最終話:少女は笑顔を取り戻し、恩返しは終わらない俺。
ようやく完結です。
随分と長い+えぐい表現があるので注意。
「あー、ようやく思い出せた。すっきりすっきりだな、望月ちゃん」
どうやら榊原は全てを思い出したようだ。
「全部思い出してなんだが、あれは一体どういうことだったんだ?」
「あれ?」
「いや、何か少年マンガばりに戦ってたじゃん。もしかして、あれが……」
「お察しの通りよ。それも、真祖だったの。潰すべき、憎むべき、最悪」
その時の望月の顔は、殺気に満ち溢れていた。
とてもあったときの少女とは思えない、というよりも、少女で出せるレベルのものじゃなかった。
「一つ聞いて良いか?」
「何?」
「どうして、……そんなにその不老不死になっちまった奴を憎んでるんだ?」
沈黙。
だが、ゆっくりと望月は口を開く。
「家族を、殺されたの。あいつらの眷属とやらにね」
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頭に浮かぶのは、あの日の光景。
欧州の小さな村、そこに、私は住んでいた。
家は、炎に包まれていた。
「ひゃはははっ!! この身体すげぇなぁ!! 身体が元に戻りやがるぜぇ!!」
「人がもろいもろい、もろいぜぇ!!」
火の中には、二人の男。
男の服には火がついているにもかかわらず、それでついた火傷は見る見るうちに治る。
「おねがい、娘だけは、シルキィだけは、殺さないで!!」
「頼む!!」
シルキィというのは、私の本名だ。
目の前に立つ二人は、両親。
「お、お母さん……、お父さん……」
「お姉ちゃん……、怖いよ……」
私の横に居るのは、妹、カルナディ。
「はっ!! やーなこった。俺はもう人道とかは関係ないからねぇ!!」
「そうだな、ガキを殺してから親を殺したほうが楽しそうだなぁ!!」
二人の男はこちらを振り返る。
そして、剣を振りかぶる。
「ひゃははは!!」
「やめろぉ!!」
その剣に斬られたのは、お父さん。
「お父、さん……」
「きゃあぁぁぁ!!」
お父さんは地に沈む。
カーペットに染みこむのは、血。
「うっせえなガキ」
お父さんを斬らなかったほうの、つまりもう片方の男も剣を出し。
「ああぁぁ、がっ!!」
カルナディの悲鳴は、途中で途切れた。
喉を一突きにされて。
男が剣を抜くと、喉から血がシャワーのように飛び出す。
「さぁて、奥さん。もう娘さんは一人、愛した男も死んじまったぜぇ?」
お母さんは、必死に私の元に駆け寄ってくる。
「ねぶり殺すかぁ? この女綺麗だしなぁ!!」
ブスリと、お母さんのおなかに剣が突き刺さる。
「があぁぁ!!」
お母さんはそれでも、おなかを押さえて、私の元に駆け寄って庇うようにする。
「シルキィ、生きなさい。そして、神を信じなさい……」
私の家は敬虔なクリスチャンってやつだ。
「おいおい、殺りすぎだろぉ? しょうがねぇな、断末魔で我慢するか」
ザクリ。
男の剣がお母さんの背に突き刺さる。
ザクリザクリザクリザクリザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ。
何度も何度も何度も何度も。
男達はお母さんの背を刺した。
剣は骨を砕き、音がだんだん柔らかいものを突く気持ち悪い音になっていく。
お母さんの返り血を浴びながら、私は――――――。
「ハハハハハ、コイツはたのし、ぎひっ!?」
お母さんを刺していた男のうちの一人が、妙な声を上げた。
その首を剣で貫かれていたのだ。
剣は黒く、黒く、輝いていた。
剣を持っていたのは、いつも通っていた教会の神父様だった。
「残念、だったなぁ!! 俺は不老不死なんだ――――――、がぁ!?」
首を貫かれていた男が、急に声を変える。
ありえないことでも起きたような。
神父様が剣を抜く。
その瞬間血が首から飛び出す。
「神父様かぁ!? 残念だったなぁ、俺達はなんと不老不死なのさ!!」
刺されていないほうの男が叫ぶ。
だが、剣を抜かれた男の身体は剣を抜かれて地に沈んでから、起きない。
「お、おい? 起きろよ」
背を叩くが、動きが無い。
そうしてかがんだ男の背から、脊椎を貫くように神父様の黒い剣が二人を突き刺した。
「か、はぁ」
家を襲った二人組は、即死した。
「大丈夫か? シルキィちゃん」
神父様は手を私に伸ばす。
「ひっ!!」
私はその手を払いのける。
「まぁ、助けに来るのが遅かったのは認める。済まない」
「……」
「復讐、する気は無いか?」
「……え?」
「世の中には、こういう奴らが蔓延っている。そういう奴らを、討伐する気はないか?」
そう言って神父様はもう一度手を伸ばす。
「復讐」
「そう、復讐だ」
私は、その手をとった。
「この世に、神なんていない」
神父様が、神父様らしからぬことを言った。
この神父様は、私と同じことを考えている?
お母さんが死んだとき。
私は、神なんていないと思ったんだ。
「この世に、神なんていないんだ」
私は、神父様と一緒にその家を出た。
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「神なんていない。だから私は――――――」
「なんとも、面白くない話だな」
何だ、このバッドエンドは。
「面白くない? 私を、馬鹿にする気?」
その顔は憤怒に彩られている。
「だって、そうだろ? 誰だその神父ってやつは。ふざけてるのか? 何が復讐だ」
正直言って、むかつく。
「神父様を、馬鹿にしないで!!」
右手を前に出して、魔法陣が出る。
「ちょっと俺はむかついてるんだ。神父様って奴も、お前もな。お前のお母さんは言ってたんだろ? 神を信じろって!!」
「神なんていない、いるなら、私の家族を帰してよ!!」
望月は泣き叫ぶ。
それは、魂の叫び。
「過去を過去の物として受け止めろ。お前は、ただ過去から逃げているだけだろうが」
「あんな経験をしたことのない平和ボケした日本人に、言われたくない!!」
「平和ボケの、何が悪い。世界皆が平和ボケ出来る時代、いいじゃねぇか」
「私は一生、平和ボケなんて出来ない。出来るわけがない。あいつらを、殲滅するまでは!!」
「なぁ、普通に生きるってのは、無理なのか? お前、まだまだ遊びたい盛りの女子だろ?」
「そんなこと、できる訳無いでしょ! 馬鹿じゃないの!?」
「してみせろや」
榊原は望月にぐい、と近づく。
俺は、昔から人の人生には介入しないようにしていた。
人の過去にとやかく言っても仕方が無い。大切なのは、今だから。青春の、刹那だから。
だが、今回ばかりは別だ。
こんな綺麗な女の子が。
復讐なんて道に進んでいることが。
むかついたんだよ。
「お前の今やってることは、お前の家を焼いた奴らと同じだろうか」
「あんな奴らと私を一緒にしないで!!」
「一緒だろうが!!」
思わず出た大声に、望月はひるむ。
「その不老不死って奴らにも家族があったり、守るべき人がいるはずだろ? それを踏みにじってる。復讐には復讐しか帰ってこねえぞ?」
「!?」
「無論、お前の家族のことを忘れろっていうわけじゃない。今までどおり、そいつが悪い奴なら別に良いと思ってる。ただな、さっきの女子みたいにお前に危害を加えようとしない人まで、お前は殺そうとしてたぞ?」
「ど、どういう意味……?」
さっきの少年漫画じみた戦い。
だが、俺には相手のほうが望月に危害を加えないように上手く攻撃を調節していたように見えた。
それだけ、相手のほうが格上、ということなのかもしれないけれど。
“平和に人間と共生しながら生きられるかと思ったのよ”
ある男とクロノス・ヴェルジパーナ、ここでは葛城とか名乗っていた真祖がそう話していた。
望月は、その言葉を思い出す。
「あの女子、どう見てもお前を殺そうと思えば一瞬で殺せるくらいの強さはあるだろ。その復讐で濁った目じゃ、わかんないのか?」
“私には罪が無いのかも知れないわね?”
あの真祖の言葉が頭をよぎる。
「わ、私は、間違っていたって言うの……?」
望月の目からは確実に殺気が消えている。
「別にそこまで言うつもりは無いさ。それだって人間の感情だろうからな。だが、俺はそんなことを気にする気は無いぜ?」
大切なのは、今だから。
「……生き方を変えるつもりは無い」
「そうか」
「……でも、話くらいなら聞いてみても、いいかもって思った。不老不死の奴らでも」
その後、彼女は去って行った。
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11月5日(月)。雨宮高校1年4組。朝のショートホームルーム。
「今日は、転校生を紹介します」
「望月巫女でーすっ!! みんなよろしくー!!」
「何でだぁ!!!!」
思わず俺は立ち上がって叫んでいた。
「あら? 榊原君、知り合い?」
クラスの目線がこちらに集結する。
「まこと、恩返ししてやるから、覚悟なさい!!」
という訳で。
なんだか短編小説みたいなエンドですね。
恋愛小説なのに。
まぁ、後日談を書くことがあれば、ちゃんと恋愛要素も絡められそうですが。
次回はようやく本命、委員長、黒瀬と謎の男あーちゃんの話、です!!