日と明日だけのね」

「では」

「そうだな」



「メリークリスマス」


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