第23話 絶望は、綺麗にしたよ
「お母さん。ミイちゃんが起きないの」
泣きながらミイちゃんを抱き上げる娘を見つめていた母は、そっと娘たちを抱きしめる。
「ミイちゃん眠っちゃったみたいね。お母さんが楽園に連れて行ってあげるからね」
そう言う母もまた涙を抑えきれない。
母は、無言で暗い部屋を見渡した。
何も無い。
その小さな空間はそのまま闇に沈んでいくかのように暗く小さかった。
☆★☆
豪華な金箔に彩られる背もたれに身を預ける武王は配下の顔を無表情に見つめていた。
配下は青ざめた顔で武王の前に膝をつきながら報告する。
「陛下。下町で疫病が……」
その一言で武王が目を見開く。身じろぎし、また背もたれにもたれかかる。
「焼き払うしか方法は無いのか?」
重低音の声が部屋に響く。
重臣は、何か言おうとして果たせず、ただ沈痛な表情で頷くしかなかった。
武王は無意識に首を左右に振る。
手を膝に擦り付けて天井に視線を向ける。
そしてようやく一言述べた。
「住民を移動させてはどうか?」
重臣は、武王の言葉を受けると僅かに頭を下げてから首をゆっくりと左右に振った。
「第28代賢王の治世で……」
重臣は、そこまでしか説明しなかった。
武王が項垂れる。
「少しだけ様子を……」
「陛下。疫病が広がらないうちに……」
武王は黙って頷いた。
☆★☆
王都の立派な外壁の外側に、無秩序に広がるバラックの群。止むことのない様々な生活音が溢れている。
「お兄ちゃん、今日も掃除?」
子供の出す甲高い声。
「ああ、気持ちいいだろ?」
アッシュが言う。
「うん。町が綺麗になったってお父さんが言ってた」
少年が嬉しそうに答えた。
「そうだね。隠蔽魔法などは本質を変えない。掃除は本当に綺麗になる。気持ちいいだろ?」
「うん」
二人が掃除している側に一人の婦人がやってくる。
「おばちゃんも一緒にやっていいかい?」
アッシュは振り向く。
「やってみる?」
☆★☆
その頃、エバンス学園のSクラスで、剣鬼ライドは教壇に立ってクラスを睨み回していた。
「アッシュがまた変なこと始めたんぞ」
剣鬼が話し始めた。
「なに? なに?」
商人の息子エディが聞き返す。
「そうじ、だ」
「「「そうじ?」」」
クラスの皆が聞き返す。
「ああ、俺はすこぶる調子が良い。そのおかげで俺はなんでも切れるようになった」
剣鬼が吠える。
「「「なんでも切れる?」」」
クラスの全員が聞き返した。
「ああ。俺はアッシュの教えに従って、部屋中を掃除しまくった。そしたら体調がすこぶる良いんだ。
お前たちもやれ!
剣の修行になる」
「「「は?」」」
クラスメイト達がずっこける。
「まぁ、これを見ろ」
剣鬼は布を取り出す。
「掃除とは、清い心を込めて、世界を清める儀式だ。俺はそう解釈している。
やるぞ見ていろ」
剣鬼は無類の身体能力を発揮して教室を拭き清め始めた。
最初は興味本意で見ていたクラスメイトも逐次変化する教室の様子に興味津々だ。
「昔は魔法が今ほど発達していなかったから、こうして世界を清めていたんだ。効果てきめんだぞ」
みるみるうちに教室の埃っぽさが消える。
剣鬼はアッシュに教えてもらった通り窓を開き外の空気を取り込む。
「あ、精霊が訪れる」
ハイエルフの王女シアが叫ぶ。
「精霊は清い場所が好きだからな」
精霊王子が呟いた。
「あ、わたくしもそれをさせて頂いても?」
最初にそう申し出たのは聖女だった。
次々に剣鬼の掃除を手伝い始めるクラスメイト達。
穏やかな春風が自然に教室に流れ込んでくる。
ハイエルフのシア王女が気持ちよさそうに風に長い髪をたなびかせていた。
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