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笑い殯という奇習について

 ――とある館に収められた無数の報告書。そこに記されていたのは信じがたい奇怪な物語。真実は一体何なのだろうか――


 短編ホラーをオムニバス式に書いていきたいと思います。

今後は怪奇に出会い次第、不定期で交信する予定です。

 もがりとは日本における古い葬送儀礼の1つである。人が亡くなった後、本葬儀の準備が済むまでの間に行われるもので、今日における通夜の原型であると考えられている。


 殯が行われる目的や由来については諸説あり、学術的な見解が統一されているわけではない。だが、有力な説の1つに『死を確認するため』というものがある。


 現代のように医学が発展していない時代では危篤状態になった者の生死を見分けるのは難しい。埋葬後に息を吹き返した、などという『早すぎた埋葬』の逸話は時代や場所を問わず世界中で見られる。そういった問題を避けるために殯は行われるのだという説だ。


 遺族や関係者たちが遺体を見守り、本当に死んでいるのかを確認する。そうして本当に死んでいた場合にのみ本葬儀を行う、というのがこの説での考え方である。この説ならば、身分の高いものほど殯の期間が長いことにも説明がつく。古代の天皇、皇族などの殯は一年以上続くことなど珍しくはない。


 これについては、「万が一にも高貴な者の生死の判断を間違ってはいけない」と古代人が考えていたならどうだろうか。一年以上も埋葬せずに遺体を放置したならば相当程度に腐敗が進行しただろうが、同時に「絶対に生きてはいない」と断言する十分条件を満たしたともいえるだろう。


 一説に過ぎない考えではあるが、殯が古代日本人の必要や利便性から生まれた儀礼であると考えるのも不自然なことでは無いだろう。


 一方で、合理的な説明をつけづらい風習も存在している。中部地方の山間部の一地域では今日まで続く「笑い殯」なる伝統がある。その名の通り殯の期間中、参加者たちが笑い続けるというものだ。それも、にこにこと笑うのではなく、声をあげて快活に笑う。今日においては通夜の期間中に地域の者が当番制で時間を区切って交代で笑う。これは『笑い番』とよばれ、一般的には死者が出た直後に葬儀委員長などの役職や役割分担と同時に決められる。その中には喪主は通常は含まれない。喪主には葬儀上の役割が多く、笑い番がそれらの仕事に差し障るためと考えられる。


 海外などでは葬儀の際に『泣き女』を雇う風習がある地域もあるが、これは全くの真逆である。通夜の場で大笑いする者が居る様は今日的な宗教感情とは合致しない風習であるが、当事者たちにとってはごく当たり前のものとして受け入れられている。

 

 しかし、その中でも特異なのが和二わに集落の例である。和二集落は笑い殯が伝わっている地域のほぼ中心にある。山間部にある人口200人ほどの小さな集落であるが、この集落では常時笑い番を立てるのだという。誰かが亡くなった時に限らず、常にだれかが笑っている。集落で通夜があった際にはこの笑い番とはまた別に笑い番が立てられるのだという。


 この集落の住人にこの笑い番の意味を尋ねても「わからない。昔からそうするものと決まっている。やらないと収まりが悪い」などと回答されるばかりだ。笑い番の意味は失われて久しいものと思われる。


 ただ、1980年代に某大学が学術目的の聞き取りを行った際に、


 「あと80年は続けねばいかん。その後に本葬じゃ……」


 と、集落に長く住む古老がもらしたという記録がある。


 和ニ集落については江戸時代の紀行文には既に記載があり、常に笑い殯を行っている地域とされている。


 前述の説を採用するならば彼らは200年以上に亘って誰かの死を確かめ続けていることになる。記録されている限りでは殯の期間で最も長いのは敏達天皇の5年8ヶ月間である。


 前述の通り、身分が高いほど殯の期間は長くなる。天皇よりも遥かに身分が高く、200年を経てなお死を断言するのが憚れる人物。彼らは一体、誰を弔っているのだろうか?

 この物語はフィクションです。

 この話で得た知識を事実かのように吹聴した場合、あなたは恥をかく可能性があります。


 もっと悪い場合はフィクションでなくなります。ご注意を。

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