第二話:雪月花、発見。
「見たわね」
彼女は俺を睨みながらそういった。
もう彼女の腹部に刺し傷は無い。
何も無かったかのような気分にさせられる。
「戦争を――――――」
「おーい、お前ら大丈夫か!」
彼女が何か言いかけたところで、向こうから男女二人組が走ってきた。
「なあお前ら、ここに怪しいやつとか来なかったか? って、ん?」
「どうしたの、あーちゃん」
「いや、俺が“視た”のは彼女なんだが、別段何も無いようだな……」
そこにいたのは委員長と……、現川とかいうやつか。
「どうしたんだよ、委員長」
いきなりここに現れた二人に少し驚く。
「何も無いなら別に良いんだ。済まなかったな」
現川が天草の質問にあいまいに答えると、手を振ると二人は去って行った。
「あの二人なんだったんだろうな」
「今はそんなことどうでも良いわ」
彼女はまたこっちを睨んで来た。
「今起こったことを忘れなさい。じゃないと、ろくな事にならないわよ」
「今起こったって……、委員長と後一人が来たってことか?」
「それじゃないわよ!! 今さっきアンタは見たでしょうが!! 私の戻ってる所を!!」
彼女はすごいツッコミ口調で返してくれた。
あ、なんか面白いな。
「あれは手品だったの。そう、手品よ」
「へー、そーなのかー」
「絶対信じてないでしょうが!!」
「とにかく、忘れること。良いわね!!」
そう叫ぶと彼女は足早にその場を去って行った。
10月23日(火)
よし。
あの娘を探そう。
昨日出会った彼女の忠告などまるで無視し、天草は彼女を探すことにした。
彼女が着ていた服は間之崎の制服。
ということはこの学校内に居る確立は大だ。
そして、意外と早く見つかった。
彼女は1年4組の端の席に静かに佇んでいた。
「よっ」
「あのね、私あなたに忘れろって言ったわよね。言ったはずよ」
彼女はプルプルと震えながら答えた。
「いやいや、あんな超衝撃的な出会いしたのにまだ自己紹介してなかっただろ? 俺は天草伊織。1年1組だ」
「あなたふざけてるの? ねえ、そうなの?」
「別にふざけてなんかいないさ。で、あなたの名前はなんですか?」
「……。馬鹿にしているのね。そうなのね!!」
「別に馬鹿になんかしてないさ。で、あなたの名前はなんですか?」
「言ってることがテープレコーダー化してるわよ……。もう……。私は葛城志野。はい、これでいい?」
「なんかつまんないね。まぁ良いけどさ」
「見ぃつけた♪」
天草と葛城の漫才のような会話を遮るように、幼い女の子の声が聞こえた。
その女の子は教室の扉の辺りに居て、赤に少し黒を足したような神官的な人が着るような凄く長いローブを着ていた。
背は小さく、まるでそのローブに着られているような感覚を受ける女の子だった。
「あの化物女、もうここを突き止めたって言うの!?」
その女の子を見て、あきらかに焦燥した表情になる葛城。
「化物女?」
まったく化物に見えないんだが。
天草は葛城の言っている意味が分からなかった。
クラスの誰かの妹でも紛れ込んだのだろうか。
そう考えていた。
「真祖さん、倒させてもらいますっ! って、あれ? さっきまでここに居たのに……」
その女の子は首をかしげている。
葛城はその女の子を見た瞬間から移動していた。
葛城はすばやく窓を開けると、飛び降りた。
「って、え!?」
天草が下を見ると、それでも元気そうに校門へ走っていく葛城。
どうやらまったく怪我をしていないようだった。