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雨宮高校の不思議な話。  作者: 敷儀式四季
最終部:<現川と黒瀬>
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第五話:recitativo。

今回は過去話。

結構文字数も大めです。


クリスマスで終了するので、ガンガン行くぜ!!


今回のタイトルの意味は、語りかけるような歌い方、という意味です。

 生まれたときからよく、見ている景色がある。


 黒い髪をたなびかせる女の子が、夕日の光を受けて輝いて、俺の方を向いて笑顔で何かを言っているというものだ。


 その景色を除いて、圧倒的な既視感。


 それが現川が昔から抱いていた苦悩だった。


 何をしても見たことがある。

 

 何をするにも味気ない。


 抜き打ちテストも。

 転校生の顔も。

 先生が怒るタイミングも。

 

 全て、知っている。


 ある意味ではこの頃が一番、能力の全盛期だったといえるかもしれない。


 そして、アイツが話しかけてくることも。


「ねぇねぇあーちゃんあーちゃん」


 転校生、黒瀬乃愛。

 

 小二のころ、転校してきたこの女子は、何故かやたらと俺に引っ付いてくる。


 その上未来視で頭の中に勝手に映像が流れてくるから、外でも中でも頭の中がコイツでいっぱいになってしまった。


「何だ」

 思わずイライラした口調で答える。


「机の上は椅子じゃないから、降りたほうが良いと思うよ?」


 そう。

 今俺は学校の机を椅子にして座っていた。


 ……小学校では結構怒られたりする。


 小さな不良、というよりはたちの悪い不良だったのだろう。


 悪いことをしているくせに、頭だけはキレる、ように思われていただろうから。


 未来視で病んでいたのだろう。あの頃の自分を思い返すと恥ずかしくなる。


「黙ってろ、手前に関係無ぇだろうが」 


 俺は乃愛を完璧に無視する。


「あーちゃんあーちゃん」

「何だようっせぇな!!」

「机の上から降りたほうがいいよ?」


 ……ここまでしてひるまない女子がこいつだ。


 こんな奴とは始めて会った。


 これ以上言い合っても面倒くさいだけなので、一応机から降りた。


 ……俺に唯一勝てる女子が、乃愛だった。



 一応平穏だったある日。

 また事件の未来が見えた。

 ただ、その未来は、想像もしていないものだった。


 少女が、トラックと対峙している。


 正確な説明をするなら、横断歩道をわたっていた少女にトラックが突っ込んできている、という未来だった。


 さらに言うなら、その少女は――――――――。


「あーちゃんあーちゃん、顔色悪いよ?」


 こいつである。


 全然この後撥ねられる様子が見えないんだが。


「……身の回りには気をつけとけよ」

 としか言えない。

 見た未来は何があっても変える事が出来ない。

 それは昔から変わらない。


 そうしてすぐに、放課後がやってきた。


 ――俺は、黒瀬を尾行することにした。


「何で俺があんな女子なんかを……」

 よく分からない感情だった。


 未来は変わらない、なのに、今回は少し違う気がした。


 助けたいと、思っている。


 そうして尾行すると、すぐにも運命の交差点は目の前に現れた。


 黒瀬は俺の忠告なんかどこ吹く風、どんどん歩いていく。

 無理も無い話だが。


 俺はその様子を近くで見ていた。


 すると、黒瀬が交差点の真ん中に来た頃、トラックが猛スピードで突っ込んできた。


 運転手を見ると、頭が落ちていることから、居眠り運転のようだ。


 黒瀬はそれを見るとビクン、と驚いてしまい、猫のように止まってしまった。


「っの馬鹿がっ!!」

 戸惑いは一瞬だけだった。


 俺は、交差点の真ん中に踊りだしていた。


「……あーちゃん」

「何止まってんだ馬鹿っ!!」

 交差点で黒瀬と合流し、反対側まで手を引っ張って走る。


 そのときは、死を覚悟していた。


 未来は変わらないから。


 だが間一髪、服が少しトラックと擦れるほどのぎりぎりで、なんとトラックから逃げ切ることが出来た。


 助かった。

 だが、どうして助かったのか分からない。


「あーちゃん」


 見た未来は変えられないはず。なのにどうして。


「あーちゃんってば!!」

 黒瀬に肩をつかまれてぶんぶんと振られ、ようやく黒瀬が何度も呼んでいることに気づいた。


「あーちゃんってさ、もしかして――――」


 まさか、黒瀬からそんな言葉が聞けるとは思ってなかった。


「未来が視えてるんじゃない?」


「!?」


 ありえない。

 この部分に気づける奴なんて、誰一人いないはずだ。


「だってあーちゃん、いっつもテストは満点、先生の抜き打ちテストですら満点。それくらいなら普段は不良でも、家で勉強しているだけかと思ったんだけどね」


「でも普段の様子を見てるとさ、先生が怒るタイミングとかを予期してるよね。他にも、通り雨とか、そういう天気予報とかじゃどうにもならないものでもあーちゃんは知ってたりするじゃない」


「だからってお前……、未来が視えるなんて誰一人想像できないだろ!!」


 誰だってただの勘のいい奴としか思わないはずだ。

 というか、コイツは俺のそんなところまで見てたのか。


「私は出来たよ? それに確証を得たのは今日。あーちゃん私のことずっとつけてたでしょ?」


 ばれていた?


「わざと撥ねられようとしてみたけれど、そしたらあーちゃんは助けてくれたじゃない。ずっと尾行してたから気づいてないかもしれないけど、このあたりは校区外、それもかなり遠くにあるんだよ? 私が撥ねられかけることを元から知ってないと、ここには来られない筈だよ?」


 だから黒瀬がトラックと対峙しているように見えたのか。

 まさか、居眠り中のトラックに襲われるとは思っていなかっただろうが。


 この女、天真爛漫そうに見えてその実、滅茶苦茶に頭の回転が速いんじゃないか?


「分かった、お前が俺の秘密を知ったのは分かった。そうだ、俺には未来が視える」


 気がついたことがある。


 今、俺に既視感が、ない。

 あれだけ抜け出すことの出来なかった既視感から今、抜け出せている。


 ……そういえばこの女と喋っているときは、いつも既視感が無かった。


 もしかして、この女、黒瀬なら……。


「だったら、何だってんだ」


 いや、駄目だ。

 期待するな。

 今まで、どんなことをしても駄目だった。

 未来を視るという永遠の牢獄に、俺は囚われてしまっているんだ。


「だったらって……、そんな力があるんなら、色んな人を助けられるじゃない!!」


 案の定そういうことか。

 ならこの女に、知っておいてもらわなければならないだろう。


「言っておくが、俺は未来も視ることはできるがな、視た未来を変えることなんて出来ないんだよ!! だから、盛大なネタバレを続けられてるみたいなもんなんだ!! 分かったらもう俺の前に姿を見せるな!!」


 俺の叫びにも、黒瀬は動じることは無かった。


「そんなこと分かってるよ? タイムパラドックスの関係でしょ? でもさ、だったら、視た未来以外なら全部変えられるんじゃないの? 現に私は今トラックから助けられているよ?」


 …………!?


 そんな、裏技みたいな……。


 だが、事実でもある。


 確かに俺は黒瀬がトラックに撥ねられそうになるという未来は視たが、実際に撥ねられているところは見ていない。


 だから、助けられたのか?


「嘘だろ? そんな方法で俺は、この既視感の牢獄から抜け出せんのか?」


「あーちゃんは私だって助けることが出来るんだ!! だから、他の人も、困っている人を、みんなみんな助けて、笑顔にしてあげようよ!!」

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