第一話「ようこそ、魔導抜刀隊5課へ」
この日は、警視庁 魔導抜刀隊の入隊式が
執り行われる日だった。
「や、やばい!遅刻だ!しまった!」
黒色の隊服に身を包み、
魔導抜刀隊の紋章があしらわれている
制帽を被った若き男が一人、
警視庁本部庁舎の廊下をバタバタと
走っていた。
そう、
この日の入隊式に、遅れてしまったのだ。
「ったくここ広すぎないか!?」
と、文句を言いながら会場まで走っていた。
「貴殿らは、これから我が国の公序良俗の為―」
ドガァァン!
警視庁の長官による任命式の言葉の最中で、大扉が勢いよく開かれる音が響き渡る。
そしてそこにいたのは、
ゼェハァ肩で呼吸をする一人の青年だった。
「申し訳ございません!新入隊員
神崎ハルカ!定刻より5分の遅刻をいたしました、申し訳ございませんでした!」
しばしの沈黙ののち、ざわめきが
起こる。
無理もない。初日から遅刻など、
ありえないからだ。
普通なら懲戒されてもおかしくない。
「全員静まりたまえ。」
警視庁長官の一声により場に静寂が訪れた。
「神崎ハルカ巡査。即刻、
列に並びたまえ」
「は、はい!」
その日の入隊式、及びに任命式は
無事に終わった…一応。
長官にのちにこっぴどく叱られたが
学生時代遅刻をする事がなかった故、
よほどのことがあったのだろうと言う事で今回は情状酌量の余地をくれた。
「あーあ、よかった…長官には咎められたけど…なんとか乗り越えた…」
とぼとぼと、庁舎の廊下を
ハルカは一人歩いていた。
彼は警察学校でも
遅刻したことがなかった。
故に、まぁ大分落ち込んでいた。
「あっはは!マジで
おもろいやつだぜお前さん!」
「え…?」
後ろを向くと、そこには金髪のチャラそうな男がいた。同じ制服を着ている。
思い出した。彼は任命式で隣にいた……
それだけじゃない。教室は違ったが、
警察学校時代そして、異能警察学校時代
名は確か……
「俺は丸目眞琴。よろしゅう。」
「丸目眞琴!確かあんたは、熊本で
剣道の全国優勝経験を持つ…凄腕剣士」
丸目眞琴。
彼は剣道大会でいくつもの賞を総なめにしてきた稀代の剣豪。
そして、…兵法タイ捨流の使い手
「おう、そうだ
そこまで知ってるなら、俺が兵法タイ捨流ん使い手なんも知てるな?」
「もちろん!噂には聞いていたよ!」
なんとこんなところで会えるとは
と言うか、異能警察学校に行っていたら
ほぼ確定も同然だが……
「そんなら話は早い!
神崎ハルカ。アンタは神影流の使い手だったか?居合かなんかの試合をしてたよな、確か。」
そう、かく言う俺も神影流の居合術や
抜刀術を納めた剣士だ。
残念ながら剣道はしていなかったが、
抜刀術の試合でたまたま剣道大会も
同会場で行われていた時があった。
その時に彼、丸目眞琴を見かけたことがあったのだ。
彼も認知していたらしい。
「おっと、悪い、引き留めちまったな。
じゃ、神崎、達者でな」
「丸目もな!」
配属する課に挨拶をしに行かなければならないので、俺たちはここで解散をした。
さて、丸目眞琴の配属先は、
魔導抜刀隊1課という、超エリート部隊らしいが……俺はと言うと…
魔導抜刀隊5課。
噂によるとめちゃくちゃ変な人が
課長で、しかもその人一人だけらしい。
と聞いたことがあった。
なぜそこに配属になったのだろうか…
わからない。全くわからない。
____
「魔導抜刀隊第五課…ここか…」
M.B.S.第5課。そう書かれた表札のある部屋の扉をノックした
すると中から、女性の「入っていいよー」と言う声が聞こえてくる。
「し、失礼します!」
ガチャリとドアを開け、
中に入ると、それはそれは、
まるで地獄のような
景色が広がっていた。
服は脱ぎ散らかり、物は散乱。
歩けないほどではないが。
「部屋きったな!!」
思わずそう叫ぶほどのごちゃつき具合だった。例えるなら
学校の理科室の準備室。
なんかよくわからん物品が散見しているあの感じ。……
「もー、全く失礼な新人くんだこと…
私の生活力に文句かー?」
と、声のした方を見ると、これまた驚愕した。抜刀隊の制服のジャケットは着ているが、その下は……
灰色のスポブラとショーツだけ。
あまりにもだらしない。
と言うかここって庁舎内の部屋だよな?
いいのかそんな格好して…
「あの、すみません、貴女が課長さん…であってますかね?」
「えー?そうだよ。私が魔導抜刀隊5課
課長の染谷 饗科…よろしゅー」
なるほど…確かにこれは……
「変人っすね」
「何ィ?変人だとコラァ〜
私は変人ではない!自分がしたい格好をしているだけだー」
いや、変人というよりも痴女と言った方が正しいか……しかし、
仮にも公序良俗を守る人がこんな格好でよろしいわけがない。
「あの、染谷課長!お言葉ですが
ちゃんと制服は着た方がいいかと!」
「あ?」
灰色の眼光が俺を捉える。
ギラついてて怖い……
なんでそんなキレるんだ?
「はー、めんどくさい…任務じゃないんだし、部屋ん中だし、いいでしょー?」
「へ?」
任務じゃないんだしいいでしょ?
部屋の中だしいいでしょ?
いや、なんだその言い訳というか、
理由づけは
「神崎ハルカだよね君。噂に聞いてるよー?任命式、遅れたそうじゃんか。」
「え?まぁ、その、はい。」
いきなりなんの話をし出すんだこの人は。話題を逸らすとか警察がやっていいことかよ。なんて思っていたら次に飛んできた言葉はもっと酷かった、
「じゃあ同じ穴の狢じゃん
ウチらだらしな組!そりゃ5課に配属されらーよ!」
「ふざけないでください!俺は遅刻したかったわけじゃ!」
「はいはい、御託はいいから。
てか、気に入らないなら出てっていいよ。ウチはウチのやり方があるからね」
そんな言い方をされて、負けず嫌いなところがある俺は、かなりカチンときた。
「望むところっすよ…染谷課長…
この刀に誓って、俺はあんたのやり方に喰らいつくっす」
染谷課長は、こちらを睨む。
鋭い眼光で見定めるかのように。
そして、暫く睨んでから、
目を閉じて、すぐに笑顔になっていた。
「ごーかく!!君いい目をしてるね!」
「はぇ?」
ごーかく?合格?なに、どういう事?
「いやー!度胸あるねぇ!
私のやり方があるって言ったら大体離れてっちゃうもんねぇ!やっと現れたよ私の運命!君こそが5課に相応しい!」
「あ、はい、どもっす…」
なんだなんだ?なんなんだ?この人。
さっきまでは演技で試してたってことか?意味がわからない。
そんなふうにハルカの頭の中は混乱に包まれている。
「いやー!ようこそ!魔導抜刀隊5課へ!まぁ、メンバーは私と神崎君の二人しかいないけどね!」
なんだこの人、ほんとにキャラがブレブレというか、コロコロ変わるというか
なんか掴みどころがない……
でも一貫して…露出魔の変人だこの人。
「あ、そうそう、君ってさ、家事できる?」
「え、まぁ、出来ますけど…寮暮らし長かったんで…」
「やたっ!じゃあ片付けとかお願い!」
「はー!?!?」
こうして俺は、魔導抜刀隊5課に配属することになった。
が、課長の染谷饗科のお世話係も兼任することになった。
なぜだ。




