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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ここはなにかが欠けている

流血都市のつまらない試合

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/14

都市国家同盟のひとつ、通称『流血都市』。

他の都市国家同様に小国であるが、大きな特徴がある国家である。

国営闘技場が存在し、毎日のように賭け試合が行われている事だ。

この国では国家運営資金の大半を闘技場関係で稼ぎ出している。


人間同士、人間対魔獣が互いの生命を賭けた戦闘に観客は熱狂し、

試合毎に多額の掛け金が飛び交っている。


例え人間同士の戦闘でも、激しさは魔獣相手に引けを取らない。

この試合では魔術付与武器を使った戦闘も全く珍しくはないのだ。

幸か不幸か『迷宮都市』が近接地に存在している為に、

闘士達の中にも魔術付与武器持ちが数多く在籍する。


闘士達の出自は、実に多彩である。


何かしら犯罪を犯して捕縛され、戦闘奴隷となった者。

借金を返し切れず、賞金目当てで戦いに身を投じる者。

腕自慢が自身の力を試すため、進んで闘士となった者。

かつて某国の騎士だったが、逃げ延び流れ着いた者。


命のやり取りに快楽を見出した者。



「お前さんの初試合は希望通り『殺戮者』に決まったとさ。

 運のないこった。初試合が最後の試合になっちまうとは」


特に秀でたところもなさそうな、小柄な男に闘技場職員は告げる。

『殺戮者』と二つ名のついた対戦相手は、負けなしなだけでなく、

対戦した者を全員無残な肉塊へ変えて無縁墓地に直行させた。

肉塊になった中にはかつての闘技場の王者も、魔剣持ちもいる。

『殺戮者』は相手から奪った魔剣を現在愛用していた。


対してこの小柄な男、持ち込んだ武器は一本の短剣である。

相手の魔剣は身の丈ほどの大剣、仮に短剣の方も魔剣であっても、

武器の大きさとしては圧倒的に不利だろう。

体格だって場数だって差がありすぎる。

投げつけたところで届くまい。


職員の言葉を聞いても、この男は怯えるような素振りもない。

単に鈍いのか、試合の行く先を最初から諦めているのか。

男が一言つぶやいた。


「賭けの倍率は?」


職員は呆れて返す。こいつ、何を気に掛けているんだ。


「知らねえよ。大体ロクに賭けにならねえっての。

 お前さんに賭けてるとしたらよほどの大穴狙いだけだ。

 大体この試合は『殺戮者』の次の試合の前座なんだよ」


つまりこの試合、残酷な見世物を披露し盛り上げようという事だ。

運営側は決まった結果の為にこの試合を組んでいる。


「そうか、賭けにならないか」


そう返すと、男は再び黙り込んて、もう口を開かなかった。



試合結果は予想を覆すものではなかった。ただの一撃。

小柄な男も短剣を構えていたが『殺戮者』に袈裟斬りにされた。

短剣と大剣では間合いが違いすぎる。至極当然の結果だろう。

『殺戮者』のそれが魔剣でなくとも変わらなかったに違いない。


短剣を取り落とし、血液と肉片をまき散らして崩れ落ちる男。

興奮した観客の歓声に包まれながら『殺戮者』はただ立っていた。

『殺戮者』の戦闘を見慣れた者達には違和感を覚える者もいたが、

大番狂わせがあった訳でもない、別に賭けで損はしていないのだ。

ほんのわずかな違いは、すぐさま忘れ去られた。


袈裟斬りにされた男はしばらくの間息があった。

「な…なんで」と言っていたが、聞いていたのは『殺戮者』のみ。

『殺戮者』は魔剣を背中に納めて男に近付いていく。


「心残りがないよう、召される前に教えておいてやろう。

 『俺』が持っていた短剣、あれも実は魔術がかかっていてな。

 『持ち主に致命傷を与えた相手と入れ替わる』効果がある。

 前々からあんたの身体が欲しかった…いや、もう『俺』のだが。

 これからは思う存分、この身体と魔剣で殺し合いが出来る」


『殺戮者』は「男」にだけ聞こえるように話すと、短剣を拾う。

「男」は意識が遠退き、もはや声も出せない。


『殺戮者』はそれを見届けると、凄まじい笑顔で微笑んだ。

短剣の銘は「仮宿」。

相手の身に付いた技術はそのままで、魂魄だけ入れ替わってます。

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