第六話:生ききれず死にきれず。
最近忙しいです。
甘酒が飲みたくなってきましたー。
「琴浦、どういうことだよ」
【……何がよ】
二人は屋上に来ていた。
ここは初めて二人が話したところであり、昼食を食べるいつもの場所となっていた。
「どうしてそんなに冷たくなっちまったんだよ。寂しかったぞ」
【……】
「どうしてなんだ!! 答えてくれよ!!」
だんまりを決め込む琴浦に、ついつい激情的になってしまった。
琴浦が拳を握り締めた。
【……答えてくれよ、ですって?】
その言葉は、震えていた。
怒りに。
【知ったような口を利かないでよ!! この30年間、自縛霊だから色々な人が私に気がついたわ。20人ほどね!! でも、その全員が私を怖がるか避けるか、そして忘れていったわ!!】
「……」
その剣幕に、少し怯んでしまった。
【もう私は一人でいいの!! 忘れられる苦しみがあなたに分かる!? 人は二度の死を経験する、一つは肉体の死、もう一つは精神の死、だったかしら。精神の死っていうのは、誰からも忘れられるってことらしいけど、それなら私はずっと死に続けているわ!! 何度も何度もね!! 生きてもいなく死んでもいないのよ!!】
駄目だ。
怯んじゃいけない。
これは彼女の叫びだ。
悲しい、哀しい、彼女の。
「それは、分かった。なら、どうして俺を避ける!!」
【忘れられるのが怖いからよ!! 普通に会話していたはずの私に気づいた人たちは、いつの間にか私が見えなくなっているの!! それがどれだけ辛いか分かる!?】
それなら、
それなら、おかしいじゃないか。
「じゃあなんで軽音部で歌うなんて目立ってで誰かに気づかれるようなことをしたんだ!! お前、本当は人と会話したいんじゃないのか!!」
【!?】
その時、驚いた顔をした。
「お前がいじめで自殺したんなら、クラスの温もりを、人の温もりって奴を、感じたかったからじゃねぇのか!」
そこまで言うと、琴浦が怒った顔から少し落ち着いた。
【……死因はあの委員長に聞いたのね。でも、そのことは関係ないわ。とっくに吹っ切っているわよ。30年もあったんだから】
「じゃ、じゃあそれ以外に何が……」
【10年前、アンタと同じような男がいたのよ】
「俺みたいな?」
それはつまり超かっこよくて超強くて超頭良くて((ry
【そう、あんたみたいな単純な馬鹿がいたのよ。】
そうですか……。
【アイツも私を忘れないといってくれたわ。だけどね……】
そこで言葉を切ると、静かに、あっさりと、さっぱりと、きっぱりと、すっぱりと、そして淡々と言った。
いや、やはりその顔は悲しみに満ちていた。
【半年は持ったけれど、結局私のことが見えなくなって忘れたわ】
そうか、そういうことがあったのか……。
だから最初に忘れないって言ったときは忘れるって断言したのか。
【私も今考えたらどうしてあんなことをしたのかしらね。分からないわ……。誰もどうせ気づかないとでも思っていたのかしら】
その言い方は非常に自嘲的で、悲しい響きがした。
【木賊もどうせ私のことを忘れるだろうから、その時あんな気持ちになりたくないから、だから】
「だから、自分で俺から離れたってことか」
【そうよ、だから今日でさよならね】
彼女はそう言って、屋上を出る扉に向かった。
あなたがこれを読んでいる頃、私は甘酒を飲んでいるかもしれません。
信じるか信じないかはあなたしだいです。
とそんなボケはともかく、次で木賊と琴浦編最終話となります。
次回は…、どうでしょう…。
色々ネタはありますがまとまってなくて…。