第54話 妖精の秘密
「ここも酷い有様だ……」
沈痛な面持ちで呟く精霊王子。
「本来なら妖精が舞う桃源郷のように美しい場所なのだ」
悔しそうに精霊王子が呟いた。
それからしばし、精霊王子は無言で荒れ果てた山林を見渡していた。
その視線にアッシュの姿が入った。
「ん? 彼は何をしているのだ?」
精霊王子が首を傾げた。
さっきまで横にいたはず。いつの間にかあんなところまで行ったのか。
「そう言えばレディもいませんね」
姫騎士アテナが精霊王子の横に立って言う。
「あそこです」
指差しながら言ったのは魔眼のソフィアだ。
確かにソフィアが指差す先に、レディと不思議な格好の亜人たちが行列を作って練り歩いていた。
リン
リン
リン
亜人たちは、手に持った鈴を鳴らし、3歩進んで一礼、3歩進んで一礼を繰り返している。
レディと猫獣人が先導している。
「アッシュを中心に、円を作っているようですね」
聖女マリアが言う。
「アッシュの奴、また掃除をやり始めたぞ。あの辺りを清めるつもりか」
剣鬼ライド。
「また妙なことを始めやがって」
ギネスが悪態をついた。
「うむ。面白そうだ。世も行こう」
躊躇いなく魔道王子バインドはそう言うとアッシュの元に走って行く。
「あ、わたくしも」
すぐに聖女マリアが後を追う。
それに習うように、皆が走り出す。
一人、精霊王子だけが取り残された。
クラスメイトたちは、アッシュの周りに走り寄ると3歩進んで一礼、3歩進んで一礼を始めた。
ギネスは目を怒らせて「なんで俺まで……」などと愚痴っているが根が真面目な彼は人一倍丁寧にお辞儀を繰り返していた。
精霊王子は少し離れた場所から全体を見渡す。
今までなりをひそめていた下級妖精たちが空から舞い降りてくるのに気付き精霊王子は驚愕する。
妖精は、キラキラした粉を撒き散らしている。
アッシュは空中に何かを書いているようだった。
「模様か?」
精霊王子が呟く。
アッシュの周りに集まったクラスメイトたちがアッシュの仕草を真似て一礼の後に空中に何かの記号を描き始めた。
豚と桜の記号だ。
するとみるみる妖精の数が増えていく。
精霊王子ははっと空を見上げた。
「そうか。妖精とは魔法その物なのだな。最初からそこにいるのではない。
ああ、森が、林が浄化されて行く……」
精霊王子は目に涙をためて呟いた。
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