第43話 一触即発
ここは戦場の最前線。
「待て! 待て! 動くな! 動いちゃならんぞ!」
聖騎士団長が叫ぶ。
騎士団長が叫ぶ度に、整列する聖騎士団の戦列がフラフラと前後に揺れる。
戦列が揺れる度に、武王軍が前に出たり退いたりしているのが見える。
さらにそれに合わせるように、魔導国の砲列の向が右から左に変わる。
戦場は混乱を極めていた。
誰かが仕掛ければ、それに呼応して、少しでも弱いところに仕掛ようと待ち構えていた。
誰かがやられれば一緒になって叩き潰そうと、手ぐすねを引いて待ち構えていた。
誰かが動いたらその隙を狙おうと皆が相手を出し抜くことに躍起になっていた。
「三すくみ」
バインドがその状況を一言で言い表した。
「気を引き締めろ。油断するな」
前線の士官が叫ぶ。
バインドは大きく息を吐き出した。
「これはいつ戦いが始まってもおかしくないな」
魔導王子が結論をくだす。
王子の護衛の兵士達が頷いた。
「武王が始めた戦争だろうが、お前達が動かないと何も始まらない。終わりもしないぞ」
バインドは遥かな彼方の丘に翻るローデン王国旗を睨みつけるように言う。
彼の見るローデン王国軍にも彼のよく知るクラスメイトがいるのかもしれない。
───騎士姫、剣鬼、お前らだけは死ぬなよ。活躍もするな。俺が殺しちまうぞ。
そっとピンク色の魔導砲を見るバインドだった。
☆★☆
【アッシュサイド】
アッシュはとある方向をじっと見て佇んでいる。
その姿をレディが咎める。
「アッシュ様、何を?」
彼の前には小さな醜い老人が立っており、アッシュはその老人に頭を下げているのだ。
レディは青筋を立てて怒りを露わにして聞いている。
「こんにちは、おじいさん。良い天気ですね」
アッシュはレディの怒りを無視するように老人に挨拶をする。
老人はニコニコと笑みを浮かべる。
「おう。礼儀正しい子だな」
おじいさんが言う。
「おじいさんは、ここにずっと立っていたね。村を守護しているの?」
アッシュが尋ねた。
「そうさの。村はもう無いがな」
「でもおじいさんがいるから、村は魔物から守られているんだよ」
アッシュが言う。
「そうさの。でも誰もいない村を守るのは意味がないかもな」
「おじいさんのおかげで、助かった人たちがいるよ。長い間ありがとう」
アッシュがもう一度深く頭をさげる。
「お主はあちらを浄化して回っているようだの。
なぜだ?」
「汚れているからね」
アッシュが答えた。
「なら、村も浄化してくれんか?」
老人が懇願するように言う。
「いいよ。だからもう大丈夫だよ」
アッシュがそう言うと老人は穏やかに笑いアッシュを真似るように礼をする。
アッシュも礼を返してから歩きだした。
直ぐに村だった場所に入る。
残るのは、石垣と屋根の落ちた壁。
そこには古い昔、村があったのかもしれない。
アッシュは深く頭をさげる。
それは何に対する礼なのか。
アッシュはその場にしゃがみこむと、石垣の岩に浄化のマークを刻んだ。
その作業が終わると後ろを振り向く。
老人の姿は無く、老人が立っていたところには一本の桜の木が出現していた。
桜の木に向かって子猫のミイちゃんがミイと鳴いている。
アッシュはニッコリと笑うとレディを連れて歩き出した。
「アッシュ様。私には何も見えなかったんですが、何かいたのですか?」
レディが不思議そうに聞く。
「さあ。気のせいかな」
アッシュの答えを聞いてレディは首を振っていた。
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