自殺少女のその後。
という訳で、最終部のあの落ちた少女の続きの話です。
さて。
文化祭で飛び降り自殺を図ろうとしたあの少女は。
「黒瀬さんから話は聞いた。飛び降り自殺たぁ、なんて馬鹿なことを」
1年3組の模擬店での話だった。
それは模擬店でも小さな角のスペースだった。
個室のようになっていて、喧騒の中で切り取られた場所のようだった。
そこに二人の男女がいたのだ。
「うっさいわね。後輩の癖に」
「へ、先輩なんですか?」
一人は木嶋柘榴。
この1年3組の模擬店『らぁめん一休』の店主である。
先ほど黒瀬乃愛に頼まれてある少女を空から降ってくる最中、網で捕らえた。
もう一人は先ほど上から降ってきた自殺少女。
1年生と見間違えるのも仕方がない身長だった。
……だからこそ現川も同年齢だと思ってあそこまで強く喋れたのだが。
「私が1年生に見えるー?」
「……若々しく見えるってことで」
「そうよ!! 私に魅力なんか無いのよー!!」
いきなり、先輩(自称)が机に突っ伏して泣き始めた。
「ちょ、どうしたんですか?」
どうやら先輩らしいので、態度を改めながら様子を見る。
「……聞いてくれる?」
そこまでは言ってないけど。
「さっきなんで自殺なんてしたのか、って聞いたじゃない」
「私だって文化祭の一週間前くらいまでは、楽しかったわよ」
「端的に言うとさ、私は彼氏を親友に捕られたんだよ。何が応援してあげるよぉ!!」
想像以上にドロドロした話のような気がする。
「最近彼の様子がおかしいとは思ってたのよ? でもさぁ、まさかずっと隣で離してた親友に、彼氏を落とされるなんて想像も出来ないじゃない!!」
泣きながら、思いの丈を吐き出した。
「ちょっと待っててください」
木嶋は不意にその席を立ち上がった。
「何よぉ、あなたまで、私から離れる気……」
グスン、と鼻を鳴らしながら机に突っ伏す。
そうして数分が経った頃であろうか。
木嶋が戻ってきた。
そしてドン、と音を鳴らしてどんぶりが置かれた。
「ウチ直伝のどんな涙も嬉し涙に変えるラーメンだ。とはいえ、親父の見よう見まねだからそこまでじゃないだろうがな」
先輩が少し顔を上げる。
キュゥ、と可愛らしい音が鳴った。
「お腹減ってたんですね」
「……るさいわね」
確かにお腹が減っていたのは事実だ。
文化祭なんて屋上からずっと眺めていただけだったし。
箸を取ると、そのラーメンを口に運ぶ。
「――――美味しい」
「それは良かった」
なるほど、親父の言っていた意味が分かった。
さっきから忙しかったからお客が食べている顔なんて見ていなかったが。
人に喜んで食べてもらうのは、すごく嬉しい。
目の前の先輩は余程お腹がすいていたのか、男でも顔負けな勢いでラーメンをすすっていく。
すると、途中から先輩の目に涙が溢れてきた。
「どうしたんですか!! 何か調合を間違えてたとか……」
「違うの、ラーメンはすっごく美味しいの。じゃなくて……」
「嬉しくて……。こんな風にされるのが……」
「――――こんな俺でよければ、またラーメン作りましょうか? 『必殺一撃』、俺の親父の店です。来ていただければ、修行中の身ではありますが……」
「ふふっ、面白いラーメン屋さんね」
「名前は気にしないでください」
「そうね、絶対行くわ」
「すいませんが、お名前はなんて言うんですか? 俺にとっての最初のお客さんですし」
「……森宮千里。忘れないでよ?」
「絶対忘れません」
――――、この後、日本で名前を知らないものがいなくなるほどのラーメンショップ、『必殺一撃』が出来上がるのだが、それはまた別の話。
結局、この話で終わりということに。
初めての恋愛小説でしたが、やっぱり難しいですね。
またいつか恋愛を書くかもしれません。ないかもね。
では、ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました!!