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第19話 魔術師団

 魔術師団の中には薬師団という薬を扱う部署のようなものがあり、第一薬師団と第二薬師団に分かれている。

 そしてフォティアスさんは第一薬師団の師団長だ。


 フォティアスさん曰く、一般的な病気や怪我などの薬を作ったり研究をしているのが第二薬師団で、第一薬師団は『魔薬』と呼ばれる薬を作っているそうだ。


「魔薬は戦場や討伐現場などで使われる物だ。相手の体を麻痺させたり、幻覚を見せたり、時には命を奪うこともある」


 戦場や討伐現場……。

 元の世界にも危ない薬というものがたくさんあった。

 薬は毒にもなるっていうけど、きっとそういうことなんだろうな。

 

「フォティアスさんはそういう現場にも行かれているのですか?」

「以前はよく行っていた。治癒魔法を使える師団員も限られているから救助部隊としてな」


 治癒魔法を使えるなんてすごいと思ったけど、限られた人しか使えないんだ。フォティアスさんって本当にすごい人なんだな。戦場や討伐現場なんて危険な所にも行っていたなんて。


「今は行かれてないのですか?」


 なんとなく、聞いただけだった。けれどフォティアスさんは少し悲しそうな表情をすると、右足のズボンの裾を捲り上げた。


「もう現場には行けないんだ」


 捲り上げて見えたものは、義足だった。


「あ……すみません。私、安易に聞いてしまって」

「かまわない。特段不便はしていないんだ。ただ、以前のようにはいかないだけで」


 何があったかは聞けなかった。危険な場所へ行っていたし、その時に何かあったのだろう。

 そして、治癒魔法をもってしても、失った足は元に戻らなかったんだ。


 今は現場を離れ、第一薬師団の統括を担い、黒呪病の研究に力を入れているらしい。


 黒呪病の研究はずっと第二薬師団が担っていたが、病気ではなく呪いだとわかってから第一薬師団が研究を引き継いだそうだった。


「病気ではなく、呪いだから、薬では消せないアザが残ってしまうのでしょうか」

「その要因が大きいだろうな」


 私の額のアザは薬であっという間に消えてしまった。肌の状態を本来の姿にできるのなら、生まれつきのアザを消すことよりも、後からできたアザを消す方が簡単なように思える。

 けれど、そうじゃないということは薬で消し去ることのできない根強い何かがあるということ。


 その何かを見つけることすら難しいのだろうなと思いながら、気づくと魔術師団についていた。


 レンガ造りの大きな図書館のような出で立ちをしている。王宮には劣るが広い敷地があり、ローブを着た人たちが行きかっている。


「今さらですが、私は入ってもいいのですか?」

「だめだったら連れてこないだろう」

「たしかに」


 恐れ多くなりながらも、フォティアスさんについて中へ入っていく。

 すれ違う人みんなフォティアスさんを見ては足を止め一礼して過ぎていく。

 こういうところを見ると、師団長なんだなぁと実感する。


 ただ黙って後ろを付いていき、入った部屋は書斎のようなところだった。

 

「失礼します……」


 促されるまま椅子に座ると、フォティアスさんは机の引き出しから小袋を取り出し私に差し出してくる。


「今日の分の薬の代金だ」

「えっ? 私が勝手に追加で作ったものですからお代はいいと……」

「そういうわけにはいかない。これは、魔術師団と薬師魔女との良好な関係を保つためにも必要なことだ。受け取ってくれ」

「わかり……ました。ありがとうございます」


 しぶしぶ受け取ると、フォティアスさんは納得したように頷き、向かいの椅子に座った。


「エアミル嬢は明後日には施設を出られるだろう」

「そうなのですね。良かったです」


 けれど、苦い顔をして話を続ける。


「体の状態があれだけ回復していて、腕のアザがあの状態なら、アザはもう消えないかもしれない」


 ああ。やっぱりそうなんだ。

 不安に思っていたことが、はっきりと口に出して言われることで現実味を帯びてくる。

 病室に入ったとき、真剣に話していたのはこのことだったのだろうか。


 なんとかして、アザを消す薬を作りたい。でもどうやって?

 ジェルバさんでも、魔術師団でも作れないものを私に作れるの?


「薬を作るよりも、呪いを解く方法を見つけるべきなのですかね」

「呪いが解けるに越したことはないが、いつになるかわからない不確かなことより、少しでも効果のある薬のほうが患者の心拠り所になっている。どちらも大事なことなんだ」


 心の拠り所というのはわかる気がする。目に見えない不確かな希望よりも、目の前にあるものにすがってしまいたくなる。


「では、どちらも頑張らなければいけませんね!」

「頼もしいな」


 ずっと、黒呪病という呪いがなぜ不特定多数の人々に発症するのか考えていた。そして今日、気づいたことがある。発症している患者さんがほとんど同じような年齢の人たちばかりだった。

 男女共に、十代後半から二十代の人たちだ。幼い子どもや年配の人は一人もいなかった。


 この呪いは、いわゆる青年期にかかるものなのだろうか。


「黒呪病は、どうして同じような年齢の人に発症しているのでしょうか」

「気づいたのか。以前話した最初の発症者も二十歳の女性で、その後の発症者も同じような年齢なんだ。それが、呪いとどんな関係があるのかははっきりしない」


 一番はじめの発症者は結婚した後ほどなくして黒呪病を発症し、亡くなった。そしてその女性は黒い魔女の友人だったとされている。当時は黒い魔女が女性のために薬作りに奔走していたため、だれも黒い魔女が原因とは考えなかったそうだ。


「二人に、何があったのでしょう」

「なにせもう七百年以上前のことで、詳しい情報はあまり残っていないんだ」


 友人に死に至るほどの呪いをかけてしまった黒い魔女。呪いを解くことはせず、薬を作ろうとした。それはやっぱり呪いを解くことができなかったから。

 そしてその呪いはどんどん広がっていった……。


 知れば知るほど謎は深まっていく。


 その後も少しフォティアスさんと黒呪病の話をしてから、薬師団の研究室を見せてくれることになった。

 案内されて入った部屋には大勢の師団員がいて、それぞれ薬をつくったり、分厚い本を真剣に読んだりしている。


 薬の作り方はジェルバさんとは違うようだった。

 窯はなく、鍋そのものが発熱しているようだ。ガス火とIHみたいだななんて思っていたら、手のひらから水を出し始める人もいる。

 人差し指をくるくると回すと、風の渦が起こり、液体がかき混ぜられていく。


 機械的なものを使っているわけではないのに、なんだか最先端技術を見ているような気分になる。

 ジェルバさんの力を受け継いで魔法が使えるようになり、すごいって思っていたけど、案外使いこなせていないのかもしれないと思った。


 帰ったら魔法書を読んで、もっといろんな魔法が使えるように練習してみよう。


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