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振り返ると、そこには息を切らした勇也が膝を抱えて苦しそうに息を整えていた。
「何でいるの?みんなと行ったんじゃないの?」
「行かねぇよ。お前こそ、送っていくって言っておいただろ」
「いや、どう考えても三次会行く雰囲気だったじゃん」
むしろ、あの状態でよく抜け出せたなとすら思う。
「俺はお前に会いたくて来たんだよ」
「え?」
「また、挨拶もなしに姿を消すつもりか?」
そんなつもりはなかったが、そう言われると辛い。
「それに、まだ答えを聞いてねぇ」
「なんの?」
「付き合ってるヤツいんのか?」
「はあ?」
三次会を蹴って、息を切らしてまで追いかけて来た理由がそれ?
「なに?そんなくだらない事を聞く為にここまで来たの?」
「くだらなくねぇよ!」
呆れながら聞き返す紗千香に、勇也は苛立ったように声を荒らげた。
すぐにハッと我に返ったようで「すまん」と謝ってきたが、驚きで胸が張り詰めたようにドキドキと脈打っている。
「えっと……付き合ってる人はいない」
「本当か!?」
「でも、好きな人……は、いる……」
顔を赤らめ、小さな声で呟いた。
一瞬、顔を輝かせた勇也も、その言葉に顔が曇り眉間に皺を寄せている。
「それって、例の憧れの人か?」
「……うん」
小さく頷く紗千香を見て、勇也はグッと拳を強く握りしめた。その目は悲しそうで悔しそうで、今にも泣きだしそうな様子に自然と勇也の方に手が伸びる。
すぐにパシッと伸ばした手を掴まれた。
「なぁ、俺じゃ駄目か?」
「は?」
「俺は──」
勇也が何かを伝えようとした時『もしも~し!』と紗千香の手元から声が聞こえた。それは握りしめているスマホから聞こえる。
『もしもし!?紗千香ちゃん!?大丈夫!?』
「仲佐さん!?」
どうやら通話ボタンを押してしまっていたようで、しっかり繋がっていた。ご丁寧にスピーカまでオンになった状態で……
『ああ、良かった。同窓会はどうだった?』
いつもと変わらないトーンに変らない声色。この声を聞くだけで笑顔になれる。この関係が壊れるのが本気で怖い。
(……あれ?ちょっと待って。仲佐さんって、どこから聞いてた……?)
最初から繋がっていたとしたら?好きな人のくだりから全部筒抜け?
(……)
一瞬で紗千香の顔色が変わった。
『あれ?紗千香ちゃん?』
「あの、仲佐さん……」
どこから聞いてました?と問いかけようとしたら、横から勇也にスマホを奪われた。
「ちょっと!返してよ!」
手を伸ばし取り返そうとするが、身長差がありすぎて手が届かない。こんな時、低身長なのが憎くて仕方ない。
地面を蹴り、何度もジャンプして取り返そうとする紗千香を軽くあしらいながら、勇也はスマホを耳に当てた。
「あ~、初めまして。紗千香の幼馴染の三須勇也です。今から宣戦布告していいすか?」
「ちょっ!」
なに勝手なこと言っちゃってんの!と止めに入るが、勇也は全くの無視。
『へぇ、紗千香ちゃんに幼馴染がいるなんて初めて知ったな。……俺は仲佐皓也。紗千香ちゃんの先輩声優ってところかな』
「そんなことはどうだっていいんすよ。よく聞いていてくださいよ」
勇也は息を深く吸い込み、スマホを握り締めた。
「憧れだかなんだか知りませんけど、紗千香はあんたには渡さない。絶対に」
『ふ~ん……?』
不敵な笑みを浮かべながら仲佐を牽制する勇也。紗千香の方は仲佐が変な誤解をしたんじゃないかと、内心気が気じゃない。
「ちなみに、今日は紗千香は帰らせないから」
「はぁ!?」
話があらぬ方向に向かいだし、流石に声を荒らげた。
「いい加減にしてよ!仲佐さんに変な誤解されるじゃない!」
「お前こそ、いい加減にしろよ!」
「な!」
私の気持ちを知っていてこの仕打ちは許せないと、言い返そうとしたが、勇也の表情を見たらそんな言葉も忘れてしまった。
初めて見るその表情は悲痛に歪み、見ているこちらまで心臓が抉られそうだった。
「……好きなんだよ……ずっと……お前の事が……」
「──え?」
真っ赤な顔をしながら肩を掴まれ、真っ直ぐな瞳で言われた。その目に嘘はない。そんな目で見つめられたらどうしていいか分からない。ドキドキと、どちらの心臓の音か分からないほど鳴っている。
いつから?ずっと?だって、勇也とは中学以来会ってない……もしかして、その当時から?
(というか、返事……)
伝えなきゃ。ごめんなさいって……そうは思っているけど、声が出ない。
『盛り上がってるとこ悪いけど、いくらなんでも急すぎないかい?再会当日に告白はないでしょ。紗千香ちゃん困らせるだけだよ?』
仲佐さんが私の思っていることを代弁してくれた。
「俺だって、言うつもり無かったよ!あんたみたいなのがいなきゃな!」
『あ~、それはごめんね?……でも、それって負け認めてるようなもんじゃない?』
「ッ!!」
痛い所を突かれたのか、悔しそうに目を伏せている。
『紗千香ちゃん』
「は、はい!」
電話越しだと言うのに名前を呼ばれた瞬間、背筋を伸ばして返事を返した。
『駅に着いたら連絡して。迎えに行く』
「いえ、タクシーで帰るんで大丈夫ですよ?」
残すは終電のみ。帰る頃には深夜を回ってる。それに、私の帰る場所は──……
『紗千香。……いいね?』
腹に響くような低い声。初めて『紗千香』と呼ばれた。嬉しい半面、怖さもある。
反論することは許されず、従うしかなかった。




