第四話:少女は驚きの事実を語り、唖然とする俺。
この話では宗教の話題が出ますが、決して中傷等をしようと思っているわけではありません。
「なぁーーーーーー!!!!」
榊原は思い切り叫んだ。
「それくらい反応してくれると、名乗ったこっちも嬉しい」
少し望月は喜んでいた。
魔法使いなんてありえないことぐらいは高校生なんだから分かってる。
だが、今起きた怪奇現象はどう説明できる?
認めざるを、得ない?
榊原は今起きたことを認めたくないかのように叫んでいた。
「人間って本当に否定が好きなんだよねー。信じられないのは分かるけど、体験しちゃったもんね。言っとくけど、特別サービスだかんね」
「マジで、そうなのかよ……」
榊原は叫ぶのをやめ、今度は口をポカンと開けていた。
「じゃあ分かったところで、記憶を操作させてもらうね」
望月はそこで右手を前に突き出した。
すると一瞬で空中によく分からない文字と記号と図が円状に展開される。
これが世に言う魔方陣だろうか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
両手を挙げて榊原はそれを止めた。
「どうしたの?」
望月がひとまず右手を降ろす。
それと同時にさっきまで展開していた魔方陣も消える。
「一体何がどうなってるんだ? なんで魔法使いのお前がここにいる? さっき言ってた真祖ってのは何なんだ? 窓から飛び降りてまで追いかけなきゃいけない奴なのか?」
榊原の頭は混乱していた。
「どうせ教えても記憶操作で消しちゃうよ? これはルールだから変えられない」
「それでもだ。とにかく、今だけでも教えてくれないか? 世界は、この世の中ってのは、テレビやインターネットだけじゃ知られていない世界があるって事なのか?」
正直榊原はこの事に喜びを感じていた。
記憶を操作されるとはいえ、分かる。
また少し、世界中のことを。
「どうせこの部分の記憶も丸ごと消しちゃうし、いっかなー。分かった、あなたにはご飯のお礼のはた織りのかわりに冥土の土産で教えてあげる」
「殺す気か!?」
そんな土産ならいらない!!
「何言ってるの? 後で記憶は消すけど殺しはしないって」
……また日本語の間違いか。
「とりあえず、私達を目撃した人達とあなたのクラスの人達の記憶はいじっておくね。記憶操作」
望月が今度は右手を空にかざすと、大きな魔方陣が空に展開された。
その魔方陣が光り輝き、その輝きが終わると学校からこちらを覗き込む生徒はいなくなっていた。
「私達が飛び降りた記憶、そして私が教室に行ったこと、ついでに榊原がいない理由も全部変えておいたから」
そのとき、三時間目を告げるチャイムが鳴った。
「何から話したほうがいいのかなー。歴史背景ぐらいから話をするのが、一番分かりやすいかも」
二人は校門を出ながら話を始めた。
「昔々、あるところに不老不死の化物と呼ばれる六人の存在があったそうな」
その口調はやはり日本文化を間違えて取り入れてしまった感たっぷりのものだった。
「って、不老不死!? そんな存在が世の中にはいるのか!?」
「えぇ。悲しいことだけど」
口調が昔々から戻った。
と、そんなことより。
超常的な存在が魔法使いのほかにいたのか……。
魔法を見せられた榊原にとっては、その言葉も嘘ではないだろうと感じた。
「六人は真祖と呼ばれるようになりました。そしてあいつ等は私が属している宗教にとって忌むべき存在だったんです」
それが真祖ってやつなのか。
ちょっと待て。
そんな存在を今まで生活して見逃してたってことなのか!?
ばんなそかな。
「ところで、その巫女ちゃんが属している宗教ってのは?」
一体どんな宗教なんだろうか。
結構マイナーなところだろうか。
「巫女ちゃ……、まあいいわ。私の属している宗教?」
少し顔を赤らめると、淡々とこういった。
「キリスト教」
「あの三大宗教と呼ばれる!?」
まさかそんな名前がここで出てくるとは思わなかった。
「そう。私達キリスト教徒にとってあいつらは殺さなければならない存在。あいつ等は魔術を使い、常人ならざる力をつかい、人々を眷族っていう穢れた存在に変えていくの。眷族って言うのは真祖から不老不死の力と常人では手に入れられないような身体的な力の二つを受け取った者のこと。その、真祖と眷属の暴挙を止めるために日々裏で暗躍しているのが私達、“巡礼する闇を狩る聖女”なの」
つまり、その化物みたいな奴らから人々を守っていると。
ともすればゲーム名とも取られかねないような隊名を冠して戦っているわけだ。
「異常な力を使う敵を相手取るには、私達も対応が必要。だから、色々な手を尽くして奴らとは戦い続けてきたの。キリスト教徒はいわばあいつらと戦うために出来た組織が最初といっても過言じゃないもの。私達の神とされるジーザス=クライストも決して不老不死の化物になどなる気は無いって言って十字架に掛けられたのよ。その結果化物の力を拭い去れる唯一の図形が判明したわけだけど」
魔法を使う相手にはこちらも魔法で対応するって事か。
「でも、おかしくないか? その神は確か三日後に復活するとか」
「そう。ジーザスは替え玉を使ったのよ。さっきの話はほとんど嘘」
「替え玉!? って嘘!?」
「本来十字架に掛けたのは不老不死で眷属の一人。神ってのは臆病だったから、磔で殺されるなんて嫌だったから、それこそ神の様な再生を見せてくれる男に替え玉をしてもらえば、自分を神として偽れると考えたの。そいつは馬鹿だったから容易に捕まえることが出来たそう。で、そいつを殺させようとして死なないって言うのを演出する。ってのが予定だったのよ」
「予定?」
「でも、その十字架に掛けた男は驚くほどあっけなく死んだ。ここで初めてあいつらの弱点の一つが十字架という形だって分かったんだけど。流石にここまであっけなく死んだとなっては、キリスト教の面子が立たなかった。何せ、磔にされてあっけなく死ぬなんて、キリスト教は排斥派からすれば格好のネタだもの。だからこそ、神が自ら十字架に掛けられた、としたの。だから、神は復活して当然なの」
そんな裏話があったのか。
なんか嫌な話だな。
「私は、正直キリスト教とかはどうでも良いの」
急に巫女ちゃんが吐き捨てるような口調になった。
「あいつらを倒せる口実と力さえあればね」
容姿に見合わない口調で容姿に見合わないことを言うと、右手をこちらに向けた。
魔方陣が宙に書き上げられる。
「ちなみに、吸血鬼伝説とかあの辺の西洋の怪物は基本あいつら不老不死の化物共が原因だから。ここまでが全ての物語。さあ、記憶を消されなさい」
「世界は、そんな風に回ってたのか。ありがとう。後、そっちのほうの口調は止めたほうが良いかもな」
榊原は望月の話を途中から黙って聞いていたが、ここで心底満足したような声を出した。
「まったく、不思議な人。余計なお世話。記憶操作」
そして、望月は右手を榊原の頭に押し付けた。