第六話:tranquillo。
今回のテーマの意味は静かな、穏やかな、やすらかな。
落ち着いた感じで事件は解決しますよー。
「だから俺は、この未来視を使って、色んな奴を助けようと思った。アンタみたいな奴もな」
昔のことを思い出しながら、目の前の女子に全てを話した。
「今じゃあ未来を視るってのもコントロールできるようになったから、テストとかで不正はしてないぜ? それも黒瀬に言われたからな」
黒瀬の名前を伏せようとも思ったが、もう隠す必要も無いだろう。
「どうしてそんなことを、私に話したのよ」
その少女は驚いたような顔をしながら、話しかける。
納得は一応したようだ。
まぁ、こんな文化祭の日に屋上に来たってのがあるから、未来が視えているってのもあながち嘘じゃないとは思ってくれているんだろう。
「少し似ている気がしたんだよ。俺にな。ま、昔の俺に自殺をするだけの勇気は無かった分、アンタのほうがすごいかもな」
「何言ってるの?」
「さっき言ったろ? 俺は黒瀬の作ってきた文化祭を、黒瀬との約束を、違える気はないんだよ。アンタに何があったかは知らねぇが、自殺なんて馬鹿な真似、やめてくれないか?」
説得できるかと思った。
「……やっぱり、無理よ。私は今、ここで死ぬ」
その顔は落ち着いたような、微笑だった。
「最後にアンタに会えたのは良かったとは思うけどね。私はもうこの世界を、信じられない」
そのままふわりと浮き上がるかのようにその女の子は落ちようと手すりから手を離した。
落ちるかと思った瞬間、その手をいきなり掴まれた。
「えっ!? ちょっと!?」
「アンタに話してなかったな。さっきの話を話したもうひとつの理由は、アンタに警戒心無く近づいて、こうやって助けるためさ」
現川は過去の話をしながら、自殺しようとした少女に近づいていた。
もしものときのために。
「ちょっ!! 離してよ!!」
いきなり落ちようとしていた女の子が暴れだした。
「待て!! こんなところで暴れるな!!」
「私はもう死ぬって決めたのよ!!」
「馬鹿野郎!! そんなことさせないって言ったろうが!!」
そして、もみくちゃになった結果。
「あっ」
間抜けな一言とともに、現川の手から少女の腕が滑り落ちた。
「やべぇ!! 黒瀬!! バックアップだ!!」
思わぬ事態だったが、大声を上げて黒瀬に伝えた。
「もちろん、大丈夫に決まってるじゃない」
その返事は、現川の後ろから聞こえた。
「黒瀬? こんなとこにいていいのか?」
黒瀬は後ろからゆっくりとやってきた。
「もう準備は出来ているもの。外から見た人の話から落下する場所は予想がついたし。だから家庭科の不知火先輩にロープみたいな太さで人をおさえてもらうネットを作ってもらって、ちょうど真下にある模擬店、そのラーメン屋の木嶋くんにさっきのネットを使った網を持ってもらったんだ。本場のラーメン屋で修業してるらしいから、筋肉も強いでしょ? あ、一応五人ぐらいはつけてるけど」
見ると下では、スポッとさっきの少女が網の中に捕らえられていた。
「ふぅ……、助かったー」
思わず息を吐いた。