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第23話 美しくなりたい

「フォティアスさん、この薬草をこの軟膏と混ぜてください。あと、魔術師団には体の組織を作る薬なんかはありますか?」

「ああ。まったく人使いが荒いな」


 なんて言いながらもお願いしたことをしっかり正確にこなしてくれる。


「レーナさん、お願いされていた薬完成しました」

「ありがとうございます! では次は先ほど説明したお化粧品をお願いします」


 私は今、魔術師団でジェルバさんの呪いを解くための準備をしている。

 他の団員にも協力してもらい、準備は着々と進んでいた。


「思たったよりも早く決行できそうです。ありがとうございます」

「呪いを解くことに尽力しないわけないだろう。だが、伯爵以上の爵位を用意しろなんて無茶にも程があるぞ」

「でも、ちゃんと用意してくださったんですね」

「エアミル嬢のおかげだ」

「そうですね。またエアミルさんにもお礼をしにいかないと」


 この作戦を実行したからといって上手くいくかはわからない。けれど、できることは全てやりたい。過去に戻って問題を解決することはできないけど、ジェルバさんの想いを昇華させることができれば、呪いは解ける気がしている。


 それには私の力ではダメだということがわかった。私の魔力は元々ジェルバさんのものだ。


『――私の魔力で作った薬は、自分には効かなかった』


 だったら、私以外の人に薬を作ってもらえばいい。そして、魔法がだめなら物理的に変えてしまえばいい。私にはヘアアイロンが使えるのだから。


 数日後、必要な薬、化粧品、道具、書類を持って再びジェルバさんの元を訪ねてきた。

 フォティアスさんにもついてきてもらっている。


「今からジェルバさんを変身させます!」

「変身……?」


 ジェルバさんは美しくなりたいと言っていた。

 自分が美しければ、自分に地位があれば、友人を守れたのにと。


 だから、美しくなることで当時の願いを叶えようと思う。


「ジェルバさんの理想の美しさとは、私が幻覚魔法で見ていたあの姿ですか?」

「そうね……。でも、綺麗、というよりは本当はもっと可愛いらしい方が好きなの」

「可愛い系ですね。なるほど。髪の長さや色などの好みはありますか?」

「髪は、長い方が憧れるわ。この髪では縮れて絡まってしまうから長くはできないのだけど……」


 不安そうにしながらも答えてくれるジェルバさんに、丁寧にカウンセリングしていく。

 髪の長さ、色、スタイル、顔の印象まで細かく尋ねた。


「では、はじめに髪を伸ばしていきたいと思います」

「髪を伸ばす? すぐに髪が伸びてくるの?」

「はい。頭皮に、髪を形成する薬を塗り込んでマッサージをします」


 これは、エアミルさんの髪を伸ばした時にしたことを応用している。

 ちなみにヘッドスパをしなくても、髪が伸びるように魔術師団で薬を改良したが、少しでも気持ちよく施術を受けてもらいたのでしっかりマッサージもする。


「すごい、伸びてるわ。それにとっても気持ちがいい」


 師団員に作ってもらった薬は効きがよく、すぐに腰ほどまで髪が伸びた。けれど、ジェルバさんが言っていた通り、縮れてごわついた髪は大きく広がり絡まっている。確かにこれは扱うのが大変で安易に伸ばせないな。

 

 私は伸びた髪に保護クリームを塗る。トリートメントのような効果があり、絡まりをほぐしてくれる。

 このあと、縮毛矯正をあてるが、その前に毛量を減らしておく。

 セニングバサミなんてものはないので普通のハサミと、剃刀でレザーカットもしながら整えていった。

 毛量を減らしたところで、ヘアアイロンを取り出した。後から形状記憶の薬を塗るので一剤は必要ない。

 私はコームとクリップで髪をすくい留めて少しずつアイロンをあてていく。コームはマスターにお願いして特注で作ってもらった。持ち手が楊枝のように細く、長く。コーム部はできるだけ細かく形は長方形で。

 全然魔道具なんかではないけれど、細かい物づくりの作業はやりがいがあると快く作ってくれた。

 

 襟足から順番に、コームの柄で髪をスライスする。スライスした髪は頭皮に垂直になるように引き出し、ヘアアイロンを挟む。プレスは強くなりすぎないように、引っ張らないように、けれど、しっかりと癖を伸ばすように。

 癖が強いのでスライス幅はできるだけ薄く、根元までしっかり癖が伸びるように。

 大変だし、根気のいる作業ではあるが、襟足から順番にサラサラと落ちていく髪が気持ちいい。


 縮毛矯正をし終わった後はカットして髪型を整えていく。 可愛らしい雰囲気になるように前髪を作り、顔周りにはレイヤーをいれた。


「これが、私の髪なの?」


 ジェルバさんは髪を手ですきながら驚きを隠せないでいる。


「まだまだこれからですよ」


 次は、髪を染めていこうと思う。普通なら縮毛矯正をしてカラーもするなんて髪への負担が大き過ぎるが、一剤も使っていないし、髪質を保つ薬もある。

 明るいブロンドの髪に憧れるというジェルバさんに、私は思い切ってカラーの提案をした。


 黒髪をブロンドにするには本来二、三度のブリーチが必要だ。ブリーチは髪のメラニン色素を分解し、脱色するが、髪の組織を分解することで傷みになるし、何度も繰り返さないと綺麗に脱色はできない。

 私はそこで色素を分解せずに脱色する方法を考えた。

 それは、乾燥魔法を応用させて、水分を抜き取るように、色素を抜き取って脱色する方法。


 これは私の魔力では上手くいかないかもしれないので、フォティアスさんにお願いすることにした。

 乾燥魔法は一般的なもののようですぐに理解してくれた。

 フォティアスさんはジェルバさんの髪に手をかざし、魔力を流し込む。そして温かい光に包み込まれると、一瞬にして黒い色素が髪から抜け出てきた。

 フォティアスさんはその黒を丸い塊にし、指をはじくとパッと消えていった。


「え?! 今のなんですか?」

「消した」

「いやそれは見てわかりますけど!」


 抜き取るのも一瞬だったし、それをパッと消してしまうなんてすごい。同じ魔法を使っても人によっていろいろなんだ。私も練習したらこんなに上手に使えるようになるのかな。

 それにしても、思った以上にいい感じに色が抜けてる。


 サラサラで、艶々のブロンドの髪だ。

 そしてここからは私の仕事。きっとジェルバさんは想像もしていなかっただろうけど、提案してみたら、目を輝かせてやってみたいと言ってくれた。


 アルミホイルがあればなと思ったけれど、そんなものはないので、紙に撥水加工をしてホイルの代わりになる物を手作りしておいた。


 先ほどと同じように髪をスライスし、コームの柄を使って細く毛束をとる。とった毛束の下に紙を置いて、ブルーの染色剤を刷毛で塗る。

 この染色剤も魔術師団の人たちと相談しながら作ったものだ。難しい薬の成分の知識はなくても元になる色味の薬草と魔法で思ったよりも簡単にヘアマニキュアが作れた。


 メッシュなんてこの世界の人は知らないけれど、青色が好きなジェルバさんなら気に入ってくれるのではないかと思った。


 ブロンドに青色のメッシュ。傷みを残すことなく、艶々の髪に仕上がった。


「すごいわレーナ、私こんな魔法は初めて見たわ」

「最初に会ったとき、美容師っていう職業は知らないと言っていましたよね。これが、私の仕事なんです。そしてジェルバさんから頂いた力と、フォティアスさんや魔術師団の皆さんの協力もあってここまでできました。あとは、お化粧もしましょう――」


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