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第15話 薬の改良

「マスター! すごいです! 完璧ですっ」


 私は約束通り、金貨五十枚を持ってまたマスターのお店を訪ねていた。

 マスターは真っ直ぐサラサラになった髭を撫でながら、得意気に笑っている。


 随分とスリムになった木の棒は片側はバネで繋がれ、片手でも扱いやすくなっている。

 ピタリと付くプレートはしっかりと癖が伸びそうだ。

 それに、プレート面は棒の際まであり、根元やフェイスラインなどの細かいところの癖もしっかりと当てられる。

 これはプレートを触っても熱くないからできることだ。普通のヘアアイロンならプレートが皮膚に当たって火傷してしまう。


「ところでマスター、どうしてこのプレートは熱くないのですか?」

「毛を伸ばすためのものだとあらかじめ聞いていたからの。毛以外のものには反応しないように調整してあるんじゃよ」

「そんなことができるんですね。すごいです」


 フォティアスさんが言っていた通りの腕利きの魔道具師なんだな。注文以上の物を作ってくれる。


「不備や故障があればいつでも持ってきれくれ。整備込みの料金じゃからの」

「ありがとうございます。何かあればまた伺います」


 マスターにお礼を言い、代金を払ってお店を後にした。


 家に戻ってヘアアイロンを使ってみたけれど、びっくりするほど使いやすかった。

 なにより頭皮に当たっても熱くないのが嬉しい。


 薬も良い物ができたし、あとは依頼主の少女が頑張ってくれれば。

 私は縮れ毛の治し方、ヘアアイロンの使い方、薬をムラなく塗る方法などを細かく紙に書いていく。


 本当なら、私が施術してあげればいいのかもいれない。でも、この森の魔女として見ず知らずの人に会うことが少し怖かった。この世界のこと、私の立場を知ってしまったからこそ、慎重になってしまう。

 それでも、少女の髪が綺麗になって、想いが報われますようにと願いながら、準備をする。

 ヘアアイロンはどうしようか迷った末、貸出しということにした。使い終わればまた私便箱に入れてくださいと。

 もしかすると返ってこないかもしれない。それはそれで仕方ない。私の考えが甘かったということ。これも経験だと割り切ることに決め、全てを私便箱に入れた。

 

「さて、次の納品は黒呪病の薬だな」


 そのあとは肌荒れの薬だ。やることが途切れずあると充実感がある。

 どこかの誰かを笑顔にする手助けをしていると思うとやる気になる。


 黒呪病の薬は完治させる効果は必須で、その上で痛みを軽減し、痕も残らないようなものを作りたい。

 フォティアスさんが言っていた、病を根絶させる研究という話ももっと聞いてみたいな。


 私は白耀樹の実を採ってから家に戻った。


 

 ◇



 三日後、黒呪病の薬を作っていると突然、棚の上に置かれてあった水晶が赤く光り出した。

 どこか見覚えのある光だなと思っていると、水晶が何かを映しだした。作業を止め水晶を見に行くと私便箱の中が映し出されているようだった。


 この水晶ただの置物だと思ってたけど、中になにか入れられると光るようになってたんだ。

 今までは、たまたま出かけているときに入れられていたので気が付かなかった。


 鮮明には見えないけれど、ヘアアイロンと手紙らしきものが入っている。私はそのまま私便箱のところへと向かった。


 中にはやはり、ヘアアイロンと手紙が入っている。


「ちゃんと返却してくれたんだ」


 手紙には感謝の気持ちが綴られていた。ヘアアイロンの扱いが難しかったということも。

 上手くいかないところは友人に手伝ってもらったそうだ。

 難しかったけど、自分の手で少しずつ綺麗になっていく髪に感動した。仕上がった髪はまるで魔法がかかったように輝いて見える。これで、自信を持って好きな人に想いを伝えることができる。とその喜びが手紙から伝わってきた。


 どんな仕上がりになったか直接確認することはできないけど、少女が喜んでいる姿を想像しては私も嬉しくなる。

 

 依頼を受けて良かった。ヘアアイロンは繰り返し使えるし、また同じような依頼があればスムーズにいきそうだ。


 さて、次のお仕事も頑張ろう。


 家に帰って薬作りを再開した。

 黒呪病の薬を作っていて、発見したことがある。

 抜き取った白耀樹の果汁を肌に付けるとしっとりするということ。

 滴を入れたコップを倒してしまって手にかかってしまった。すると、すごく潤ったのだ。果物の汁がかかった時のベタベタした感じではなく、しっとりすべすべな感じだ。

 白耀樹の実って桃みたいだなと思っていたけど、桃の化粧水なんかもあるし、本当に桃に近いのかも。

 肌荒れの薬に良さそうだし、他にもいろいろ混ぜて使えそう。水分だから聖水の代わりに使ってみるのもありかもしれない。

 

「良いものが作れそうでワクワクするなぁ」


 白耀樹の実の水分を抜きながら、思わぬ収穫があったことに楽しさを覚えた。繰り返しの作業の中に新しい発見がある。

 

 そして、改良した黒呪病の薬が完成した。

 先日、療養施設で話を聞いた女性が指先に痺れるような痛みがあると言っていた。痺れに効く薬草、痛みを和らげる薬草も粉末にして一緒に煮た。薬草の色ではじめはよもぎ餅のような色になっていたので、もしかしたら透明にはならないかもしれないと思ったけれど、ちゃんと透明に変化したのできっと大丈夫だろう。

 黒くなったアザを消す方法はまだ思いつかない。消える人と消えな人、何が違うのだろう。体質的なものだろうか。

 肌を白くするようなものとかが効いたりするのかな?


 黒呪病の薬作りで難しいのは、自分で試せないところだ。

 フォティアスさんみたいに効果を確認する魔法とか使えたらいいんだけど。いや、もしかしたら私も使える?

 真似して手をかざしてみるけれど、何も起こらないし何もわからない。

 やっぱり無理か。諦めて私便箱に入れに行くことにした。


 ついでに街で買い物をしようと準備をして家を出る。

 森の入り口まで歩いていると、見慣れた人物が立っていた。


 フォティアスさんだ……。


 また待たせてしまったのかと、急いで向かう。

 今日は朝一で出てきたんだけどな。前日とかに入れといた方がいいのかな。


「すみません、お待たせしました」

「いや、かまわない」


 いつからいたのかわからないが、涼しげな表情で私を見下ろす。申し訳なくなりながら、薬を差し出す。そして、以前のように効果が大丈夫か確認してもらうことにした。

 

「自己流でいろいろ混ぜたので、少し心配で……」


 フォティアスさんは瓶に手をかざすと小さく頷く。


「薬の効きは問題ないし、魔力の質も良くなっている」

「良かった」


 これで患者さんの負担も軽減すればいいのだけれど。本当の効果は投与してみないとわからない。


「あの、この薬の効果がどうだったか教えていただくことはできますか?」

「わかった。それと、必要のない情報かもしれないが――」


 フォティアスさんは淡々とした口調で、思いがけない出来事を告げた。

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