第六話:救出劇、山場。
はい、タイトルの通り山場です。
ジャギィィン! と甲高い金属音がした。
女の子が振り下ろした剣は、横から出てきた二本の鋏によって止められていた。
「あ、あなた……。さっきこの不死者と話していた……」
女の子もいきなりの乱入者に驚いている。
「まったく、途中で何故か見失うわ道を間違うわでマジやばかったっての。後、俺はあなたじゃなくて天草な」
天草は軽口を叩いているが、剣を止める手は力を休めない。
葛城の口調が怪しかったことに気がついた天草は、町中を駆け回っていた。
赤黒ローブの女の子が居たんじゃないだろうか。
天草のその読みは見事に的中していた。
「人払いの魔法を掛けていたはずなのに……」
「人払いの魔法は本当にその者を捜し求めていたなら、そこまでの効果を発揮は出来ないわ。あくまで人払い、認識をずらしたりするだけだから。まぁ、逆に言えば今の今までここに来れなかったんだから、それはそれで十分効果を発揮しているわね」
女の子の疑問に葛城が答えた。
「まぁ、俺はそこで知り合いと訳のわからない男に会ってようやく探し当てただけなんだが……。とにかく、離れやがれ!!」
ガンッとはじき返した。
「まったく、迷惑を掛けたくないのか知らないけどよ。ちったぁ助けくらい求めようぜ?」
「別に私は死んでも良かったからね。」
葛城にとってはなんてことなく言ったつもりだった。
「おい。そんなこというなよ」
だが、天草はその言葉に心底ムカついた。
「死にたいだ? ふざけてんじゃねぇ。生きろ。生き続けろよ。自分で死にたいなんて言うんじゃねぇ!!」
その言葉に葛城は本当に驚いた。
「あなたがそんなこと言うなんてね。近頃話題の通り魔、いや、殺人鬼さんが」
「……、気づいてたのか。」
「そりゃぁ、年長者ですもの」
えっへん、といった風に胸を張る。
気がつくと葛城は黒いコードを破っており、立ち上がっていた。
天草伊織は、殺人鬼だ。
鬼。
人でなし。
「いつからだよ」
「あなたが自己紹介しに来たときかしら。あんな面白い目をしている子だったから」
「それでお前は、自分を刺した男と仲良く話して、自分の秘密まで明かしたってのかよ」
「ええ。面白そうだったから」
葛城は魔女のような微笑を浮かべる。
「まぁ、そこが俺としても気に入ったわけだが」
「え? どういう意味?」
「ちょっと、私を無視してんじゃないわよ!!」
少し向こうで、女の子がこの空気に乗り切れずに叫ぶ。
「もう。私は一般人を巻き込む気は無いの。さっさとどいて欲しいな」
「絶対に嫌だ。惚れた女見捨てて逃げろってか!」
「えっ……?」
天草の叫びに一番驚いたのは葛城だった。
あれ?
今まででこんな風になったことってあったっけ?
心が乱される。
おかしい。
こんなただの男に?
「なら、あなたを無視するまで!」
女の子は剣を振り降ろす。
天草はその斬撃を両手に持った鋏で受け止める。
だが、炎が天草の下を通り葛城の下へと向かう。
そしてそのまま葛城に炎が直撃した。
「なっ!? なんで避けないんだ!?」
天草も驚く。
だが、炎が直撃しても葛城は立っていた。
その顔は何かほかの事を考えているような。
目の前の状況なんてどうでも良いかのような。
「……? 訳がわからないけれど……。死ね」
またも剣を振りかぶる。
「なぁ!! シスターさんよ! この戦いをやめてはくれないのか!」
天草はこの恨みに燃えている彼女を倒す、殺したくは無かった。
天草が殺すのは、生を謳歌していない者に限る。
生きながら死んでいるかのような。
そんな者に。
この女の子はそんなことは無く、燃えていた。
そして葛城はその逆、殺すには格好の的だった。
だからこそ、刺した。
あの日、あの道で。
だが、あの時異変が起きた。
刺した包丁についた血があまりにも綺麗過ぎる。
そして服についていた血がすべて空中を飛んで戻っていっている。
不思議に思って着ていた服を少し変えて戻ってみたら、あの状況、再生していた状況だったというわけだった。
「絶対に無理ね」
聖女はそう冷たく言い放った。
「葛城はここで平和に生きようとしているんだ! 眷属も作らないそうだ! だから――――――」
「不死者は全員悪よ。あなたもこんな女にだまされてないでさっさとどきなさい」
女の子はそう切り捨てると、剣を振り上げた。
もちろん斬撃が飛ぶ。
だが、その残撃は今度は不思議な軌道を描いた。
天草を避けるようにし、後ろへ向かった。
その先には、葛城。
「……! 手前!!」
女の子の考えが分かり、全速力で後ろに下がる。
葛城はまだ何かほかの事を考えているようで、まったく斬撃など気にしていない。
間に合うか?
そんなことを考えていたら助けられない。
天草は驚異的な脚力を見せ、無心で葛城を押し倒すように庇い、
ズパンと背中から斬撃を受け斬られた。
次が最終話です!!