第五話:何かが足りない俺。
本当に久しぶりですね。
いや、恋愛小説って難しいんですよ、本当!!
退屈だ。
榊原は自分の部屋のベッドをごろごろと転がりながら惰性に身を落としていた。
朝からちょっと風邪っぽいかなと思ってはいた。
だけど、あの母さんがその程度で休ませてくれるとは。
本当に意外だ。
やはりわが子は大切だということだろうか。
いや、本当は風邪のせいだけではないだろう。
今リビングでついているテレビの声もある事件を報道している。
最近、この辺りで通り魔事件が相次いでいるそうだ。
これもあったからなのだろう。
「畜生、それにしても暇だ。結局風邪なんて引いてないに等しいじゃないか。何を言ってたんだろうな朝の俺は」
誰もいない部屋で退屈を紛らわすために呟いてみる。
「せっかくの皆勤もこれでパーだ。畜生」
悪態もついてみる。
「退屈だ」
結局、堂々巡りだった。
「昼飯を食わないとな……」
気がつくと、もう二時を回っていた。
自分の部屋から出て、簡単に食事の準備をする。
今家には俺以外誰もいない。(父さんは普通に仕事、母さんは昼からパートに出ている。妹はもちろん学校。)
「まったく、時間の空費というのは有意義な時間の使い方なんだろうか。まぁ、違うとは思うけどな」
作ったチャーハンを食べながら、何の気もなしに外を見つめる。
そうして外を見ていると、チャーハンが食べ終わった頃にどこかに急いで戻っているように凄い勢いで走り抜けていく人影があった。
うちの学校の制服じゃないか。サボりか?
「面白そうだ」
榊原はすぐに着替えると、外へ駆け出した。
その人影に追いつくのには少し時間がかかった。
食べた後だったし。
「おい、何やってんだ?」
話しかけてみる。
「ん? アンタ、確か葛城の席の隣にいた……、なんで私服なんだ? 学校に居たろ?」
「学校? 葛城? 何の話をしてんだ? それより、アンタこそどうし―――――――」
榊原が言葉を言い終わろうとしたときに、ピリッと頭の中に違和感が走った。
何だこの男は?
見たことが……、ある?
デジャビュか?
「ん? 大丈夫か?」
頭を抑えた俺を心配してくれたようだ。
「ちょっと、待て。お前、今、どうして俺に学校に居たなんて言った?」
「おいおい。お前葛城の隣に座って授業受けてただろ? 早退か、サボりか? まさか、今日学校に居た記憶が無いとか言うんじゃないだろうな」
――――――――――記憶が無い?
「俺は、朝から学校に行ってたんだな?」
「お前、頭大丈夫か? 確かに三時間目、俺はお前を見たぞ?」
見ず知らずのこの男に心配されてしまった。
だが、俺は今日ずっと家に居たはず―――――――――――、
居たのか?
よく考えれば、いくら惰性とはいえ朝からずっと今までしてきたことが思い出せないなんて無い筈だ。
なんだこのもやが掛かったような感覚は。
「とにかく、俺は急いでるから。じゃあな」
その男はまた手を振って走り出した。
「俺も、行く」
榊原はその男についていくことにした。
「何で来てんだ?」
「何か、重大なことを忘れている気がする。本当に忘れているのかどうかは定かではないが。お前についていけば、それも解決できるかも知れない」
「そーかよ。じゃ、勝手にしな!!」
そして二人は町中を走り回った。
「あれ、君達何してるの?」
「おいおい、まさか委員長までサボりか……?」
そうして町中を走りまわっている最中、委員長と現川という男に出会った。
男は呆れたような顔をしたが、どうやら目的は一緒のようで共に探すことになった。
「あーちゃんの力によると、この辺りにいるらしいよ」
さて、いざ探そうと走ろうとしたときに、委員長はポケットからこの町の地図を取り出して、あるところを指差した。
「どうして、ここだと思うんだ」
「それは、あーちゃんの力――――――、じゃなくて勘だよ勘!!」
珍しくあの委員長が慌てている。
だが、あーちゃんとは一体誰のことだろうか。
そして、力ってなんだ?
世の中にはまだまだ、俺の知らないことがたくさんって事か。
とりあえず他に探す当てもないので皆指差した場所に向かってみた。
そこでは、とても二人の女子とは思えない戦闘が繰り広げられていた。