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第7話 この世界で生きていく自信

 まだ日が登りきる前の時間帯、私とエアミルさんは目を覚ました。


 結婚式は昼過ぎから行われるそうだ。

 どうせなら直前で戻った方が、始まる前にまた義妹に何かされる危険性は少なくなるのではないかという話になった。


 少し時間に猶予がある今、私はエアミルさんに化粧を施している。


「なんだか肌艶も良くなっているようですね」

「起きてびっくりしました。体の調子もとてもいいですし」

「実は私もなんですよ。この森に来て、ここのものを食べるようになって調子がいいんです」


 エアミルさんとは一日ですごく打ち解けた気がする。

 他愛のない話をしながらも、顔をよく観察しながらお化粧をしていく。


 このまま結婚式に行くのなら、できるだけ綺麗で華やかな姿で行ってもらいたい。

 化粧品はジェルバさんのものを使わせてもらっている。これもジェルバさんの手作りなのだろうか。

 現代のファンデーションのようなものではないが、おしろいはたくさんの肌の色の種類があり、のりも良い。

 カラーパウダーは何種類もの色があり、アイシャドウのグラデーションも発色よく綺麗にできた。

 アイライナーはないらしく、細いフラットの筆で濃いブラウンのパウダーを目尻に入れる。

 

 眉は許可を取って少しカミソリで整えさせてもらった。顔の印象は眉の形で大きく変わってくる。

 エアミルさんの柔らかい雰囲気に合わせて形を整え、毛流れに沿って眉を描いていく。


 明るく、華やかになるように、ハイライトはラメの入っているものを使った。

 

 チークは……どうしよう。


 美容学校時代の美容の歴史の授業で『キリスト教文化の影響で、派手な頬紅・口紅は「誘惑的」「不道徳」とされることもあるため、控えめまたは禁忌とされていた』と習ったことを思い出す。

 中世ヨーロッパの女性たちはお化粧が濃いイメージがあったので意外だと思ったのを覚えている。


 この世界ではどうなのだろう。

 

「エアミルさん、頬紅はいつも付けていますか?」

「私はあまり……。そもそも、お化粧自体あまり得意ではなくて」

「私は、というと他のご令嬢方はしてらっしゃるのですか?」

「日によって色を変えたり、体調の悪い時に頬紅を濃くして顔色を良くみせたりとみなさんよく使っていますよ」


 禁忌というわけではないんだ。だったら大丈夫か。


 頬骨からこめかみに向けて薄く桃色を乗せる。

 チークを乗せることで血色感がでるし華やかさが一段と増す。

 肌の白いエアミルさんに桃色のチークがよく合っている。


「お化粧、できましたよ」


 鏡で顔を確認してもらう。

 自分の顔をまじまじと覗き込むエアミルさんはすごく驚いた表情をしている。


「綺麗……。私じゃないみたいです」

「お化粧をすることで印象が変わりますよね。でも、元々とても綺麗なお顔立ちをしています。これは元の美しさを引き出しているだけの薄いお化粧ですよ」

「嬉しいです。きっと彼も驚くと思います。それに私、お化粧ってどうすればいいのかわからなくてあまりしてこなかったのですが、少しお化粧をするだけでこんなに自分の顔に自信が持てるようになるなら、これから頑張ってみようかなと思います」

「それはよかったです。あの、ヘアセットもできるのですが、どうしましょう?」


 エアミルさんは元に戻った髪をスッと撫でながら微笑む。


「髪は、このままで行きます。セットをしなくても、長くて艶々のこの髪は私の自慢です。あんなにボロボロだった状態の髪をこんなに綺麗にしていただいて、本当にありがとうございます」

「いえ、私がしたくてしたことですから」


 もう、私がエアミルさんにしてあげられるのはここまでだ。

 戻った後、上手くいくかどうか、義妹とどう決着をつけるのか、それはエアミルさん次第だろう。

 あんなに酷いことをする義妹だ。もしかしたらまた危険な目に合うかもしれない。

 でも、愛し合っている二人はきっと結ばれる。

 それに、エアミルさんの凛とした表情は、絶対に幸せになれると確信を持っているように思える。

 婚約者以外にも頼れる人がいるのかもしれない。


 私は森の入り口までエアミルさんを送り届けた。


「ではエアミルさん、お幸せに」

「レーナさん、本当にありがとうございます。いつか必ずお礼に来ます」

「お礼だなんていいですよ。私もいろいろと手探りでしたし」

「それでも私はあなたに助けられました。この御恩は必ずどこかで」

「婚約者の方と幸せに暮らしているという報告を待っています。……あ、それと、ここでのことは秘密にしておいてもらえませんか?」


 これから生活するうえで私の身分を隠すためにも黙っておいてもらった方がいいだろうし、この森には悪い噂もあるみたいだ。

 私自身まだ何もわからないことだらけなので、変に話が広がらない方がいいだろう。


「もちろんです。レーナさんがこの森の魔女だということも絶対に誰にも言いません」

「え……どうして私が魔女だって」

「薬師見習いだと言いながらあんなにすごい魔法を使っていれば気づきますよ。それに、お家に青いローブがありました。あれは青い魔女のものなのかなって」


 よく見てる。観察力があるし、鋭い。

 きっと昨日から気づいていて、言わないでいてくれたんだ。

 でも、私が不安にならないように気づいていたことを打ち明けてくれた。そして誰にも言わないと約束してくれる。彼女は信頼できる人だ。


「青い魔女は、もういないのです。私が彼女の跡を継いだ新しい薬師なんです。まだ始めたばかりなのですが」

「そうだったのですね。跡を継いで大変なときにご迷惑をおかけしました」

「いえ、エアミルさんのおかげで気づけたことがあるんです。私もこれから薬師として頑張っていきます」

「お互い頑張りましょうね」

「はい! それでは、お気を付けて」


 綺麗な姿と、満面の笑みは、私に自信をくれた。

 私はこの世界で生きていける。そう思わせてくれる。


 艶々の髪をなびかせながら駆けていくエアミルさんの後ろ姿を見ながら、私は小さく手を振った。


 ふと横に目をやると、宅配ボックスのような物が目に入った。

 これが、私便箱なのかな?

 なんとなく開けてみると中は空っぽだった。


「あ、黒呪病の薬を作らないと」


 私は家に戻り、クロノロックの戸棚を開けた。

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