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宝石の裔

 ――とある館に収められた無数の報告書。そこに記されていたのは信じがたい奇怪な物語。真実は一体何なのだろうか――


 短編ホラーをオムニバス式に書いていきたいと思います。

今後は怪奇に出会い次第、不定期で交信する予定です。

 古生物の化石の中には稀にオパール化石と呼ばれるものが現れる。化石とは、土中に埋没した死骸に覆い被さった地層から染み出した鉱物が、長い年月をかけて死骸と置換されて出来たものだ。その際に土中のシリカの濃度等の幾つかの条件がそろえば、ただの亡骸も美しい宝石、オパールになるのだ。


 オパール化石は美しいだけでなく、大変希少でもあるため、古くから一部の好事家たちの収集の対象になっている。より大きく、美しく正確な形状を保持したものほど高値が付くという。今日も彼ら愛好家たちによってオパール化石は活発に取引されている。


 だが、世界中の化石愛好家たちもうらやむ一代コレクションが存在する。それは19世紀後半から20世紀初頭の人物である、オーストリア貴族ルートヴィヒ・フォン・スティヒゼンシュタイン伯爵が保有していたものだ。博物学の研究家でもあったスティヒゼンシュタインは三畳紀から更新世までのオパール化石を8000点以上、それ以外の通常の化石も約5000点を所有していた。


 その量の多さはまさに圧巻であり、他者の追随を許していない。彼の死後にコレクションの寄贈を受けたオーストリア国立博物館では、寄贈されてから100年近く経過した2020年代に入ってもなお全体の整理が済んでいない状況になっているほどだという。


 だが、スティヒゼンシュタイン伯爵自身は独自の分類法に基づきこれらのコレクションをかなり正確に管理していたらしい。彼は単なるコレクターにとどまらず、市井の博物学研究者としても精力的に活動していた。彼が残した中生代の原子哺乳類の大腿骨の微細構造のスケッチは現代でも一級品の学術資料として通用するほどである。


 しかし、現在においてスティヒゼンシュタイン伯爵は学術的にはほぼ評価されていない。彼が最晩年に発表した一本の論文のためである。彼はその論文を自身の30年以上にわたる収集と研究の集大成であると位置づけていた。


『鉱石骨格生物の進化の系譜に関する推察』。そう題された論文では、宝石で出来た骨を持つ生物がかつて存在し、独自の進化を続けていたという主張がなされている。その論文の資料として列挙されていたのはもちろん彼が保有していた大量のオパール化石たちである。彼は化石を時代順に並べ、各種のオパール骨格生物の進化と絶滅の時期を矛盾なく推察してみせた。各時代ごとのオパールの組成の変化に注目し、古代生物の分類を見直すことまで提案している。


 件の論文を一読してみれば、伯爵の研究量の多さにほとんどの者は舌を巻くであろう。彼の保有するほぼ全てのオパール化石に対して念入りに観察と調査が行われているうえに、彼の説を採用すれば、当時の進化論が抱えていたいくつかの問題も解明できるというおまけつきである。


 しかしながら、論文が評価されることはなかった。スティヒゼンシュタイン伯爵が生きていた20世紀初頭には化石がオパール化する明確なメカニズムは解明されていなかった。だがそんな時代においても、それらの化石が生きていたころからオパールで出来ていたと考える者はいなかったのだ。スティヒゼンシュタイン伯爵以外には。


 彼の論文は発表と同時に徹底的な批判を浴び、彼の学術分野における名声は地に落ちた。彼はそれ以来研究を中止し、失意のうちに世を去ったと言われている。

 

 スティヒゼンシュタイン伯爵の学説は間違いであるとされたが、もしも彼が保有していたオパール化石のうち最大の物であるプレシオサウルスの頭骨の美しい輝きを見たならば、宝石の骨を持つ生き物が現に存在すると思い込んだ彼の心境も理解できるだろう。


 2025年現在、彼のコレクションを整理中のオーストリア国立博物館の学芸員のうち数名が「現在の進化論は間違いである」と主張し始めるという事件が地元メディアで報道されている。


 なお、スティヒゼンシュタイン伯爵の墓は教会の都合により、2000年代に改葬が行われている。その際に彼の棺の中からは人骨ではなく、オパールの破片が出てくるという珍事が起こっている。誰かが遺体とすり替えたのか、それとも最初から遺体が埋葬されていなかったのか、詳細は不明である。


 ところで、スティヒゼンシュタイン伯爵の論文はこう締め括られている。

「……以上の資料から判断するに、オパール骨格生物が現在でも姿を変えて生き延びている可能性は十分に考えられる。

 あるいは、既に我々の社会の中にも素知らぬ顔で入り込んでいる者もいるのかもしれない」


 スティヒゼンシュタイン伯爵の学説は本当に間違っていたと言えるのだろうか?

 この物語はフィクションです。

 この話で得た知識を事実かのように吹聴した場合、あなたは恥をかく可能性があります。


 もっと悪い場合はフィクションでなくなります。ご注意を。

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