第31話 武王の決断
第31話 武王の決断(校正了)
「アテナ殿下、宮殿に至急帰参するようにとのことです」
シア王女と精霊王子が帰国するためクラスメイト達が集まっていたのだが、そこに緊急の呼び出しだ。
「すまぬ。シア王女殿、リアル精霊王子殿。また会える日を楽しみにしている」
姫騎士アテナが言う。
「アテナ殿下。わたくしも必ずここに帰って参ります。まだ殿下とは決着がついておりませんから」
シア王女が穏やかに言う。声と裏腹に目は笑っていない。
「勝負は、お預けだな」
姫騎士アテナが笑いながら言う。
アテナは笑いながら教室を去って行った。
誰もが、アテナ王女は直ぐに学園に戻ると思っている。
シア王女はアッシュの前に立つ。
「アッシュ様は、ハイエルフの里に興味はありませんか?」
シアの質問にアッシュはニッコリと微笑む。
「一度見てみたいと思っているよ」
「では一緒にわたくしと見に行かれませんか?」
恥ずかしいのか、少し俯き加減に、シア王女は上目遣いになってアッシュを見つめる。
「行きたい」
アッシュが言う。
一瞬、シアの顔が花が咲いたように明るくなる。
すいっと精霊王子が、二人の間に割って入る。
「アッシュ君。姫がワガママを言って済まない」
精霊王子の顔はいつも通り穏やかなままだ。
「え? そうなの。一緒に行っても良いよ?」
アッシュの返事はズレている。
「ありがとう。でも姫のワガママはそれだけでは無いのだ。君のその純真な気持ちに私は救われる。ありがとう」
精霊王子が手を出して言う。
アッシュはその手を取って握手をした。
「では、シア王女。行きますよ」
「あ、ちょっと待って」
アッシュがシアに言う。
「はい」
シアは顔を輝かせ、嬉しそうにアッシュに近付いた。
「これを」
アッシュが何かを手渡す。
シアがそれを受け取って見る。
それは可愛らしい豚の人形だ。
「これは?」
シアが尋ねた。
「ちょっと作ったんだ。お守りって言って、それを持っていると守ってくれるんだよ」
アッシュが説明した。
「この背中のは桜の花びらなんですか?」
シアが尋ねた。
豚がピンク色のベールを羽織っている。
「可愛らしいです。アッシュ様だと思って大切にします」
シア王女が嬉しそうに胸に抱く。名残惜しそうにアッシュを何度も見るシア。
アッシュはその度にニッコリと微笑みを返した。
精霊王子はそんなシア王女を伴って教室を出て行く。
「アッシュ。俺も宮殿に来いってさ」
剣鬼ライドが笑いながらそう伝えて教室を走り出て行く。
「寂しくなります」
聖女マリアが笑いながら言う。
☆★☆
ローデン王国の宮殿では武王を前に姫騎士アテナと剣鬼ライドが膝を突いていた。
「アテナ、ライド。お前達学生にこのような命令を出すのは申し訳無く思うが、学園に行くことを禁ずる」
姫騎士と剣鬼の肩がぴくりと動く。
「戦争だ。出陣の準備をしろ」
そんな二人に武王は言葉短く命令を下した。
二人は平伏して拝命した。
次の日、武王は魔導国との国境に大軍を急襲させる。
それは肉を切らせて骨を断つ。相手の国力を削ぐことを目的とした戦いだ。
それに呼応するようにセレン神聖国も国境の軍を東に動かした。
世界が怒涛のように変化し始めている。
☆★☆
「ギネス様。聖王様からの召喚状が……」
聖女マリアが幼馴染に呟いた。
「知っています。ローデン王国が進軍を始めました。昨夜、魔導王子も緊急で帰国したようです。
国境が閉鎖されないうちに帰国せよとのことでしょう」
ギネスが言う。
「はい。承知しています。あの……また帰って来られるでしょうか?」
そう尋ねる聖女の声はか細い。
ギネスは首を曖昧に振る。
「帰って来られると良いですね」
幼馴染の願いが叶うことは彼には辛いことだが、否定することができないほどに敬愛している。
聖女は、アッシュに向かって一歩前に出た。
その姿をギネスはただ見守るしか無い。
聖女がアッシュに向かって話しかける。
アッシュは少し驚くがいつもの笑顔を向けて両手をあげた。
何を言っているのか。
ギネスは首をひねり、手に持った自分への召喚状を握りしめて歩き始めた。
彼が向かう先は学園長の部屋。
☆★☆
「すると君は、アッシュ君が意図的に魔法陣を変えていると?」
学園長が尋ねた。
「はい。彼は本物の天才です。恐らく魔法に関するとんでもない理論が奴の頭にある。
しかし、奴は意図的にそれをぼやかしているのです。
奴の行動、奴の仕組んだ出来事、全ては先程説明した通りです。
この世界戦争は奴が裏で画策した結果です。
そんな奴を学園は放置するのですか?」
ギネスは淡々と事実だけを述べる。
「君の今までの話の中で、今回の主張が一番、説得力があるな」
大賢者マリウスはそう言うと頷いた。
「良いだろう。査問委員会を招集しよう。君達は急いで国に帰りたまえ」
「そうします。聖女に奴のそんな姿は見せたくありません」
ギネスはそれだけ言う。
「君は、少し老成し過ぎだな。正々堂々と戦う方が良い結果となる場合もあるぞ」
「ありがとうございます。しかし私のことなどどうでも良いのです」
その言葉にマリウスは頷かざるを得なかった。
ギネスの去ったドアを見ながらマリウスは呟く。
「くそ! 子供達は、こんな時代には必要以上に大人になっちまう。やりきれんな」
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