最終話:二人は一人。
では、今回が木賊と琴浦編最終話となります。
どうぞー。
「待てよ」
気がついたら、俺は彼女の腕をつかみ引き止めていた。
【何、離れるのが嫌なの? どうせすぐに忘れるわよ】
そう言って振りほどこうとしてくる。
それでも、俺はこの手を離さない。
「そんな悲しいこと、言うなよ」
【さっさとこの手を外しなさい!】
「嫌だ!!」
もういい。
この際全部言ってやる。
「お前が話すだけ話してそれでさよならなんてずるいだろうが。俺の話を聞け」
このままさよならじゃ、彼女は救われない。
【……】
琴浦は黙っている。
「俺がお前を最初に確認したときは、文化祭だった。あの時歌ってたお前はさぞかし綺麗だった」
【……】
「次にお前と会ったのは文化祭あけの朝だったな。まあ俺は話しかけられなかったんだけど」
【……】
「そしてここでお前の秘密を知った。さぞかし驚いたな、あの時は」
【何が……、言いたいの……】
彼女は戸惑っている。
「俺は、お前を忘れない絶対の自信がある」
【そんなことは無理よ】
「いいや、忘れない」
【どうしてよ】
何故か?
そんなものは最初にあった時から決まっている。
「俺は、お前のことが好きだ! 一目惚れなんだよ!好きな奴を忘れるなんて、そんな奴はいるか!? 本当は成仏なんてして欲しくない、離れたくも無い、一緒に居たいんだよ!!」
【!?】
琴浦は息を呑んだ。
「どうだ、これが俺の理由だ!」
【……。どうして、そんなこと言うのよ……】
琴浦は、顔をくしゃくしゃにしてぼろぼろと泣き始めた。
「お、おい。どうしたんだよ。なんで泣き始めたんだ!?」
一世一代の幽霊に告白なんてことをした後にこれじゃあもう訳が分からない。
【わ、私も、木賊のことが、好きなの、大好きなの!】
泣いてエグエグ言いながら、彼女は、
俺の気持ちに……、答えてくれた?
これってもしかして……
成功?
【あなたと同じ、ほとんど一目惚れよ!! ライブで見たときから、ずーっと!! 下手したらもっと前かも知れないけど!! でも、アンタは、木賊は、アイツみたいに、私のこと忘れちゃうんだろうって!! 幽霊なんか好きになるはず無いって!!だから、気持ちを抑えてたのに!!】
「そ、そうなのか?」
そんなに好きでいてくれたのか?
だとするとすごく嬉しいんだけど。
【そんなこと言われちゃったら!! うわぁーん!!】
ついに泣きすぎて、琴浦が俺に抱きついてきた。
幽霊なのだから、そんな感覚は無いはずなのだろうが。
そのときは、温かみを感じることが出来た。
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木賊が琴浦に告白したあと、雨宮高校に一つ伝説が出来た。
1年1組の窓際の一番後ろの座らずの席、というところにはいつも菊の花が飾られていた。
花瓶に一房。
普段その席は誰にも見向きされず、忘れられているのだが。
誰も手入れするはずの無い花瓶の水がいつも綺麗なのだ。
花も枯れていることは一度も無かったそうだ。
それは3年間、ずっと続いたそうだ。
噂によると、いつも見えない誰かと会話している怪しい男が花瓶を洗っているのを見た、という目撃証言もあるのだが、真相は闇に包まれている……。
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2年後……。
【私のこと、絶対に忘れない?】
「当たり前、ずっと一緒だ。あん時誓っただろ?忘れないよ。そうだ、もうこんな土地に縛られずに、一緒に俺とこいよ。この土地にもう未練が無いなら、浮遊霊くらいにはなれるんじゃないのか?」
【そうね、実はもう幸せすぎて成仏しそうよ】
「……まじでそれは心配だな……。昔俺が考えていただけによ……」
【フフッ、今は成仏するより幸せなことが出来たからね。そうそう成仏なんてしないわ。正確にはあなたが未練なのかしら。あなたが死んだとき一緒に逝ってあげるわ】
「そりゃどうも。楽しみにしてるよ」
【ほら、ほら】
そう言うと、彼女は目を閉じて、ムッと唇を近づけてきた。
「……ったく、しゃーねーなー。そんな顔されたら答えるしかねぇっつの」
答えないわけが無いとばかりに。
その気持ちにもちろん答えた。
他人が何も感じずとも。
他人が何も見えずとも。
俺達は、繋がっている。
~木賊と琴浦~ <END>
という訳で、こんな感じです。
どうでしょうかね。
次回は咲乃と久遠編の予定です。
ただ、まだ全話整ってないのでいつでるか分かりません。
でも早めには更新したいと思います。