第六話:執事之話。
「咲乃さん、零次坊ちゃんをよろしく頼みます」
「え!?」
急にお父さんみたいな口調で話しかけてきた。
っていうか普通逆じゃない!?
「零次坊ちゃんは昔からお金持ちだということで悩んでいらっしゃいました。普通の人からは考えられないでしょうが」
そして、卯月さんは語り始めた。
「よくドラマ等でもあるように、ぼっちゃんの居る世界というのはドロドロとしているものでございます。そんな中で育った零次坊ちゃんは、人をあまり信用できなくなったのでございます」
成程、よくありそうな話だ。
「ですが誤解しないで欲しいのが、坊ちゃんは本当にお金持ちとは思えないほどいい性格に育ちました。決して驕らず、人のことを考える」
確かにそれは分かってる。
そういうところも好きなところの一つだ。
「そこでぼっちゃんはせめて普通の生活はしたいと自分がお金持ちだということを隠したのでございます」
やっぱりそうだったのか。
でも、だったらどうして文化祭のときは……。
「じゃあ、どうして、」
「どうして文化祭の時には車を呼んで一緒に帰ったのか、ということですね」
先を読んだように卯月さんは続ける。
「どうでしょう、話した方が良いのでしょうか……。まあ、これもぼっちゃんのためだと思いましょう。久遠坊ちゃんは高校に入ってから、ある人の話ばかりしていました」
「ある人」
気になる含ませ方ね。
「ここから先はぼっちゃんに口止めされているので言えませんね」
気になるところで止められた。
ぼっちゃんー。
「とりあえず私の言いたいことは、ぼっちゃんが金持ちだからといって自ら身を引くことは無い、ということですね。青春なんだから、当たってみればいかがですか?」
「な、何を急に!?」
どうやらこの執事さん、何もかも分かっているようだった。
「10月の27日はぼっちゃんの誕生日、ということは知っていますね?」
「え、ええ」
そこで変な作戦を火音が思いついたのだ。
「招待状を渡しておきます」
そう言って懐から一つの封筒を取り出した。
「こ、これは……」
それを渡された。
「来るときはこの招待状を見せてください。それだけで通してくれるはずです。出過ぎた真似とは思いますが、ご了承いただけますでしょうか?」
「べ、別に良いですけど……」
まさかこんな展開になるとは思っていなかった。
「車は準備いたしましょうか?」
「そ、そこまでしなくても大丈夫です!」
またあの車が来たらうちの家族が騒いじゃうからね。
「あなたを私も応援いたしましょう。この日は人払いをしておきますから、何でもして構いませんよ」
「何でもってそんな!?」
そういった直後、車が止まった。
そして扉を開けてもらい、(開けようとしたらそれより早く卯月さんに開けられた。流石執事さん。)
私は家に帰った。
まああんな凄い車で帰っちゃったからまた家族に囃し立てられたけど。
さあ勝負、かな……。
さて、次が最終話ですー。