第六話:戦う少女、助ける俺。
しかし、まったくあり得ない話だ。
俺はある何かを探しているという男について行っただけだ。
自分の中の何か重大だと思った何かを探すために。
―――――――これは何だ?
少年漫画の世界なのか?
目の前では光や炎がぶつかり合っている。二人の少女の間で。
しかも、一人、赤を基調としながらもその中に黒を交えたローブを着ている女の子を。
俺は、知っている……!?
デジャヴュって奴じゃないほどのレベルで、そう確信できる。
だが、何故知っているのかまでは思い出せない。
そう考えていると、その赤黒ローブの女の子はいつの間にやら剣を取り出しており、もう一人の綺麗な大人の女って感じの人に振り下ろしていた。
「おいおい、ちょっと――――」
流石にこれはまずいと思って飛び出そうとしたが、横にいた男がそれよりも早く、まるで稲妻のように走り出していた。
そして振り下ろされていた剣を何と鋏で止めていた。
どうやら飛び出した男は二人の女子と話しているようだったが、ここからでは聞き取れない。
聞き耳を立てようと集中して聞こうとしていると、赤黒ローブの女の子は黒く大きな剣を振り回し、何とそこから斬撃が生まれている。
その上その斬撃からは炎が噴き出し、もう一人の女の子のほうを直撃していた。
「っておいおい!!」
今度こそやばいと思って飛び出そうとするが、煙を纏いながらも女の子は平然と立っていた。
「な、何なんだあの女は……? 不死身か……?」
その女の子は不動の構えで立ち尽くしている。
何か重大なことでも考えているかのように。
そこに、もう一度斬撃が飛ぶ。
それは男を狙っているように見えて急激にカーブを見せ、女子のほうに向かう。
もちろん、俺はその斬撃程度今までの戦いを見て避けるものだとばかり思っていた。
だが、実際はそうではなかった。
その女子は傍からどう見ても斬撃なんて見ちゃいない。
斬られる!!
今度の今度こそ出ようと思った瞬間、今度は鋏の男がその斬撃を庇い、そのまま斬られて倒れた。
「って、やば!!」
横にいた委員長と現川という男も息を呑む。
助けに行かないと!!
だが、動けなかった。
そのすぐ後、元々斬られる予定だった女の子が男に近づいた。
そして、この場から離れたくなるような圧力、魔女じみた圧力、怒りを露わにしたのだ。
「まずい」
だが、その圧力を受けて、逆に俺は少し冷静になった。
何故だかは分からないが、強いて言うなら今までは感情的だったものが、理性的になるような。
そうして、今度こそ俺は飛び出した。赤黒ローブの女の子の元へ。
横では、巨大な光の球が現れていた。
「ひ、ひぃ……」
「おい、なんかテレポートとかの魔法は無いのか!?」
急いで赤黒ローブの女の子に聞くと、一瞬驚いたような顔をした後、すぐに魔法陣? のようなものを展開し始めた。
「させない」
そんな声が聞こえ、目の前が光に包まれる。
死んだ?
そう思った瞬間、よく分からない道のアスファルトに俺はいた。
「はぁ、はぁ……」
赤黒ローブの女の子は酷く息が乱れていた。
「おい、大丈夫か?」
「どうして、まことが、ここにいるの……? 記憶は、消したはずなのに……」
この子も俺の名前を知っている?
いや、それより。
「記憶を消した? まさか、お前が、俺の記憶を……?」
「……あきれたの。まさか、記憶が戻って無いのに、消されたまま助けられるなんてね。これで、まことへの借りは二つになっちゃった。早く何か織って返さないといけない。こっち見たら私が鶴だってばれちゃう」
「日本はどんな国だと思われてるんだ!?」
「今のは冗談。今のが浦島太郎って昔話であることは私も知ってる」
「それは助けた亀に連れられて竜宮城に行く話だ!! お前が話したのはつるの恩返し!!」
あれ?
今のくだり前にどっかでやったような……。
「本当に記憶は消したまんまなんだ……。つくづく、呆れた男ね」
「お前みたいなちっちゃい女の子には言われたくないけどな」
「ふーんだ。そこまでちっちゃくないもーん!!」
そういえば、あんなに化物じみた力を使うこの女の子に対して、よく冗談なんか言えたな、俺。
「きっと年齢的にはまことと同じくらい。馬鹿にするのはいただけない」
「……」
「ちょっとー、何とか言いなさいよ。無口の権兵衛?」
「……、おそらくそれは名無しの権兵衛だ。いや、もうすこしで何か思い出せる……、っていうか俺の記憶を消したのはお前なのか!?」
そういえば俺の質問が上手くはぐらかされていた。
「……しょうがなかったんだもん。まことが知りたい知りたいっていうから。まことのせいだもの」
「俺のせい!?」
何やってんだよ昔の俺。
「でも、ここまでするのは凄い。褒めてあげる」
ポムリと頭に手をのせてなでる。
ただし、目いっぱい背伸びして手を限界まで伸ばして。
「そんな頑張らなくてもいいんだけどな」
「頑張らないといけないのー」
そう女の子が言った直後、俺の額から幾何学的な紋様と謎の文字を持った魔法陣が現れた。
「な、何じゃこりゃあ!?」
「静かにして。我、洗礼名マリア・ミカエラの名に置いて、此の者の変異されし記憶を甦らせん」
その瞬間。
頭の中に全てがフラッシュバックした。