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第35話 綺麗を生み出す

「すごくいいじゃない。とっても綺麗よララ」

「ありがとうございます」


 ミゼリカ様はいつもとは違うララさんを褒めちぎる。ララさんもすごく嬉しそうだ。


「代わりを用意できたって言ったけど、それがララ?」

「そうです。ミゼリカ様のことは、ララさんが一番満足させられるだろうと思います」

「でもこれはあなたがいるからこその姿でしょう? 余計にレーナをここに置いておきたくなったわ」

「私がいなくても大丈夫ですよ」


 私は風の魔法を使い、ララさんの前にシーツ靡かせる。

 そしてタイミングを見てシーツを回収する。


「まあ! 可愛い」


 先ほどまでの赤く妖艶な雰囲気とは打って変わり、緑色のウィッグにエメラルドの瞳。この世界では珍しい膝上丈のボリュームのあるドレス。

 睫毛と眉にはブラウンのマスカラをさっと塗ってもらい、柔らかい印象に。

 森の妖精をイメージした、可愛らしい姿だ。


 ララさんはドレスの裾をふわりと広げながらくるりと回る。私はまたシーツを靡かせる。


 次はウルフカットにした紫のウィッグ。燕尾服を着た男性のスタイル。膝を曲げ一礼するとくるりと回りまた着替えを始める。

 

 次々と姿を変える、ララさんの早着替えファッションショーだ。

 

 服を着替え、ウィッグを被り、目薬をさすだけ。

 組み合わせ次第で無限に姿を変えられるだろう。


 ミゼリカ様はふふ、と笑いながら楽しそうに見ている。ララさんもすごく嬉しそうだ。

 

 最後は黒いロングのウィッグに、私が最初に来た赤い着物。今度は襟と裾をしっかりと揃え、おはしょりを作り、スカーフできつく腰を締めた。浴衣風だ。


 用意しておいた全ての着替えを終え、私はミゼリカ様の前に立つ。


「ミゼリカ様、よろしければこちらを使ってみませんか?」


 私はヘアアイロンを取り出し、ララさんの髪にアイロンをあてて見せる。


「そんな道具を使っていたのね」

「こうやって髪を巻き付ければ、カールをつけることもできます」


 一度使って見せたあと、ヘアアイロンをミゼリカ様に手渡す。

 興味津々に受け取り、私がやった通りにララさんの髪を巻き付けている。ぎこちない手つきではあるけれど、アイロンを離した時にクルっと巻かれたカールを見て子どものような無邪気な笑顔になった。


「おもしろいわね」


 随分と気に入ったのか、何度も繰り返し、全ての髪にカールをつけた。

 ストレートヘアからカールヘアになるだけで印象がガラリと変わる。


「こうやって、ご自身の手で“綺麗”を生み出すことでより楽しさを感じることができると思います」

「たしかに、とても楽しいわ」

「ミゼリカ様、私はずっとここにいることはできませんが、もし必要なものがあればお作りすることはできます。それらを使ってララさんと一緒に楽しむことができるでしょう」


 ウィッグも、化粧品も必要ならいくらでも準備する。

 誰かから奪っていくのではなく、自分の理想を新たに作り出していけばいい。


 ララさんはソファーに座るミゼリカ様の前に膝をつき見上げる。


「私では、だめでしょうか?」

「ララ?」

「私では、ミゼリカ様を満足させられないでしょうか」


 捨てられた自分を拾い、傍に置いてくれたミゼリカ様に恩返しがしたい。

 それがララさんの願い。


 美しいものを傍に置き、楽しみたい。

 それがミゼリカ様の願い。


 二人の願いは、お互いが叶えることができるはず。


「ねえレーナ、私が呼んだらまた来てくれる?」

「帰していただけるなら、何度でも来ますよ」

「だったら、普段はララと二人で楽しむのもいいかもしれないわね」


 ミゼリカ様はララさんの頭を撫で、優しく笑った。


「私、戻ってやらなければいけないことがあるんです。それに、心配をかけている人も」

「そうね。でも、私が返さなくても迎えが来ているみたいだけど」

「え? 迎え?」


 私はミゼリカ様に連れられ、初めて屋敷の外に出た。

 魔界だからもっと禍々しい場所を想像していたけれど、木々が生い茂るあまり下界の森と変わらない雰囲気だった。


 外へ連れ出され、ボーっと景色を眺めていると、突然強い風が吹き荒れる。

 目を細めながら凝らして見ていると、目の前に現れたのはローブを着た秀麗な男性。

 いつもの涼やかな表情を崩し、怒りを露わに立っている。

 

「フォティアスさん……」

「レーナ!」


 フォティアスさんは私に駆け寄り腕を掴むと、その胸に抱きとめた。

 すぐにミゼリカ様から距離を取り睨みつける。


「せわしいわね。そんなに怒らなくてもいいじゃない」

「無理やり攫っておいて何を言う」

「でも、悪いようにはしていないわよ」

 

 フォティアスさんは私の顔を心配そうにのぞき込む。

 あれだけ気を付けろと言われていたのにあっさり攫われてしまった。


「ご心配をおかけしてすみません。私なら大丈夫です。それよりも、どうやってここに来たんですか?」


 魔界と下界は繋がっていないと言っていた。だから逃げることはできないと。


「これがあるからでしょ?」


 私の言葉にミゼリカ様が答える。その足元には大きな瓶があった。

 フォティアスさんの足だ。そう思った瞬間、瓶の中の足が消えた。


「え?」


 すると隣でガシャンと音がする。目を向けると義足が横たわっている。そして、フォティアスさんの右足はズボンの裾から指が見えていた。


「返すって約束したでしょ?」

「いったいどういうことだ?」

「騒々しいからあとは二人で話してね。レーナ、またね」


 ミゼリカ様は私たちに手を振る。ララさんも笑顔で頭を下げている。

 すると濃い霧に包まれた。視界が真っ暗になり、フォティアスさんにきつく抱きしめられる。



 ――目を開けると、そこは神殿のような場所だった。

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