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第25話 病の根絶

 小屋を出て、森の奥へと進んでいく。そして着いたのは、どこまで広がる草原。

 そこにはたくさんの墓石が並んでいた。


「黒呪病を発症し、薬を求めて森に来た人たちなの」


 ここに眠っている人たちが、迷い込むと呪われて帰ることができないという噂の元になった人たちなのだろう。


「薬がない時代、彼らを返そうとはしなかったのか?」

「みんな、ここにいたいと言って最後まで治療をしていたのよ」

「治療をしていたのか?」

「病を完治させる薬はなかなかできなかったけど、症状が和らぐように、できるだけ痛みを無くすよに薬を投与していたの。亡くなっても、全身が黒く染まった姿を大切な人たちに見られたくないから、この森に埋めて欲しいと……」


 ここにいる人たちはみんな望んでここで命を終えたんだ。

 でも、ジェルバさんはすごく苦しかっただろう。自分の呪いのせいで亡くなっていく人たちをどんな思いで見送っていたのだろう。


 墓石の並ぶ草原を進んでいくと、一番奥にはひと際大きな墓石があった。石にはリアナと刻まれている。

 ジェルバさんは墓石の前に屈むと、婚姻証明書を置いた。


「リアナ、私たち結婚したのよ。あの頃は考えてもみなかった。ずっと、自分の不甲斐なさに落ち込んで、諦めて後悔して、私は自分が嫌いだった。でも、そんな私を変えてくれた人がいた。私たち、幸せになってもいいのよ」


 ジェルバさんはゆっくりと立ち上がる。

 そしてこちらを振り返り、私の目を真っ直ぐに見る。


「レーナ、あなたが、黒呪病という忌々しい呪いからこの世界の人々を救ったのよ」


 そう言うジェルバさんは、ローブの裾からサラサラと砂のようなものが落ちていっている。


「ジェルバさん……」

「レーナ、本当にありがとう。あなたからすれば、とんでもない世界に連れてこられたと思っているかもしれない。でも、あなが来てくれて良かった。やっぱり、この世界にはあなたが必要だったのね。私の術に間違いはなかったわ。これからは何も背負わず、自由に生きてね――」


 ジェルバさんは満面の笑みを浮かべると、全身が砂になってなくなった。

 バサッと落ちたローブと共に、白骨だけが残っている。


「ジェルバさんは……亡くなったんですね」

「元々、魔力だけで保っていた体だったからな」


 私たちはしばらく立ち尽くし、ジェルバさんの残像を見送った。

 そしてどちらからともなくしゃがみ込み骨を手にとると、リアナさんのお墓の横に埋めた。


 後日、フォティアスさんが墓石も用意して、お墓を作った。

 泉の底に隠れていた森は、今は泉を迂回した奥に広がっている。

 

 これで何百年もの間、人々を苦しめてきた黒呪病の呪いは解け、現在発症していた患者も全員一斉に症状が消え去ったという。

 黒呪病が根絶されたことで国中が歓喜に溢れ、街はお祝いムードになっていた。


 療養施設は病院として使われることになり、エマさんたちはそのまま看護師として病院で働いているらしい。

 黒呪病の研究をしていた第一薬師団は研究を終了し、本来の仕事である魔薬作りに注力している。


 私はというと、変わらず私便箱に薬の依頼がくるので、薬を作ったり街へ行ったりと、以前と同じ生活を送っていた。

 変わったことといえば、黒呪病の薬を作らなくなったことで、気持ち的にも時間的にも余裕が生まれてきていることだろうか。



 ◇



「――レーナ、君は本当にすごいことをやってのけた。国を代表して王宮魔術師団第一薬師団団長フォティアス・ネウロンがここに謝礼を贈呈する」


 数日後、フォティアスさんがあらためて家を訪ねてきたのでどうしたのかと思ったら、深く頭を下げて大きな箱を渡してきた。


「な、なんですか? 急にかしこまって」

「王命だ。レーナには丁重に謝意を述べるようにと」

「王?!」


 いやまあ、たしかに感謝されてもいいくらいのことはしたのかもしれない。

 謝礼って言ったけど、何が入っているのだろう。


「これ、頂いてもいいのですか?」

「当たり前だ。そのために持ってきたのだから」

「じゃあ、有難く頂きます」


 私は差し出された箱を受け取った。


「うっ、重い……」


 なんともずっしりとした箱で、そのままテーブルの上に置いた。

 中を開けてみてみると、箱の半分には金貨、半分にはカラフルな石のようなものが入っていた。


「こんなにたくさんの金貨、ありがとうございます。あと、このたくさんの石はなんですか?」

「それは魔石だ。天然のな」

「魔石?! 天然ってことは魔物の核……」


 マスターにヘアアイロンをサラマンダーの核で作ってもらったときは金貨五十枚だった。直径三センチほどでその値段なので、大小いろいろあれど、この量の魔石だとすごい値段がするはずだ。


「マスターに何か作ってもらう時にこの魔石を使ってもらうといい。いらなければ売ることもできる」

「わ、それすっごく便利ですね!」


 マスターのお店、魔石の持ち込みオッケーなんだ。

 ドライヤーとか、カールアイロンとか、ホットカーラーとかいろいろ作りたいものもあるんだよね。

 

「この、石の色の違いってなんですか?」

「赤いのは火の魔力、青は水、茶色は土、透明は風だ」


 すごい! 赤と透明の魔石があれがドライヤーが作れるってことだよね!

 もしかして、水の魔石でシャンプー台とか作れたりするのかな。土は……なんに使おう。

 想像を膨らませては、なんて良いものをくれるんだと嬉しくなる。


「ありがとうございます! すっごく嬉しいです」

「レーナのやりたいこことやらの役に立つか?」

「あの話、覚えてくれていたんですか?」

 

 以前、美容師という仕事をこの世界でもやっていきたいと話をした。

 黒呪病が根絶されたら、目一杯好きなことをするんだと。


「他になにか欲しいものはないのか。希望があれば応えるようにと国王から言われてある」

「欲しいものかぁ。自分のお店があればな、なんて……それはちょっと欲張りすぎですね」

「かまわない。店舗なら用意しよう」

「ええ?!」

 

 そんなに簡単に了承してもいいの? 許可とかいらない?

 驚く私をよそに、澄ました表情のフォティアスさんは、王都ならあそこらへんがいいだろうかとか、広さはどうしようかとかぶつぶつ呟いている。


 そうして話は着々と進み、黒呪病を根絶した謝礼の一つとして、王都の中心街にある店舗を贈呈されたのだった。


 ――ついにレーナの異世界美容室、開店します!

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