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第5話 なんとかします

 思わず声をあげてしまった。女性も驚いたのか悲鳴をあげる。


「すみませんすみませんすみません。この森に入ってはいけないことは知っていますが、無理やりここに連れてこられたのです。出ようと思っても迷ってしまって……。悪さをしようと思って入ったわけではないのです。どうか、どうか呪わないでください」

「の、呪う? いや、そんなことしませんけど」

「そうなのですか? この森に入ると魔女に呪われると聞いていて……。あなたがこの森の魔女様ではないのですか?」

「え? 私は魔女では――」


 ん? 待って。ジェルバさんの跡を継いだということは、私は魔女になったのかな?

 そんな実感は全くないけど、そういうこと? 魔女だって言ったほうがいい?

 でも、身分は明かさないようにって手帳に書いてあったし一応否定しとこう。


「ないです」

「そう……だったのですね。失礼いたしました。もしかして、あなたも迷い込んだのですか?」

「いえ、そういうわけではないです。私はこの森に住んでいます」


 昨日からだけどね。


「この森に、青い魔女以外の方が住んでいるとは知りませんでした」


 青い魔女ってジェルバさんのことだろうか。そんなふうに呼ばれてたんだ。


「それはそうと、どうかされたのですか? 無理やり連れてこられたと言っていましたし、それに、その格好は……」


 木陰に座り込んだ彼女はすごく汚れている。森に迷い込んだのだから仕方ないかもしれないけれどそれ以前に、着ているドレスはビリビリに破かれ、髪が不揃いに切り刻まれている。

 ドレスの生地や装飾からして元はとても高価なものだろう。貴族のご令嬢だろうか。そんな人がどうしてこんな姿でこんなところに。


「……義妹に、婚約者を譲れと言われたのです」

「婚約者を譲れ?!」

「それを拒否したらこんなことに……」


 なんだか、どこかのファンタジー恋愛小説で呼んだような展開だ。


「幼い頃に婚約を結んだ私たちは、ずっとお互いを想い合い、愛し合ってきました。婚約者の彼も義妹がなんと言おうと絶対に私と結婚してくれると言っていたのです。ですが、昨日義妹に呼び出されて部屋に行くと男性二人に囲まれて、この森に連れてこられたのです」

「そのドレスと、髪は?」

「義妹にされました。彼は、私の綺麗な髪が好きだと言ってくれていたのに……」


 ひどすぎる。こんなことしたって婚約者が手に入るわけではないだろうに。


「その婚約者さんが探してくれているのではないですか?」


 愛し合っていたのなら、きっと探しているはず。けれど女性は悲しそうに首を振る。


「私は死んだことになっているはずです。それに元々この婚約は親同士が家の結びつきのために決めたものでした。私が死ねば義妹が家のために結婚するはずです」

「そんな……。だったら急いで帰りましょう!」

「こんな姿で彼のもとへ帰れませんっ」


 一刻も早く帰った方がいいと思う。けれど『こんな姿で帰れない』という彼女の気持ちもわかる。

 好きな人の前では綺麗でありたいと思うものだし、それ以上にボロボロの姿を見られるのが嫌だろう。


「じゃあ、家に来てください。なんとかします」

「え?」

「その姿で帰れないのなら、帰れる姿になりましょうよ。私は玲……レーナといいます」

「私は……エアミルです」

「エアミルさん。絶対、綺麗な姿になって帰りましょうね」


 私は彼女を立ち上がらせると、手を引いて家へ連れ帰った。



 ◇



 なんとかします、なんて言って連れて来たものの、どうやってなんとかしよう。

 今はとりあえずシャワーを浴びてもらっているが、汚れを落としただけではなんとかしたことにはならない。


 あ、先に着替えもってこないと。私は二階へ行き、ジェルバさんのクローゼットからエアミルさんに似合いそうな服を選ぶ。

 シンプルなワンピースからボリュームのあるドレスまでなんでも揃っていて、その中から似合いそうなピンクの可愛らしいドレスを選び浴室に置いておいた。


「――あの、洗ってきました。ありがとうございます。それと、このドレス着ても良かったのでしょうか」

「大丈夫ですよ。私も頂いたものなので」


 それにしても綺麗な人だ。髪は不揃いで体の所々にアザや擦り傷などがあるけれど、白い肌にエメラルドグリーンの大きな瞳、天然のレッドブラウンの髪は彼女が元々どれほど美しいかを表している。

 ドレスもとても似合っていた。


「とりあえず、傷の手当しましょうか」


 準備しておいた薬をテーブルに並べ、エアミルさんに座ってもらう。幸い、大きな怪我をしているわけではなさそうだ。

 傷を治す薬を塗り、乾燥した肌には昨日私も塗ってもらった軟膏を塗った。


 するとみるみるうちに傷はなくなり、肌艶もよくなった。

 やっぱり、ジェルバさんの薬はすごいな。私もこういう薬を作れるようになりたい。


 ちなみに採って帰った白耀樹の実は、とりあえずクロノロックの棚に入れておいた。


「すごい……傷がこんなに綺麗に。ありがとうございます。レーナさんは薬師なのですね」

「いや、この薬は私の先代さん? が作ったもので、私はまだ薬師見習いというか、見習いでもないというか……」

「そうなのですね。でも、レーナさんはきっと良い薬師になると思います。本当にありがとうございます」

「私は何も。それよりも、髪をどうにかしなければいけませんね……」


 感謝されるにはまだ早い。

 切り刻まれた不揃いの髪はどうしたらいいのだろう。長いところは腰辺りまであるが、切られたところはこめかみまでしかない部分もある。

 一番短いところに合わせたとしたらベリーショートになってしまうし、長いところを残してウルフカットにするにしてもトップがこめかみではバランスが悪いし。


 それに、婚約者の方はエアミルさんの綺麗な髪が好きだと言っていたんだよね……。

 愛する人ならどんな姿でもかまわないと言ってくれる方だといいのだけれど。

 いや、それでもエアミルさんは元の髪に戻りたいはずだ。

 こめかみから腰辺りまで約五十センチ。髪が伸びるまで四、五年待つわけにもいかないしなぁ。


「もう、いいのです。どうせ間に合いませんから」

「え? どうしてですか?」

「明日が、結婚式なのです」

「明日?!」


 エアミルさんの話によると家同士の跡取りの問題があり結婚式は明日と決められていて、日程が変えられることはないのだそう。

 だから義妹は直前でエアミルさんを攫い、自分が結婚するしかないようにしたんだ。


 だったら尚更急がないと。

 できるだけ長さを残してカットで整える?

 オールアップのセットをしてなんとか誤魔化す?


 いや、ここにはすごい薬がたくさんあるじゃない。

 いろいろ試してみよう。最大限、元の髪に戻るようにやってみよう。


 私は昨日からお世話になりっぱなしの、皮膚を本来の状態に整えるという軟膏を髪にも塗ってみることにした。

 皮膚も髪もケラチンでできている。皮膚を本来の状態に戻してくれるなら、髪も元に戻るかもしれない――。


 

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