第4章 見覚えのある仲間たち
ギルドの掲示板は、いつも通り賑やかだった。
ルナは銅プレートの首飾りを弄びながら、クエストの紙を眺めていた。薬草採取、荷物運び……どれも地味で、物足りない。冒険者デビュー戦にふさわしいものを探していると、背後から声がかけられた。
「ねえ、君! 新入りさんだよね? ちょうどいいよ、一緒にクエスト受けない?」
振り返ると、そこに三人のグループが立っていた。
まず目に入ったのは、金色の長い髪を優雅に束ねた人間の少女。17歳くらいの、典型的な美少女魔法使いといった風貌だ。青いローブが似合い、杖を優しく握っている。リア・フォルテ、という名前らしい。
その隣に、がっしりした体躯のドワーフ。髭をたくわえ、巨大な斧を肩に担いだ重戦士、デミオ。32歳の脳筋タイプで、笑顔が豪快だ。
そして、猫耳と尻尾が特徴的な獣人族の少女、シエナ。15歳のシーフで、軽やかな革鎧に短剣を二本差している。目がキラキラしていて、好奇心旺盛そう。
ルナは一瞬、固まった。
(この顔ぶれ……どこかで見たことある)
思考を巡らせると、思い出した。『ドラグーンファンタジア』のチュートリアルで、最初に選べる仲間キャラクターたちだ。リアは魔法担当、デミオはタンク、シエナは偵察役。まさか、本当にこの世界で再現されるとは。
「えっと……どんなクエスト?」
ルナが尋ねると、リアが明るく説明した。
「オークの大群が森の近くに出没してるの。討伐依頼なんだけど、私たち三人だけじゃちょっと心もとなくて。君の試験の話、聞いたよ。銃みたいな魔法、面白そう! 手伝ってくれない?」
デミオが胸を叩き、シエナが尻尾を振って同意を示す。
ルナは小さく微笑んだ。ゲームの初期パーティーなら、相性も抜群だろう。
「わかりました。お手伝いします」
こうして、ルナは即席のパーティーを組むことになった。報酬は後で折半、と約束してギルドを出る。
森の奥、依頼の現場は薄暗い木立に囲まれていた。オークの群れは十数体。緑色の巨体が棍棒を振り回し、唸り声を上げている。
「よし、配置につこう! リアは後衛で魔法支援、デミオは前衛で受け止めて、シエナは横から撹乱。ルナさんは……えっと、後ろの高台から援護をお願い!」
リアの指示に、ルナは頷いた。高台は木の枝が絡まる岩場で、視界が良好。ルナはそこに陣取り、SCARーHを構える。セレクターをシングルモードに合わせ、息を整える。
――戦闘開始。
デミオが雄叫びを上げて突進し、斧でオークの一体を薙ぎ払う。シエナは影のように動き、短剣で脚を斬りつけて転ばせる。リアは杖を掲げ、火の玉を連発――だが、弾幕は少し薄めだ。
「リアさん、火力がもう少し欲しいかも……。あの隙間、狙われやすいですよ」
ルナのアドバイスに、リアは頰を赤らめ、目を潤ませた。
「う、うん……ごめんね、もっと頑張るよ……!」
(あれ、ちょっと嬉しそう? まあ、いいか)
オークたちは連携の穴を突いてくる。一体がデミオの死角から棍棒を振り上げ、別の二体がシエナを挟み撃ちにしようとする。
ルナの目は、冷徹に狙いを定めた。
――パンッ!
最初の弾丸は、風を切り裂いて飛ぶ。距離50メートル。オークの頭部を正確に貫き、脳漿を飛び散らせて後ろに倒す。衝撃で棍棒が地面に落ち、血しぶきが木の幹を汚す。
次の一体。心臓部を狙い、引き金を引く。パンッ! 胸に赤い穴が開き、オークは目を剥いて崩れ落ちる。棍棒がデミオの脇を掠め、危うく回避。
3体目。シエナの背後から迫る影。ルナはクールタイムの0.5秒を待ち、即座にシングルショット。弾丸は喉元を撃ち抜き、噴血しながら地面に沈む。
前線で戦うリアは、目の前でオークが次々と倒れる様子に、顔を青ざめさせた。火の玉が当たる前に、頭を撃ち抜かれ、ぐしゃりと潰れる肉塊。血の臭いが風に乗って届く。
「ひっ……! あ、あの、ルナさん……ちょっと、グロいかも……」
リアの声が震える。軽いトラウマが、少女の心に影を落とす。でも、戦いは止まらない。リアは必死に魔法を放ち、オークを焼き払う。
ルナは淡々と撃ち続ける。六発ごとに硬直するデバフを、息継ぎのタイミングでカバー。連携の隙を埋め、正確無比な射撃で敵を削る。オークの数はみるみる減っていき、最後の一体がデミオの斧で仕留められた。
「ふう……終わったね」
リアが息を吐き、パーティーはルナの高台に集まった。皆、汗だくで疲労の色が濃い。
「報酬の分け前だけど……ルナさんが一番活躍したし、ルナさんが取り分多めの四等分でどう? それとも……」
デミオが提案を始めかけたその瞬間。
草むらがざわつき、数匹の残党オークが飛び出してきた。四体。牙を剥き、棍棒を振り上げて一斉に飛びかかる。
「きゃあ!」
シエナが悲鳴を上げ、リアとデミオが武器を構えようとする。だが、遅い。オークの巨体が迫る。
ルナは静かに、ボタンを押すような動作をした。
――バァン!
地面が爆ぜた。事前に仕掛けておいたクリスタルノブ――爆発モードのトラップが、同時発動。七つのガラス玉が一斉に炸裂し、橙色の炎と破片が周囲を飲み込む。
オークたちは避けようもなく、爆風に吹き飛ばされる。一体は胴体を吹き飛ばされ、二体目は脚を失って転がり、三体目は頭部を直撃されて即死。四体目も、無慈悲なほどに平等に肉片と化す。血と煙が混じり、森に不気味な静けさが訪れた。
「え……?」
リアの顔が、真っ青になった。トラウマが一気に深まる。デミオは斧を握ったまま固まり、シエナは尻尾を逆立てて後ずさる。二人とも、言葉を失ってドン引きの表情だ。
ルナは、そんな様子に気づかず、銃を下ろして安堵の息を吐いた。
「よかった……初めてのクエスト、達成できたね。みんな、無事で」
高台から降りてくる小さなエルフの少女は、純粋に笑顔を浮かべていた。
背後でリアが泣きながらついてくる。
「ちょっと待ってください! 私…..私、もうこんなの怖いです……!」
パーティーの面々は、互いに顔を見合わせるしかなかった。
この「援護」、想像以上に容赦ない。
――異世界の冒険は、まだ始まったばかりだ。




