表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/38

第29話 縮れ毛の少女

 少しずつ道具や薬剤類など必要なものを揃えていき、お店の営業も安定してきた。

 

 今日も朝から掃除をしたり、シャンプーを補充したり、開店準備をする。そしてなんとなく窓の外を眺める。すると街路樹の影からじっとこちらを覗く少女がいることに気づいた。

 よく見ると以前縮毛矯正の依頼をしてくれた少女だった。黒呪病の療養施設で話をしたので顔を覚えている。

 来てくれたたんだ。でも、覗いているだけでお店に来ようとはしない。

 私は外へ出て少女のところへ行き、話かけた。


「よかったらお店の中に入りませんか?」

「レーナさん……」

「私のこと覚えてくれていたんですね」


 少女は頷き、私についてお店の中に入った。

 あれからしばらくたっているので、髪の根元は伸びて癖が出てきている。


「今日は、どうしてお店に来てくれたのですか?」

「森の魔女様がお店をはじめたと伺って、もう一度魔法のトングを貸していただきたかったのですが、実は今銅貨二枚しか持っていないのです……」


 前回私便箱には銅貨三枚が入っていた。お金が足りないと思ってお店に入れなかったんだ。


「今回は、伸びてきた根元だけの施術をすればいいので、銅貨二枚でも大丈夫ですよ」

「本当ですか?!」

「はい。私がさせてもらってかまいませんか?」

「よろしくお願いします」


 本当はまだ料金設定もきっちり決めていない。

 毛先まで軽く当て直すつもりではいるけど、このお店は利益をあげるためというよりも私がしたいからはじめたお店だ。最低限の料金でやっていこうと思っている。


 出店費用も一切かかっていないし、謝礼金がたくさん残ってるからお金には困らないしね。


 少女の名前はナタリーというらしい。

 私は以前療養施設であった時に、ナタリーさんが依頼主だと気付いていて黙っていたことを謝罪した。


「気にしないでください! レーナさんが森の魔女様だとは思いませんでしたが、とても感謝しているのです。魔術師団はもうやめられたのですか?」

「元々、臨時的なものでしたので。黒呪病もなくなりましたし、好きなことをしようと思ってこのお店をはじめたのです」

「すごく素敵です。森の怖い噂なんて気にせず、もっと早くにお願いしていればよかったです」


 私がこの世界に来る前では難しかっただろうけど、そんなふうに思ってもらえてよかった。

 薬の依頼を受けるようになって、森の悪い噂も少しずつ払拭されているみたいだし。


 ナタリーさんにセット面に座ってもらい、簡単に流れを説明した後、施術をはじめた。


 まずはじめにシャンプーをする。

 しっかり癖を伸ばして、形状記憶の薬の効きをよくするためには髪を綺麗にしておくことが重要だ。

 洗ったあとはドライヤーで髪を乾かし、ヘアアイロンをあてていく。一剤を使わないことで、塗布、放置、洗い流しの時間が短縮されて早く進む。

 以前は自分でしてもらったので、よく見ると中の方が綺麗に癖が伸びていなかったりしている。

 やっぱりはじめから私がしてあげたら良かったかな。

 申し訳なくなりながら、細かく確認し、しっかりと癖を伸ばす。

 そして最後に薬を塗っていく。


「やっぱり髪が綺麗になっていくと嬉しいですね」

「わかります。自分の好きなところが増えていくっていいですよね」

「私、髪が伸びてきて縮れた毛を彼に見られるのが嫌だったんです。そんな時彼が、綺麗な髪も好きだけど、君の美しい心が好きなんだよって言ってくれたんです。だから気にすることないって」

「とても良い彼ですね」

「そうなんです。それでも私、髪を綺麗にしたいって思うんです。贅沢ですかね?」

「そんなことないですよ。誰でも好きな人に綺麗な姿を見てもらいたいと思うものです」


 ナタリーさんは頬を赤らめそうですよね、と笑った。

 美容師という仕事をしていると、自然とお客さんが自分のことについて話をしてくれることがある。

 見た目が変わったことで、生まれた出来事がある。

 いろいろな人の人生に関われているということが、この仕事の醍醐味でもあると改めて実感した。


 薬が浸透し、消えれば縮毛矯正は完成。

 最後に少しだけカットし、毛量を調節した。

 

 ナタリーさんは嬉しそうに頬を緩め、手で髪を梳く。そして独り言のようにぼそりと呟いた。


「こんなに綺麗なら、なにもしなくても大丈夫かな……」

「なにもしなくても、とは?」


 聞き流すこともできたけど、どこか不安そうな表情が気になった。


「来月、初めて夜会に出席するんです。でもうちには髪を結える侍女がいなくて、どうしようかなと思っていたのです」


 恋人も一緒に行くそうで、初めてのダンスに緊張するけれどすごく楽しみにしているのだと話してくれた。


 夜会デビューかぁ。きっと華やかな場所なんだろうな。他のご令嬢たちもきっと気合いを入れて参加するんだろう。髪を下ろしたままでも問題ないとは思うけど、目一杯着飾りたいよね。


「よければ、私がしましょうか?」

「いいのですか?」

「はい。どのような髪型にしたいか考えておいてくださいね」


 一ヶ月後の夜会当日の朝に予約を入れ、ナタリーさんは嬉しそうに帰っていった。


 セットをするなら必要な道具とか増えてくるよな。作ってもらえるかまたマスターに相談しに行こう。


 お客さんが増えてくると予約システムなんかも必要になってくるな。予約でいっぱいになるほどお客さん来てくれるかな。


 定休日も決めないと。薬作りをしないといけない日もあるだろうし。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ