最終話:amabile。
最後のタイトルの意味は愛らしく。
これで1年弱ですね……。
「やっぱ人の心ってのは難しいなー、畜生。結局俺は助けられなかったし」
「そんな簡単に人の心が分かったら、皆苦労してないよ」
黒瀬はその長い黒髪をたなびかせる。
夕日に照らされ輝くその姿を視て、やっぱり確信した。
今までずっと見てきた光景が、そこにはあった。
ってかよく考えたら、俺が誘うまでも無く乃愛は屋上に来てたんじゃね?
こんな事件があったんだから。
「……運命って奴は、無慈悲だなぁ……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
今は、既視感がない。
長年ずっと見てきた景色であるにもかかわらず。
「なぁ、乃愛」
「何? あーちゃん」
その笑顔は妖艶に輝く。
おそらくこいつは、俺が何をするのかもう分かっているだろう。
ずっと乃愛の気持ちを無視し続けたのは、俺なんだから。
よく考えたら、頭が良すぎるってのも、大変なんじゃないだろうか。
展開が想像出来てしまう。
それはつまり、俺と同じように。
既視感に塗れた世界に見えるって事じゃないのか?
「お前も、大変だな」
「え?」
俺は走って乃愛に近づく。
左手で乃愛の目を覆うと、その唇を思いっきりこっちの唇で塞いでやった。
「む……」
乃愛は何も言わない、動こうともしなかった。
「お前の鼻を一回くらい明かしてやりたかったんだよ」
左手を離して、乃愛の顔を覗き込む。
流石にこれは、想像出来なかったはずだぜ?
「……さ、流石にビックリしたんだよ……」
乃愛は自分の頬を押さえている。
「簡単なことだったんだな。俺も、お前も、似たもの同士だったって訳だ」
「あ、あーちゃん?」
「お前にも、未来を視る力があったってことじゃねえか。ま、俺と違って、あくまで想像でしかないんだろうがな」
「俺は既視感の苦しみってのを知ってる。だから、だからこそ。お前を退屈させる気は無い。お前の抱く想像以上のものを、魅せてやる」
「あーちゃん……」
「好きだ。ずっとな。……分かりきってたことだろうが、改めて言うと、恥ずかしいな、これ」
「……普通は、そういうのを言ってからキスなんじゃないのかな? 私じゃなかったら怒られててもしょうがないよ?」
「お前だからあんなことをやったんだ。……俺ばっか言いっぱなしってのも悔しいぜ? お前も、ちゃんと口で、言ってくれないか?」
「強引なんだから……。そうだよ、私もあーちゃんが好き」
乃愛は笑ってそういうと、いきなり俺の目を覆ってきた。
そして口に柔らかい感触があたる。
ついさっき味わったばかりの、忘れようも無い感覚。
目から光が戻る。
すぐ近くに、乃愛の顔があった。
「さっきの――――――」
頬に指を当て、いじらしい妖艶な笑顔で。
「仕返しっ♪」
~現川と黒瀬~ <END>
これで三部作終了!!
というか最後のこの話関係ないじゃん!!
この後、現川君は望月が榊原に刺されている未来を視て、行動することになります。
ふぅ……。
この後特別編を更新しようと思います。