第24話 王族の責任
「武王陛下、誰一人外に出さないのですか?」
姫騎士アテナが叫ぶ。
「そうだ。人の子一人出してはならぬ。全てを焼き払え」
武王はいっそう低い声でそう告げた。
アテナは、黙って父王を見る。
武王はそれ以上なにも言わずに頭を下げた。
アテナは出そうになった否定の言葉を飲み込んだ。
しばらく彼女はその姿勢のまま武王を見ていたが静かに頭を下げた。
「承知しました。
王命拝命いたします」
短い答え。
しかしその声はしっかりしていた。
武王はそれ以上語らず、娘も黙ってその場を去る。
武王は娘の背中を黙って見送るのだった。
☆★☆
「武王様。本当にアテナ姫にあのような過酷な命令を課して良かったのですか?」
重臣の一人が尋ねた。
「病の終息の為とはいえ、国民を犠牲にするのだ、身を切らねば示しがつかぬ。
アテナは出家させる」
「あまりに不憫です」
「やむを得ぬとはいえ、痛みを分かち合う象徴が必要だ。
アテナは人気者だ。だからこそ適任なのだ」
沈痛な表情で武王が言う。
☆★☆
「お前たちは、国を守るために命をかけると約束する益荒男だ。
下町に疫病が発生した。疫病は広がる前に駆除すれば心配することはない。
下町は閉鎖し、何人も取り逃すことを許さぬ」
アテナは、整列する兵に叫ぶ。
「しかし、健康そうな子供が出てきたらいかがするのです?」
アテナは強く頷いた。
「その時は私の前に連れてこい。私自らが天国に送ってやる。
良いか?
たとえ一人でも情けをかければ国が滅ぶかもしれぬのだ。
心を鬼にせよ!
不安な者はここに残れ!
国の為に国民の大勢のために、阿修羅となれる者のみ付いて参れ!」
アテナが怒号する。
絶叫のような叫び声が答えた。
近衛第1騎士団。
精鋭中の精鋭だ。
一騎当千の強者が集まるエリート達だ。
武王は彼らにこの過酷な命令を下した。
誰一人、脱落する者はいなかった。
なぜなら彼らを指揮するのは姫騎士アテナだったからだ。
見事な隊列をしき、騎士団は下町を包囲した。
何事かと顔を出す者達は、血相を変えて睨む近衛騎士団を見て蒼白になる。
「誰一人、出すな!」
アテナが叫ぶ。
下町の住民がゾロゾロとやって来て騎士団の前に勢揃いした。
「止まれ、王命をくだす」
アテナが叫ぶ。
不安そうにした下町の住人は、顔を見合わせてヒソヒソと話している。
「私は、アテナ第1王女である。貴様らに王命を伝える。
その場に跪け」
アテナの気迫に飛び上がるほどに驚き慌てて下町の人々はその場にうずくまった。
「よし、お前たちは我がローデン王国の大切な国民である。
今現在、この下町から疫病が発生した。
国王は疫病の完全撲滅のためにお前たち感染者と現場を焼却処分することを決められた。
王命によりお前たちを処分する。大人しくその場に控えていろ」
アテナはそれだけいうと、剣を鞘から抜き、天にかざした。
剣を持つ手からは汗が流れ落ちて来そうだ。かつて無い不安定感に歯を噛み締めて柄を握りしめる。
「お前たちだけを見殺しにはせぬ。私もすぐに後を追うと約束する。冥途で待て!
騎士団、防御体制!」
アテナが叫ぶと騎士団がざっと大きな盾を前に出して一列に並ぶ。
下町の人々はアテナの言葉がよく理解できず呆然と騎士団の動きを見ている。
「うわ!」
誰かが叫んで後ろに向かって走り出す。
それが合図だったかのように、人々が我れ先に逃げ出した。
アテナは目が張り裂けるように睨みつけながら、剣を高く掲げた。
剣先に魔力が集中する。
「ドラグスレーザー」
高らかに魔法名を唱える。剣先の魔力が爆発し、下町の民衆を飲み込んで広がっていく。
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その頃、アッシュは掃除が終わり椅子に座ってのんびりしていた。
どこかから悲鳴が聞こえ、なんだろうとアッシュはそちらに視線を向けた。
人々が我先にアッシュの寛ぐ方に必死に走ってくる。更に向こうには巨大な光が広がっていく。
「お兄ちゃん。怖い」
アッシュと一緒に掃除をしていた男の子がアッシュに掴まりながら言った。
「ああ、なんか騒がしいな」
アッシュはここでようやく立ち上がった。
アテナの放った広域殲滅魔法が町を飲み込もうとしていた。
「ああ、あれは不発になるから安心しな」
アッシュが男の子の頭を撫でながら言う。
その言葉が終わる瞬間、魔法が町に着弾した。
しかし、魔法は町に当たると光が降臨する。
見るとアッシュと少年達が一生懸命に掃除した区域からその光が発せられている。
街全体を覆う瘴気のような汚れが四散していく。
「おお、見な、町が綺麗になっていくよ。もう安心だ」
アッシュが嬉しそうに少年に言った。
☆★☆
「お母さん。ミイちゃんが起きたよ」
「え?」
驚いて娘の方に視線を向けた瞬間、全身を温かい何かが通り過ぎる。
「あ」
悲嘆に涙していた母は死んだはずの娘と今にも死にそうな娘が元気に立ちあがる奇跡に息をのんだ。




