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第2話 異世界召喚

「え……?!」


 視界が突然切り替わると、目の前にはローブを纏った綺麗な女性が私をじっと見ていた。

 ウェーブのかかった艶のあるブロンドの髪に碧眼、着ているのはローブだけれど、地味なものではなく、鮮やかなブルーだ。


 それはまるでドレスのようで、子どもの頃に見たプリンセスのようだった。


「あなた、薬師?」


 女性は座り込んでいる私に目線を合わせ、真剣な表情で尋ねる。


 クスシ? くすし? 薬師……?


「いえ……私は美容師、ですけど」

「美容師? 聞いたことのない職業ね。薬の知識はある?」


 薬かぁ。お店のバックヤードにはカラー剤とかオキシとかパーマ液とかの薬で溢れてるけど、その薬とは絶対違うよね。


「全くありません……」

「そう……私の後継者にふさわしい人を召喚するように魔法陣を描いたはずなんだけれど。やっぱり私の体ではもうだめなのかしら」


 女性はなにやらぶつぶつ呟いている。後継者? 魔法陣? いったいなんのことだろう。

 それにしてもここはどこ?

 お店を出て、家に帰っている途中だったはずなのに。満月を見上げていて、そしたら月に飲み込まれるような感覚になって……。


 あの後私、どうなった?


 わからないまま急に洋館のような場所にいた。


 窓の外の景色は木々が生い茂っているだけで、他には何も見えない。

 森の中なのだろうか。


 それにしても――


「綺麗な人……」

「あら、私のこと? ありがとう。でも、こう見えて三百七十二歳なの」

「さ、三百七十二歳?!」

「この森で三百年以上薬師をやってる魔女よ。この姿は魔法で美しさを保っているだけ」


 ニコリ笑う魔女はどこからどう見ても綺麗なお姉さんだ。三百七十二歳の老婆だなんて想像がつかない。

 すごいな、なんて見ていると、目が合った。そして、じっと見てくる。と思えば手が伸びてきて、私の前髪をすくった。


「っ……」

「このアザは、いつから?」

「生まれつき……です」

「そうなの。ちょっと待ってね」


 魔女だという女性は棚から小瓶を持ってくると、中の軟膏のようなものを指ですくい、私の額のアザに塗り込んだ。

 薬を塗ったって、生まれつきのこのアザが消えることなんてないのに。

 けれど、塗った瞬間から額が温かくなりスッと染み込むようになくなった。


「見てみて」


 渡された手鏡をおそるおそる覗くと、アザが綺麗になくなっていた。


「うそ……」

「この塗り薬は皮膚を本来の状態に整えるだけの簡単な薬なんだけどね。腕や足を再生させるような強い効力の薬ではないけど、これくらいのアザならこすぐに綺麗になるわ。それにしてもあなた、可愛らしい顔してるわね」

「ありがとうございます。私、ずっとこのアザに悩んでいて、でも一生消えないんだって諦めていたんです。まさかこんなに綺麗に消えるなんて」

 

 額の半分を覆いつくほどのアザが一瞬でなくなってしうなんて考えてもみなかった。痛みも全くないし、むしろ温かくて心地よかった。


「お礼を言われるようなことはなにもないわ。むしろ謝らないと。あなた、異世界人よね。私の後継者になれる人を召喚するつもりだったのだけど、まさか異世界から召喚されるなんて思っていなかったの。ごめんなさいね。でも、あなたを元の世界に戻す力はもう私には残ってないのよ」


 異世界人……召喚……。

 やっぱりここって異世界なんだ。 はっきりそう言われると確かにそんな感じがするけれど、召喚されたって……。

 元の世界に戻せないって、もう、ここで生きていくしかないの?


「えっと……私は、どうすれば?」

「あなたさえよければ、私の後を継いで、薬師をして欲しいの。この国の人々を三百年守り続けてきた、病の薬を作って欲しい」


 この人の作る薬はきっとすごいものなんだろう。額の大きなアザを一瞬で消せるような薬が簡単なものなんて、他にはどんなものを作っているのだろう。

 病気や怪我の薬なんだろうけど、使いようによっては美容にいい薬もあるのかもしれない。

 さっきの薬だって、絶対に肌荒れにもいいはずだし。髪なんかに塗ったりしたらツヤツヤサラサラになるのかな。


 ――いけない。私欲がでてきてしまっていた。

 でも、そんな薬というものにすごく興味がある。


「ですが……私、薬なんて作れません」

「そこは心配しないで。私の持つ知識とスキルは全てあなたに継承するから。あと、なにかあったらあの手帳に」

 

 魔女が指さしたテーブルの上には、分厚い手帳が置かれてあった。

 薬師って薬剤師とそんな感じだよね? あれを読んだだけでちゃんと薬なんて作れるのだろうか。


「もし、できなかったらどうなるのでしょうか」

「この国の人々を疫病から三百年守り続けてきた薬がなくなって、病が蔓延し、たくさんの人が亡くなってしまうことになる」

「それって、だいぶ責任重大じゃ……」

「責任は重大かもしれないけど、薬自体は継承する力で簡単に作れるはずだからあなたにもできるはずよ」


 はず、かぁ……。不安しかない。でも、私が継がなければこの国は病で大変なことになってしまう。もとの世界に戻ることもできないし、やるしかないのだろうか。

 悩んでいると、魔女はそうそう、と話を続ける。


「この家にある物も、庭の畑も好きにしてくれていいからね。スキルを継承すればなんでもできるし不自由はしないと思う。ちなみにこの森全部私のものだからまとめてあなたにあげるわ」

「この森も全部?!」


 むしろ管理しきれないのではないかと思うけれど、この人の言うスキルがどんなものかわからない以上なんとも言えない。

 そのスキルとやらを上手く使えば、こんなに美しくなれるのだろうか。


 ブリーチをして髪を傷めなくても艶々ののブロンドなる? 肌荒れなんて気にせず、美味しいものをたくさん食べられる?


 私のように、悩んでいる人を笑顔にすることができる?


「薬に使う薬草も全部ここで揃うから。お願いできるかしら」

「やってみたいとは思います。ですが、ちゃんとできるかどうかはやってみないとなんとも……」

「それもそうよね。とりあえず、あなたに私の全てを継承するわ。もう時間がないみたい」


 魔女は私に手を伸ばし額に触れた。

 さっきと同様、温かいものが体の中に流れ込んでくる。そして全身を巡る。


「なんだか、体がすごく熱いです」

「それが魔力の巡りよ。本当なら、もっとたくさんのことを直接教えてあげたかったのだけど、思っていた以上に召喚が体に負担だったみたい」


 すると、魔女の姿はどんどん薄くなり消えかかってきた。

 このまま消えてしまうの? 今ここでいなくなってしまうの?


「あの、私は本当に――」

「私ね、自分の術には自信があるの」

「え?」

「勝手に後継者を押し付けてしまってごめんなさい。でも、あなたがここに来たということは、あなたがこの世界に必要だからよ」

「私が、この世界に必要……」

「でも、無理はしないでね。あなたの好きにしていいから。そういえば、名前言ってなかったわね。私は薬師魔女のジェルバ。あなたは?」

「私は、永瀬玲奈(ながせ れいな)です」

「レーナ、いい名前ね」


 ジェルバさんの体はもうほとんど消えている。それでも、美しい笑みは絶やさない。まるで、私を心から信頼しているような、そんな優しい目で私を見る。


「私を許してとは言わない。でもレーナ、あなたがこの世界の人々を救い、そしてあなた自身がたくさんの幸せを得られることを願っているわ――」


 そう言って、魔女のジェルバさんは消えていった。

 

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