第20話 わかってきたこと
私はあれから家に戻り、ほとんど手をつけていなかった本棚から呪いについて何かわかることがないか本を読み漁っていた。
数冊の魔法書に、薬草図鑑、小説のようなものまであるが、目ぼしいものは見つからない。
ここは元々黒い魔女の家で、それをジェルバさんが継いだのなら家のどこかに黒い魔女の手がかりがないか探してみたけれど、それもない。
ジェルバさんの手帳を読み返してみたけれど、師匠から受け継いだということ以外は、呪いについても黒い魔女についても書かれていない。
まるで、わざと痕跡を消しているかのようだった。
痕跡を消したのはジェルバさん?
黒い魔女はまだ生きている。ジェルバさんは黒い魔女を匿っていた? それはどうして?
見つかれば、人々にこんな呪いをかけたことで罰せられたりするのだろうか。
ずっと、薬を完成させようと何百年も頑張っていたのに、どうして途中で逃げるようなことをしたのだろう。魔術師団でも見つけ出せないなんて、どこに隠れているのだろう。
隠れる……。隠している?
『あの森は魔女の館を隠し、守っている』
以前、フォティアスさんが言っていたことを思い出した。
まさか、ね……。
◇
数日後、私はまた療養施設に足を運んでいた。そして、患者さん一人一人をよく観察する。
年齢が同じくらいだということはわかった。他に何か共通することはないだろうか。
「いつも患者さんのことを気にかけてくださってありがとうございます」
「あ、いえ。これが私の仕事でもありますから」
看護師のエマさんが私を見つけ、声をかけてくれた。
「レーナさんが新しく作ったという痛み止めのお薬、よく効くと患者さんも喜んでいるんですよ」
改良した黒呪病の薬は痛み止めの薬として浸透しているそうだ。
黒呪病の薬が個人の魔女が作っているとは公表されていない。みんな自然と魔術師団で作っていると思っている。
そしてエマさんも黒呪病患者の一人だった。今でも手にはその時のアザが残っている。
「あの、エマさんが発症した時のことを教えていただけませんか? なにか研究に役立つことがあるかもしれないので」
「私のことでよければいくらでも」
エマさんは、当時のことを詳しく教えてくれた。
発症したのは五年前、十八歳の時だった。学園を卒業し、婚約者との結婚を控えていたが黒呪病を発症し結婚は延期されたそうだ。
完治してから結婚する予定だったそうだが、エマさんは腕に痕が残ってしまった。それが原因で婚約は破棄。それからこの療養施設で看護師として働いている。
「症状は他の患者さんと変わりはありませんでした。黒く染まったところから痺れるような痛みがあり、薬が効くまでの間は発汗と息苦しさもありましたね」
淡々と当時のことを教えてくれるが、まさかアザが原因で婚約が破棄されていたなんて。
確かに禍々しい見た目をしているかもしれないけれど、完治してしまえば体調には支障はないし、何も変わらないのに。
でも、気になったことがある。エマさんもエアミルさんも、最初の発症者と同じように新婚だったり、結婚を控えていた。
今いる患者さんたちはどうなのだろうと聞いてみると、結婚したばかりだったり、そうでなくても婚約者や恋人がいる人ばかりだとういことがわかった。
そしてふと、患者さんの中である少女が目に留まった。エマさんに聞くと、その少女は昨日発症し、すぐにここに来たのだという。
私が気になったのは、少女の髪だった。
真っ直ぐでサラサラの髪。けれど、根元はどこかうねりがある。前髪が真っ直ぐになりすぎて自然ではない。パッと見はわからないが、よく見るとあまり上手な仕上がりではない縮毛矯正後って感じ……。
私は少女に声をかけた。
「はじめまして、レーナといいます。どこか調子の悪いところはありませんか?」
「はい、特にはありません。気づくのが早かったので症状もほとんどないのです」
少女の言うとおり、爪あたりが黒くなっているだけで、ほとんど進行はしていないし、顔色が悪いということもない。
薬はもう飲んでいるはずだし、これからひどくなることもないだろう。
大丈夫だと可愛く笑う少女に、髪のことを聞いてみた。
「髪、サラサラで綺麗ですね」
「ありがとうございます。実は、元は縮れてゴワゴワの髪だったんです。でも、呪いの森の魔女様にいただいたお薬と、魔法のトングでこんなに綺麗な髪になったんです」
やっぱりそうなんだ。縮れ毛の依頼の少女だ。
「縮れ毛がこんなに綺麗になるんですね」
「はい、魔女様には本当に感謝しています。髪が綺麗になったおかげで好きな方に想いを伝えることができて、今は恋人なんです」
想いが、実ったんだ。嬉しそうに話をしてくれる少女にこちらまで嬉しくなる。そして、なんとなく発症患者の共通点がわかってきた。
みんな、婚約者、配偶者、恋人がいる。
あとこれは私の偏見かもしれないけれど、ここにいる人みんなとても整った容姿をしているのだ。
この少女も、大きな瞳に白い肌、とても可愛らしい顔をしている。髪も綺麗になり、きっと随分と印象も変わっただろう。
もしかしたらこの少女は私が依頼を受けたせいで、発症してしまったのかも……。
少しの後悔の念がこみ上げてくるが、今そんなことを考えても仕方がない。
この呪いは嫉妬や羨望からくるものだったら?
根源がそこにあるのなら、できることがあるかもしれない。
黒い魔女はどのような人物だったのだろう。
どうして、“黒い”魔女と呼ばれていたのだろう。
――フォティアスさんに話をしにいかないと。




