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その声、独り占めしてもいいですか?  作者: 甘寧


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 同窓会の会場はホテルのお手頃なホールを貸し切って行われた。

 久しぶりに会う級友は、大人びて雰囲気が様変わりしていたり、結婚して子連れで参加していたり、それぞれが今を楽しく過ごしているのがよく分かった。


 会話も弾み、あっという間に時間が過ぎて行った。


「紗千香はこの後どうする?二次会行くでしょ?」


 二次会組と帰宅組と分かれているようで、紗千香も二次会に誘われていた。


「ん~」


 まだ話し足りない気もするが、勇也との約束もあって行くのを躊躇っている。


 まあ、勇也が勝手に決めた事であって、私が気にする必要はないんだけど……と、考えていると手にしていたスマホが鳴った。画面には『勇也』の名前。随分と早い連絡に驚きつつ、通話ボタンを押した。


『あ、オレオレ!今どこ?』


 開口一番、新た手の詐欺のような早口で捲し立てられた。


「今ちょうど二次会行こうか話してた所」

『ふ~ん。何処でやる?俺も行くわ』

「え!?」

『場所、送っといて』


 言うだけ言って電話を切られた。


 あまりの強引さに「は?」と理解が追いつかない。昔から強引な所はあったが、ここまで酷かった訳じゃない。


 流石にフツフツと苛立ちが湧いてくる。



 ***



 二次会はクラスメイトの実家である居酒屋。既に出来上がっている者もいて、他の客に迷惑がかからないかと心配になったが、大将が気を使って貸切にしてくれていた。


「久しぶり」

「お!来たな!」


 軽快な声と共に入ってきたのは勇也。その姿を見て、その場は俄然盛り上がり、一瞬の内に囲まれていた。


 強引に肩を組まれ、迷惑そうに顔を歪めているが、内心は喜んでいるのをみんな知ってる。昔に返ったような光景に、懐かしさで顔が綻ぶ。


「よ、飲んでるか?」


 グラスを手にした勇也が隣に座って来た。


「相変わらずの人気ぶりで」

「まあな」


 自慢気に口角を吊り上げてきた。謙遜も否定もしない、清々しい程の自信。


「今は何の仕事してるの?」

「あ?ああ、普通に営業マンだよ」

「ふ~ん……」


 それにしては身につけてるものが上等じゃないか?と思うが、年収を聞くほど野暮じゃない。いくら幼馴染でも聞いていい事と悪いことの判別は付いている。


「あれ?紗千香知らないの?コイツ、商社マンよ?」

「え!?」


 隣から思わぬ答えが飛んできて驚いた。


「この中で一番の稼ぎ頭よ?ほら見てよ、独身の子が目血走ってるでしょ?」


 そう言われて周りを見ると、恐ろしい程に目を光らせた女性陣が獲物(勇也)を捉えていた。


(こっわ……)


 これは敵認識されたら面倒なやつだと、笑顔が引き攣る。できれば今すぐにでもこの席を立ちたいが、勇也が無言の圧力をかけていて席が立てない。


「そういえば、紗千香は声優やってんだろ?」

「え!あ、そ、そうなの」


 周りの視線なんて気にならないのか普通に話しかけてくる。


「どうだ?」

「う、うん。大変なこともあるけど、楽しいよ」

「憧れの人とも会えたか?」

「!!」


 口に運ぼうとしていた唐揚げが箸から転げ落ちた。


「なんだ?憧れの人に会うために声優になったんじゃないのか?」

「いやその通りなんだけど……」


 あれ?私、勇也に話した事あったっけ?


「正直、俺の前から黙っていなくなったのは許せなかったけど、自分の夢に向かっているお前を止める権利はないからな。でも、元気そうでよかったよ」

「勇也……」


 昔と変わらぬ笑顔を向けられ、黙って地元を出てしまった事を悔いた。話そうと思えば話せた。電話やメールでも伝えることは出来た。家だって知っているわけだから、ポストに手紙を残す事だって……


 それをしなかったのは私。どこかで、否定されるのが怖かったのかもしれない。『お前なんかが声優になれやしない』って言われたら、決意が揺らぎそうだったからかもしれない。


「ごめん。本当はずっと謝らないとって思ってた」


 目を伏せ、自分の手を握りながら伝えた。……ようやく伝えられた。


 少しの沈黙の後、ポンと頭に手を置かれた。


「酒の席で辛気臭い顔するなよ。俺だって連絡しようと思えば連絡できた。それを知っていてしなかった俺も同罪だろ?」

「それは……」


 そうだけど。と言いかけてやめた。


「俺らも若かったって事で、どっちもどっちさ。今更昔の事掘り返したって仕方ないだろ?」


 グラスを向けながら言われた。紗千香は「そうね」と微笑みながら向けられたグラスに自分のグラスを合わせた。


「じゃあ昔の事は忘れるとして現在()の話をしようぜ」

「今?」

「彼氏はいるのか?」

「は!?」


「またそんな冗談」と返そうとしたが、勇也の真剣な表情に言葉が詰まった。ドキドキと心臓の音が耳に届く。


『彼氏』と聞かれて、ほんの一瞬だけ仲佐さんの顔が浮かんだ。そもそも仲佐さんは彼氏なんかじゃない。ただ、私が想っているだけ。一瞬でも彼氏だと頭が認識しまって申し訳なく思ってる。


「どうなんだよ。いるのか?」

「えっと……」


 紗千香が返事をしようとした時


「はぁい!そろそろ二次会はお開き!三次会行く人~!」


 感じの声が響き、会費を払った者から外へ出て行く。紗千香も外へ出ると、先に出ていた勇也は三次会へ行く人達に囲まれていた。あれはもう三次会強制参加だなと苦い笑みを浮かべた。


「紗千香はどうする?」


 幹事の一人に声をかけられた。


「私はもう帰るよ。まだ電車あるし」

「そう?今日はありがとうね。楽しかった!」

「私も楽しかったよ。またね!」


 手を振り、その場を後にした。


 駅に向かいながらカバンからスマホを取り出した。すると、着信とメールが大量に届いていた。


「うわ、誰?……え?」


 見ると全部仲佐さんからだった。


『同窓会ってどこで?』

『何時に終わる?』

『今どこ?迎えに行く』

『いつでもいい。連絡して』


 そんなメールが大量に届いていた。流石に無視することが出来ず、掛けなそうとボタンに指を置いた。


「紗千香!」

「ん?」


 名前を呼ばれ振り返ると、息を切らした勇也がそこにいた。




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