第38話 レンレンのセハ
第38話 レンレンのセハ
「綺麗だね」
アッシュはその子を見た瞬間にそう呟き、レディにギロリと睨まれる。
アッシュが綺麗と言ったのは紫の羽を生やした生き物だ。
ふわふわと空中に浮かぶ様はとても美しい。
「あはは、お前たちは何者?」
その紫の羽の生えた生き物は、なんとも陽気に尋ねた。
「俺はアッシュ。この子はミイ。そして彼女はレディ」
「なんで私がミイよりも後なのです?」
レディが激しく抗議する。
「あははは。なんか面白い取り合わせだ。魔力が変に歪んでいるね」
その紫色の生き物が言う。
「僕はレンレン族のセハ。村は結界で守られているはずなのにどうやって入ったの?」
「セハ。ごめんよ。俺にはその結界とか効かないんだ。それよりも君たちはいつもそうやって空中に漂っているの?」
興味津々と言うようにアッシュが尋ねる。
「そうだよ。雨の時だけ木の下に停まる。それ以外はこうして漂っているよ」
なんとも不思議な生き物だ。
「実はお願いがあるんだ」
アッシュが言う。
「なに?」
「君たちはあまり感じないのかもだけど、ここはとても汚れているんだよ。」
アッシュがそう言うとセハは、ピタリと止まる。
「汚れている?」
「ごめんよ。貶しに来たんじゃないんだよ。
原因は、この結界なんだよ。魔力の残滓がずっと出続けるから、村全体がとても汚れちゃうんだよ」
セハはこのアッシュの説明に目を丸くして驚いている。
「魔法の残滓が多くなるとどうなるの?」
突然のアッシュの話だが、セハは柔軟な生き物のようで穏やかに聞き返す。
「空気も土も汚染されて人が住めなくなっちゃう。病が横行し、咳が止まらなくなるよ」
アッシュのこの説明にセハはぴくりと反応した。可愛らしい驚き方だ。
「アッシュ君。着いて来て」
セハは何か思いついたのかそう言うと先導して漂っていく。
「あれは魔法的に飛んでいるんだ」
アッシュが言う。
「レンレン族は重さを操ります」
レディが答えた。
「へえ、重力魔法か、凄いな」
アッシュが感心する。
☆★☆
アッシュが連れられてきたのは巨大な木の下だ。
大勢のレンレン族が木の下にぶら下がっている。
「世界樹です、こんなところに。
ですがとても小さいです」
レディが魔法の書架から得た情報を説明する。
「ああ。あれは魔力の残滓を分解しきれずに苦しんでいるね」
アッシュが言う。
「なるほど。さすが我が王」
レディが目を丸くして感嘆する。
アッシュはレディの賞賛など気にも止めずに世界樹と、その下にぶら下がっているレンレン族を観察しているようだ。
「アッシュ様、様子が変ですね」
レディが言う。
「ああ、セハちゃん。あの人たちは病気のようだね」
大勢のレンレン族が木にしがみつきながら咳をしているのだ。
「うん。咳が酷くなると落ちて死ぬ。
長老も、大勢の大人達もみんな落ちて死んだ」
セハが悲しそう言う。
アッシュは真顔で頷く。
「昨日も、ルンさんと、リール君が落ちた。僕が木の上に置いて天に召したよ」
アッシュは眉を顰める。
「直ぐに掃除をしなきゃ」
アッシュが言う。
☆★☆
村人が総出で掃除が進む。
レンレン族が出したゴミをまとめて地中に埋める。
「こうすると自然がゴミを分解するよ」
アッシュがセハに説明する。
村の汚染は結界魔法による魔力残滓だけではない。
魔法をうまく操るレンレン族は様々な生活用品を魔法によって調達するが、それらが残るとただ捨ててしまう。
そんなゴミが村を覆うように腐臭を漂わせているのだ。
「アッシュ様。ゴミは燃やす方が早いのでは?」
レディが不思議そうに尋ねた。
「そうだね。でも魔法で燃やすとまた残滓が出るでしょ。
レンレン族は魔法がうますぎるから自然の炎での焼却なんて思い付きもしないだろうしね。
それに森の民は火を嫌うかもだし」
アッシュは世界樹を眺めて言う。
村の掃除が終わると最後にアッシュは、世界樹の大きな幹に手彫りを始める。
「その木は鉄より硬いよ。落書きなんてできないよ」
レンレン族のセハが言いながらアッシュの手元を覗き込んだ。
「え?」
セハが驚きの声をあげた。
幹に確かにアッシュが模様を刻んでいたからだ。
豚の鼻のマークに桜の花びらのマーク。
「豚と花のマーク。浄化のシンボルだよ」
ミイ
アッシュ達の背後で猫が鳴く。
レディが振り向いてミイを見た。
「ふん」
レディは鼻を鳴らしながら首を振る。
ミイも、同じ動作をする。
その時、世界樹の木の下に止まっていたレンレン族達が降りて来た。
真っ先に降りてきたレンレン族は見るからにセハよりも大きい。
「急に息が楽になった。君たちのおかげか?」
「そうなの。良かったね」
アッシュがとても嬉しそうに言った。
次々にレンレン族が降りてくる。
「ありがとう。とても楽」
「息ができる。咳が止まったよ」
レンレン族達が次々に喜びの声を上げる。
☆★☆
「アッシュ君。村に住まないか?」
セハが真剣な表情で頼んだ。
「ありがとう。でも旅を続けるよ」
アッシュが答えた。
「どうして?」
「世界中に俺の魔法を届けたいんだよ」
アッシュが言う。
「アッシュ君の魔法?」
「そう。この豚と花。これは浄化のシンボルだけど、お掃除の魔法も、ゴミの魔法もね」
「お掃除の魔法。雑巾で汚れたところを拭くこと?」
「そうだよ。汚いところは磨かないと。
ゴミもポイ捨てしちゃダメだしね」
「それは魔法なの?」
セハが尋ねた。
「それだけじゃ魔法にならないよ。
汚いところを綺麗にすると神様が宿るんだよ。
物にもおんなじだよ。
大切に使った物には感謝を込めて埋めるんだよ。
そうしたらきっと素敵な魔法になるよ」
アッシュが説明する。
キョトンとした表情でセハは笑う。
「面白い。アッシュの魔法って変」
「レンレン族。生意気」
レディが鋭い目付きをして言う。
セハが怖がって高く舞いあがある。
「じゃあ、俺たちはそろそろ行くよ」
アッシュはそう言うと、レディを伴って歩き始めた。
「ミイ、おいで」
アッシュが猫を呼ぶ。
しかしミイは走り去る。
「あはは。またどっかに行っちゃったね」
アッシュはそう言いながらレディを伴って歩き去る。
☆★☆
「レンレン族。聞け!」
世界樹の下で一人の獣人が現れて演説を始める。
村に桜が生えて満開の花を咲かせ、美しい花びらが村を覆う。
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