第34話 小人族の村
アッシュがローデン王国の王都を出た時、彼の目の前の空気が歪み人の形になっていく。
それはレディの姿となる。
「レディ、学園に残らないの? あそこはレディの故郷のようなものじゃないの?」
「いいえ。私の故郷はアッシュ様です。私はアッシュ様から離れません」
「そっか。じゃあ一緒に行こうか」
アッシュはそう言うと歩き出した。
「レディはハイエルフの国の行き方が分かる?」
「はい。分かります」
「助かった」
アッシュは嬉しそうだ。
☆★☆
「レディ。ここはどの辺かな?」
とある場所でアッシュが尋ねた。
「ここは特殊な空間ですね。結界が張られていたようです」
レディが周囲を見渡しながら言った。
ミィ
猫の鳴き声。
アッシュはその鳴き声に釣られて歩き出す。
「あ、アッシュ様。お待ちを、この辺りは空間が不安定ですから、私から離れないでください」
レディはそう言うとアッシュの二の腕を掴んだ。
しばらく歩くと人家が見えてきた。
ほっと一息つくアッシュだ。
しかし、様子がおかしい。
「小さくない?」
家がだ。
アッシュの頭の高さくらいしか無い家だ。
「小屋?」
では無い。
小さいがしっかりと作られた家屋だ。
ぼんやり見ているとドアが開き一人の子供が出てきた。
いや子供でない。
「あれ? 貴方は小人さん?」
アッシュが思わず尋ねた。
「ひゃっ!」
ドアから出てきた人が飛び上がるように驚く。
「あ、ごめんよ。怖がらせちゃった?」
小人は慌ててアッシュの足元に飛び込むように土下座した。
「これは名のある大魔術師様とお見受けいたします。どうか私達の村を滅ぼさないでください」
叫ぶように言うとその小人は地面に額を何度もぶつける。
慌ててアッシュが小人の動きを止めた。
「無茶したらダメだよ。額に血が出てるじゃないか」
アッシュはそう叫びながら必死で止める。
「いいえ。私など。それよりも村をどうか破壊しないでください」
哀願するように言う。
「小人族! 黙れ。ご主人様が困っている」
水晶の化身レディが強く言う。
慌てて小人は凍りついたように停止した。
☆★☆
「私は小人族のポクル」
「小人族? レディは知っているかい?」
アッシュが尋ねた。
「小人族は、世界中に100種以上が生息している。ポクルの特徴から北部レノア丘陵地域にいた種族と思われる」
レディが解説した。
ポクルはレディの言葉を目を大きくして聞いている。
「確かにひいじい様からレノア丘陵の話は聞いたことがあります」
ポクルはおずおずと話す。
「レディさんや。その情報はどのようにして?」
アッシュがレディに尋ねた。
「はい。学園から離れると私は、別の存在になったようです」
と、いきなり変な話を始めるレディだ。
「え? 学園なら離れたってやっぱりそんなに意味のあることだったの?」
アッシュが心配そうに尋ねた。
「はい。私は魔道具の水晶を通してアッシュ様を観測する特異点でしたが、現状は実体を持つ半生命体になりました」
なんでもないように答えるレディ。
しかし内容がとんでもない。
「それって、レディは元々水晶の化身じゃなくて、俺を観測する装置みたいな物だったけど、学園から離れるために生命体になったってこと?」
アッシュが尋ねた。
「さすが我が王。見事な解説です」
目を大きく見開いて驚くレディだ。
「なんでそんな反応なの?」
「王は、いつもそうです。僅かな事象だけからその背後の莫大な本質を通暁される。真の天才」
「だから、やめてね。話を元にもどそうね。
それよりレディは元々は何だったの?」
「元々の私がどのような存在だったのか……よく分かりません。しかしアッシュ様が先程仰られた観測装置。とても私のことをよく言い表せていました。
私は何者かの一部であり観測装置でした」
レディの言葉にアッシュは首をひねる。
「レディはレディ。いつもの自然現象と一緒ってことでいいよね」
アッシュが尋ねた。
「もちろんです」
レディが答えた。
「それで、レディってさ、今までと何かが変わるのかな?」
「はい。子供が産めます」
「人間じゃん!」
驚くアッシュ。
「いいえ。機能はそうですが私は人間ではありません」
「じゃぁなんなの?」
「人造人間?」
「なんか俺がレディを作ったみたいに言ってるよ?」
「この現象はそうとしか捉えようがありません。アッシュ様は私の創造主です」
「やめて、頭が混乱する。なんかとんでもないことが……」
「それに私は、魔法の書架から様々な情報を得ることができます。先程、ポクルの種族についての情報は書架から得たものです」
「しょか」
「あの、そこそんな駄洒落、言うとこですか?」
放っておかれた小人族のポクルが絶賛突っ込んでいた。
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