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第4話 異世界生活の始まり

 窓から差し込む光の温かさを感じ、そっと目を開ける。


 視界には見慣れない天井が広がっていた。

 そうだ。ジェルバさんの部屋だ。今はもう私の部屋なのか?

 やっぱり昨日のこと、夢じゃないよね。


 ゆっくりと体を起こし、座ったまま伸びをする。

 何時なんだろう。こんなにしっかり寝たのいつぶりだろうか。

 ベッドもふかふかで気持ちよくて、心なしか体が軽い。

 いや、本当に体がすごく楽だ。

 立ち上がり、ドレッサーの鏡を見る。

 特に変わったわけではない――ん? 私は鏡に映っている自分の顔をまじまじと見る。


「え? すっごく肌綺麗なんだけど!」


 昨日、アザはなくなっていたが、こんなに肌が綺麗ではなかったはず。

 これは二十八歳アラサー女子の肌ではないよ! 十代女子の肌だよ!

 アザに薬を塗ってもらった以外なにかしたっけ? とくになにもしてないよね?

 もしかして、スープに使ったあの水? 聖水って言ってたし、なにか効能があるのかな?

 

 それにしても肌の調子がいいとテンション上がる!

 気分良く目覚め、窓の前に立つ。


 本当に静かでいいところ。

 さて、ここでの生活何からはじめよう。


 意気込むけれど、服が気になった。仕事で一日中着ていたものそのままだ。汚れているし、しわしわになっている。

 私はクローゼットに入っている服を拝借することにした。

 たくさんの服がかけられていて迷ったけれど、コバルトグリーンのシンプルなデザインのワンピースを選んだ。

 全部、というわけではないけれど服はブルー系が多かった。ジェルバさん、ブルーが好きだったんだろうな。

 

 ワンピースに着替えて一階に下りる。そしてラックに掛けられているローブの中からブラウンの短めのものを選んで羽織った。

 思ったよりも短くて腰辺りまでしかないけれど、長すぎると動きにくいし、短い方がいいだろう。

 ジェルバさんが着ていた鮮やかなブルーのローブも綺麗だけれど、なんとなく着ないでおこうと思った。ジェルバさんにとってとても大切な物のように感じたから。


 昨日作ったスープで朝食を済ませ、手帳を開く。


 黒呪病の薬の作り方は読んだけれど、それをどうすればいいのだろう。

 私は続きに目を通す。


 黒呪病の薬は半月に一度、森の入り口にある私便箱に入れておく。

 入れておけば、王宮魔術師団第一薬師団師団長のフォティアス・ネウロンが取りに来る。


 なんか、すごい肩書の人。私便箱に入れておくということは直接渡すわけじゃないんだ。


 薬を取りに来た時に前回分の支払い料と次の注文量を書いた紙を入れてくれるので、確認し注文分の薬を作る。

 基本的にここでの注文は黒呪病の薬のみ。

 その他の薬は街の薬屋でも買えるので、わざわざ森の魔女に注文する客はほとんどいない。

 たまに一般のお客様からの注文書が入っていることがあるが、最後の注文は百五十年前である。


 百五十年前って……。もう、だれもここで薬を買う人なんていないってことだよね。

 とりあえず黒呪病の薬をつくればいいってことか。


 今までの注文書が棚の引き出しに入っているらしいので取り出して確認してみる。


「前回の納品は五日前……」


 ということは次は十日後か。薬は簡単にできるみたいだし、少し猶予があるな。

 それにしても、手帳も注文書も見たことのない文字で書かれてあるのにすらすらと読める。元々知っていた言葉のようになんの戸惑いもなく。

 これも、ジェルバさんの力を継いだからだろうか。今のところ、本当になにも不自由はない。


 まだ時間はあるけど、ちゃんとできるかわからないしとりあえず黒呪病の薬を作ってみようかな。


 私はこの家から二キロ先にあるという白耀樹の実を採りにいくことにした。


 失敗することも考えてたくさんの採ってきたほうがいいのかな。

 採った実を入れる籠とか持っていかないとだめだよね。

 なにか入れるものあるのかな。


 部屋のいたるところを探してみるが、それっぽいものが見つからない。

 鞄や籠、巾着などの袋はあるが、どれも小さいものばかりで木の実がたくさん入るようなものはない。

 

「これなんか、形はそれっぽいんだけどなぁ。もっと大きければいいのに」


 取っ手のついた可愛らしいつる籠を手に持つ。持ってみると籠の中に違和感を感じた。

 普通の籠に見えるけれど、中を覗くと真っ暗なのだ。


 まさかと思い、手を突っ込んでみる。すると、どこまでも腕が入る。外から見る深さは指先から手首くらいまでなのに、もう肩近くまで入ってしまっていた。


「これが、四次元空間ってやつ……」


 感動しながらこの籠を抱え家を出た。

 南に真っ直ぐ二キロ歩く。

 白耀樹までは一本道になっているようでわかりやすかった。


 三十分ほど歩き着いたのは、一本の大きな樹がそびえ立つ開けた場所だった。

 樹の周りには他の木はなく、花畑が広がっており、ここだけ別の場所のように思える。


「すごい。一目見ただけでこれが白耀樹だってわかる」

 

 太い幹に大きな葉、桃のような形をした真っ白な実がたくさん成っている。

 普通にもぎ取ってもいいのかな? と思いながらも鋏を持ってくるのを忘れているため、手でそっと捻ってみた。するっとあっさりとれ、ずっしりと重たい手のひらサイズの実が手に収まった。


 採れた実を籠に入れる。

 

「あ、重さも感じないんだ」

 

 ずっしりした実を入れたはずなのに全く重さを感じなかった。これならいくらでも持って帰れそう。でも、家には白耀樹の実は置いてなかったし必要な分だけ採ってきてるってこてだよね。

 失敗したときのことを考えて、必要な量より少しだけ多めに採って帰ることにした。


 荷物が増えたわけではないけれど、また二キロ歩くのか。

 往復で一時間。けっこうつらいけど毎日じゃないし、いい運動になると思えばいいか。


 私は来た道を戻る。

 そういえば、植物はたくさんあるけど虫とか動物は見かけないな。虫は苦手だし、動物もイノシシとかクマみたいなのだったら怖いからいなくてもいいんだけど。

 そもそもこの世界にそんな動物っているのかな?

 異世界の動物っていうと魔物とか?

 いやいや。そんなの出てこられたら私終わりだよ。

 この森に魔物がいないことを祈りながら帰り道を歩くが、小鳥のさえずりすら聞こえない静かな森だった。


 と思っていたが、どこからか女性の呻き声のようなものが微かに聞こえてくる。

 頭をよぎるのはホラー映画に出てくる白い服を着た長い髪の女性。

 動物はいないけど、幽霊がいるってことはないよね?!

 なんて怯えながらも、家までの一本道を逸れ、声のする方へおそるおそる足を進める――。


「ひぃっ」

「きゃぁっ」


 そこには、木陰にうずくまり頭を抱える髪の長い女性がいた。



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