流血都市のつまらない試合
都市国家同盟のひとつ、通称『流血都市』。
他の都市国家同様に小国であるが、大きな特徴がある国家である。
国営闘技場が存在し、毎日のように賭け試合が行われている事だ。
この国では国家運営資金の大半を闘技場関係で稼ぎ出している。
人間同士、人間対魔獣が互いの生命を賭けた戦闘に観客は熱狂し、
試合毎に多額の掛け金が飛び交っている。
例え人間同士の戦闘でも、激しさは魔獣相手に引けを取らない。
この試合では魔術付与武器を使った戦闘も全く珍しくはないのだ。
幸か不幸か『迷宮都市』が近接地に存在している為に、
闘士達の中にも魔術付与武器持ちが数多く在籍する。
闘士達の出自は、実に多彩である。
何かしら犯罪を犯して捕縛され、戦闘奴隷となった者。
借金を返し切れず、賞金目当てで戦いに身を投じる者。
腕自慢が自身の力を試すため、進んで闘士となった者。
かつて某国の騎士だったが、逃げ延び流れ着いた者。
命のやり取りに快楽を見出した者。
◆
「お前さんの初試合は希望通り『殺戮者』に決まったとさ。
運のないこった。初試合が最後の試合になっちまうとは」
特に秀でたところもなさそうな、小柄な男に闘技場職員は告げる。
『殺戮者』と二つ名のついた対戦相手は、負けなしなだけでなく、
対戦した者を全員無残な肉塊へ変えて無縁墓地に直行させた。
肉塊になった中にはかつての闘技場の王者も、魔剣持ちもいる。
『殺戮者』は相手から奪った魔剣を現在愛用していた。
対してこの小柄な男、持ち込んだ武器は一本の短剣である。
相手の魔剣は身の丈ほどの大剣、仮に短剣の方も魔剣であっても、
武器の大きさとしては圧倒的に不利だろう。
体格だって場数だって差がありすぎる。
投げつけたところで届くまい。
職員の言葉を聞いても、この男は怯えるような素振りもない。
単に鈍いのか、試合の行く先を最初から諦めているのか。
男が一言つぶやいた。
「賭けの倍率は?」
職員は呆れて返す。こいつ、何を気に掛けているんだ。
「知らねえよ。大体ロクに賭けにならねえっての。
お前さんに賭けてるとしたらよほどの大穴狙いだけだ。
大体この試合は『殺戮者』の次の試合の前座なんだよ」
つまりこの試合、残酷な見世物を披露し盛り上げようという事だ。
運営側は決まった結果の為にこの試合を組んでいる。
「そうか、賭けにならないか」
そう返すと、男は再び黙り込んて、もう口を開かなかった。
◆
試合結果は予想を覆すものではなかった。ただの一撃。
小柄な男も短剣を構えていたが『殺戮者』に袈裟斬りにされた。
短剣と大剣では間合いが違いすぎる。至極当然の結果だろう。
『殺戮者』のそれが魔剣でなくとも変わらなかったに違いない。
短剣を取り落とし、血液と肉片をまき散らして崩れ落ちる男。
興奮した観客の歓声に包まれながら『殺戮者』はただ立っていた。
『殺戮者』の戦闘を見慣れた者達には違和感を覚える者もいたが、
大番狂わせがあった訳でもない、別に賭けで損はしていないのだ。
ほんのわずかな違いは、すぐさま忘れ去られた。
袈裟斬りにされた男はしばらくの間息があった。
「な…なんで」と言っていたが、聞いていたのは『殺戮者』のみ。
『殺戮者』は魔剣を背中に納めて男に近付いていく。
「心残りがないよう、召される前に教えておいてやろう。
『俺』が持っていた短剣、あれも実は魔術がかかっていてな。
『持ち主に致命傷を与えた相手と入れ替わる』効果がある。
前々からあんたの身体が欲しかった…いや、もう『俺』のだが。
これからは思う存分、この身体と魔剣で殺し合いが出来る」
『殺戮者』は「男」にだけ聞こえるように話すと、短剣を拾う。
「男」は意識が遠退き、もはや声も出せない。
『殺戮者』はそれを見届けると、凄まじい笑顔で微笑んだ。
短剣の銘は「仮宿」。
相手の身に付いた技術はそのままで、魂魄だけ入れ替わってます。




