狐ですが、迷子です
「おい。そこの狐。何しておる?」
「おいしそうですぅ。いい香り。お揚げがほかほか出来立てですよ~」
独り言だ。
「狐。しっかりせい。油揚げに釣られている場合ではないぞ」
「あらぁ?姫神さんですね。こんにちは」
ぺこり。
いつの間にか、坂を下っていた姫神は、狐と挨拶を交わしている。
「呑気に挨拶しておる場合か。お主、お社はどうした?」
「お社ですか?さあ?どこでしょう?忘れちゃいました」
「「は?」」
オレと姫神は、仲良く目を点にした。
「忘れた?」
「ここのお揚げ、おいしそうなんですよ。あま~い香りがするんです」
「あれを一枚いただけたら、きっとほわほわな気分になれますう」
狐は匂いに浸っているようだ。
彼女の視界から完全にフェードアウトされたオレ達。
しかたがないので、油揚げを買ってやることになった。
「ありがとうです。このご恩は忘れません。では、失礼致します」
と、歩き出す。が。
「あのう。ここはどこでしょうか?」
「え?」
「来た道すら覚えておらんのか?」
「ええと。我が家はですね。笹が揺れていて綺麗な川のお側にあるんです。ご近所においしいお稲荷屋さんがありまして、時々おすそ分けを頂戴するんです。懐かしいですねぇ」
「狐……」
姫神が愕然としている。
「とりあえず、移動しよう。何か覚えてるかもしれない」
「そ、そうじゃな」
迷い狐を連れて歩く。
結局、お社とやらは見つからず。
「お世話になります」
一礼して我が家に入室。
畳の上にちょこんとお座り。
御狐様はマイペースなおっとりさんだった。
狐の続きでした。