第四話:幸せな日々。
運が強いとはどういうことでしょう。
本当に究極的に運が強い人は、あまりの強さに気づけないと思います。
だって運が良いと思わせるような運の悪い出来事ですら起こらないんだから。
10月23日(火)
つまり木賊があの決意をした次の日。
あの日。
これから学校には早く登校しようと決めた。
そして朝登校すると、琴浦は席に座って本を読んでいた。
「おはようー!」
【あぁ、今日も早いのね。おはよう】
「そういえば、何読んでるんだ?」
俺は彼女の読んでいる本が気になった。
そういえば初めて教室で見たときも片手に本を持っていた。
【あぁこれね。図書館の本よ。ほとんどの蔵書は読んでるけど、新刊が入るたびにチェックしてるの】
「なるほど、暇つぶしってことか?」
【近いわね。そんなものよ】
そう言うと、また本に意識を集中させたようだ。
一時間目が終わって、俺は委員長に話を聞くことにした。
「なあ委員長、あんた彼女、琴浦が幽霊って知ってたな!」
「そうだけど?」
委員長、黒瀬乃愛は悪びれずにそう言った。
「流石委員長、クラスのメンバーならお見通しって訳かよ」
それにしても幽霊まで知っているとは。
「そんなこと聞くってことは、琴浦さんから話は全部聞いたのね?」
「まぁな」
「どうだった?」
「色々と話してくれたけどよ……」
そこで言葉を区切ると、委員長は続きを促した。
「で、心の優しい木賊君はどうするのかな?」
「俺は、彼女を幸せに成仏させてやりたい。永遠に幽霊として誰にも見えず生きるよりはその方が良いと思うんだ」
俺がそう言うと、委員長はフフッと笑って、
「そう、応援するわ。……私じゃその役は無理そうだしね」
と、言ってくれた。
“私じゃその役は無理そう”?
「おい、それってどういう――――――――――、」
それを聞こうと思ったとき、キーンコーンと丁度チャイムが鳴った。
「いけない。早く座って」
「あ、あぁ」
流石委員長。その辺の規律にはうるさく、結局聞けなかった。
そして昼休み。
「木賊ー、一緒に食うか?」
「しばらくパスになる。用事があってな」
そういって誘いを断ってから、俺はあの席に向かった。
「なあ、一緒に食おうぜ。弁当」
【……昨日屋上で言ったはずよ。私は食べられないわ】
「思ったんだけどよ、お供えっていう風にすれば食べられるんじゃないか?」
これが木賊の考えだった。
そのために弁当をわざわざ二つ作ってもらっておいたのだ。
【ふーん。よく考えたわね。確かにそれなら食べられるわ。じゃあ、屋上に行こうかしら】
そうして二人は屋上に行った。
【ほら、そうして】
「なるほど、確かにお供えっぽい」
【もっと垂直に立たせられないの?】
「しゃーねーなー。こんな感じか?」
【そうそう、そんな感じよ】
屋上に行くと、他の人から見ればおかしい状況だった。
二つの弁当を広げ、その内の一つにはご飯のところに箸が垂直に立っていた。
【いただきます】
「いただきます」
パクパクと食べ始める二人。
すると、あることに気づいた。
「ねぇ、お前の弁当の方量変わってなくない?」
彼女はパクパクと料理を口に運ぶのに、弁当の中身は変わっていない。
【当たり前じゃない。お墓とか仏壇にお供えしても量は変わらないでしょ。それと同じ考えよ】
「確かに……、ってじゃあ俺二つも持ってこなくて良かったじゃん!」
この後残った弁当も木賊がおいしくいただきました。
【どこまで私を忘れないでいられるのかしらね】
「ん、何か言ったか?」
【別に何でもないわ】
ツンと向こうをむいてしまった。
【久しぶりに物を食べたわね。おいしかったわ。ありがとう】
「俺は二つも食って死にそうだけどな……」
げぷ……という木賊。
琴浦は満足そうだった。
【さあ、早く降りましょう。もうすぐ昼休みが終わるわよ】
「……そうだな……」
昼休みはこれで終わった。
これからもこんな幸せが続くのだろうか。
きっと続くと、木賊は信じていた。
結論。
信じれば運気なんてどこまでだって上げられる。