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人気アニメの秘密

 皆さんは『おっと!せいイチくん!!』をご存じだろうか?


 『おっと!せいイチくん!!』は1983年から86年にかけて教育テレビで放映された短編アニメーション作品である。放送日時は毎週月曜から金曜(木曜日を除く)の 16:15~16:30 で、ちょっとオトボケなオットセイの男の子、せいイチくんとゆかいな仲間たちが様々な事件や問題に直面するも、持ち前の明るさで何とかしていくという明るい雰囲気の作品である。


 視聴率的には特筆するほどではないが、当時の子供たちを中心にある程度の人気を見せ、様々なグッズ展開もされたという。あなたも、赤い帽子と青いオーバーオールを身に着けたオトボケ顔のオットセイに見覚えがあるのではなかろうか?


 もし、ほんの僅かでもせいイチくんを見たような気がしたなら、気を付けた方がいい。


 実は『おっと!せいイチくん!!』なる番組は存在しない。


 某インターネット掲示板上で、とあるコミュニティによって熱心に語られているが、世界中のどこにもそのような番組が放送された記録が無いのだ。存在しない番組について語り合う集団がなぜ存在するのか疑問に感じた都市伝説研究家でもある作家・野宮浩氏は独自の調査により最初の一人にたどり着いたという。


 氏によれば、事の発端は1998年、当時大学生だった一人の青年によるいたずらだったという。


 彼は大学に心理学の授業で『人間は指導的な立場の人間からの十分な刷り込みがあれば捏造された記憶を生成しうる』ということを学び、その日のうちに高校生だった彼の弟に対して実験を行ったのだという。

 

 彼は『おっと!せいイチくん!!』なる実在しないアニメの思い出を弟に語り、「あんなに好きだったアニメを覚えていないのか?」と、何度も問いかけた。実験を三日ほど続けると弟は次第にせいイチくんについて『思い出し』始めた。実験の成功である。


 彼の実験に一つ問題があったとすれば、種明かしをしなかったことである。彼は弟に対して『おっと!せいイチくん!!』が架空の作品である旨を伝えず放置してしまった。それゆえ、彼の弟は思い出した作品について学校の友人たちに語った。話を聞かされた友人たちもせいイチくんを思い出し、さらに他者に語るということを繰り返し、思い出した者たちはネズミ算式に増えたと推測される。


 さらに数年後にはインターネットが流行し始めたため、思い出した者のうちの誰かが掲示板に書き込み、記憶を捏造された者が爆発的に増えたとみられる。


 野宮氏は、自身も複数の知人に対してせいイチくんの話をし、経過を観察するという実験を行っている。それによれば思い出した者にはいくつかの共通する特徴がみられるという。


・せいイチくんについて思い出すのはおよそ5人に1人。


・思い出した直後は捏造された記憶であるため、各人ごとに内容が異なるが、思い出した者同士でせいイチくんについて語り合ううちに内容が一致していき、お互いに新しいことを思い出し始める。(野宮氏はこの現象について、自身のブログで『深化』と呼んでいる)


・そのためか、深化した者はほぼ全員がせいイチくんについて語り合うことを好むようになる。


・さらなる深化を求めてか、まだ思い出していない者にも思い出すように頻繁に促すようになる。


・せいイチくんが放送されていたとされる時期に既に成人済みで、放送時間は勤務中あったはずの高齢者や、放送時期にはまだ生まれていなかったはずの21世紀生まれの若者たちの中にも思い出した者が同じ割合で現れる。

 彼らは一様に「放送時はテレビにかじりついて観ていた」と主張するようになる。


・ある程度以上に深化したものにせいイチくんの最終回について水を向けると奇声を上げる、蹲る、動悸がするなどPTSDにも似た症状が現れるようになる。


 以上の常の特徴を持った人物たちが、野宮氏が調査を行った2018年時点で相当数存在してした。

 

 ネット掲示板ではせいイチくん関連のスレッドが常時複数存在しており、有志による専用のwikiや思い出した者が順次埋めていく形式の各話のサブタイトルやあらすじを記したスプレッドシートなどが存在していた。


 当時品のビデオやグッズを探そうという試みも活発であり、地方の古いビデオ店や中古ショップへの遠征を報告する書き込みも多い。どうも彼らはビデオやグッズの現物が存在しなくても、せいイチくんの存在を疑うことはないようである。


 更なる追跡調査が期待されるが、肝心の野宮氏が研究を打ち切り、唯一結果を掲載していた自身のブログも2020年に閉鎖してしまったため、せいイチくん関連の研究にアクセスする方法は現在存在しない。


 研究を打ち切った理由を尋ねられた野宮氏はこう答えたそうである。


「思い出したから」


 『おっと!せいイチくん!!』とは一体何だったのであろうか。


(追記)

 2025年現在、ネット上で確認できるせいイチくん関連の活動の中で、最もアクティブなものは「せいイチくんの最終回をファンの手で作り直す」クラウドファンディングである。


 2000万円を目標に始まったプランであるが、現在1000人以上の協賛者が集まり、目標金額の8割を達成している。アメリカの心理学者ロフタス氏によれば、虚偽の記憶は外傷的であるほど定着しやすい可能性があるというが、せいイチくんの最終回はどれほど恐ろしい内容だったのであろうか?

 この物語はフィクションです。

 この話で得た知識を事実かのように吹聴した場合、あなたは恥をかく可能性があります。


 もっと悪い場合はフィクションでなくなります。ご注意を。

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