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第14話 魔法と縮毛矯正

 魔道具店に行った帰りもフォティアスさんは森の入り口まで送ってくれた。

 今回は一人でも帰れると言ったのだけれど、結局ついてきてくれた。師団長って暇なのだろうか。それは失礼か。意外と過保護なのかもしれない。


 森に着くと、また私便箱が光っている。

 中を開けると手紙が入っていた。


『この数週間、肌が荒れて治りません。街の薬屋でもらった塗り薬を使ってもだめでした。魔女様どうかお肌を綺麗にする薬をください』


 肌荒れか。肌荒れにもいろいろあるからなぁ。私は別に医者じゃないしよくわからないけど、塗り薬でだめだったなら飲み薬で体の内側から働きかける物のほうがいいのかも。肌荒れに効きそうな薬はジェルバさんが作ったものがたくさんあったし、何種類か渡してもいいかもな。


 そんなことを考えていると、フォティアスさんが小さくため息をつく。


「全ての依頼を受けていたらもたないぞ」

「この先お断りしなければいけない依頼もでてくるかもしれませんが、今回の依頼は既存のものでなんとかなりそうですし、できるだけ想いに応えたいのです」

「レーナは、どうしてそこまでするんだ?」

「どうしてかは自分でもよく分かりませんが、私には彼女たちの気持ちがよくわかるんです。だから、私にできることはしたいんです」

 

 フォティアスさんの言う通り、個人的な依頼は受けなくてもいいのかもしれない。私がこの世界に来た理由は黒呪病の薬を作ることなのだから。

 でも、私を必要としてくれている人がいる。悩んでいる人がいる。だったら私はできることをする。

 それが、私が自分で見つけたこの世界で生きる意味だから。

 

「お人好しだな。でも、それがいいのかもしれない」

「フォティアスさんもけっこうお人好しだと思いますよ。こうやって送ってくれるし、フォティアスさんには関係ない私のわがままを聞いてくれるし」


 今回のヘアアイロンのことは黒呪病のこととは全く関係ないし私の勝手なのに、聞くだけだといいながらマスターにしっかり話を通してくれていた。

 それこそ、フォティアスさんがどうして私にそこまでしてくれるかわからない。


「――――本当に、なにも知らないんだな」


「え? 何か言いました?」

「なんでもない」

「そうですか?」

「十日後、黒呪病の薬も忘れないようにしてくれ」

「もちろんです。私、今やる気に溢れてますから」


 胸元で小さくガッツポーズすると、フォティアスさんはフッと笑い帰っていった。


 私は家に戻り手帳を読み返す。

 よく読んでいるとジェルバさんは、薬の代金は前払いで、代金に応じた性能の薬を作っていたようだ。私にはそんな匙加減はわからないので、全力で納得のいくものを作ろうと思う。

 一般の薬の依頼は、依頼された日の十日後に私便箱に注文の薬を入れておけば依頼主が取りにくるのだという。

 もう百五十年も前の決まりのままやってもいいのかと悩んだが、とりあえずその通りにしてみることにした。

 ちなみに、私便箱は誰でも中のものを取り出せるわけではなく、私が依頼主に宛てたものはその依頼主しか取り出すことができない。

 本当によくできている。


 そして私は縮毛矯正の薬を作ることにした。依頼があった日からいろいろ試してはいるけれど、思うようにはいかない。それに、私が直接施術するわけではなく、薬とヘアアイロン使って自分でしてもらうつもりだ。できるだけ工程を少なく、簡単にできるようにと考えている。


 髪を柔らかくして癖を伸ばし、定着させる。

 特に癖を伸ばす作業は、美容師だって自分でするのは至難の業だ。これはマスターに作ってもらうヘアアイロンの出来にかかってくるかもしれない。

 私はそれをできるだけ綺麗に仕上げるための薬を作らなければ。


 ジェルバさんの薬を見ていると、形状記憶と書かれたものを見つけた。状態を良くするのではなく、維持するもの。これが使えそうだ。


 髪へのダメージは少なく、それでいてより美しく、しなやかで艶やかな髪に。

 ジェルバさんから受け継いだこの力があればそんな薬が作れるはず。


 私はまず工程を省くために、はじめに塗る一剤をなくすことにした。実はこの一剤が髪に一番負担をかける。

 髪の毛を構成する組織を分解して柔らかくする薬だ。最後に、伸ばした髪を定着させる二剤で分解された組織を結合するけれど、完全に元通りというわけにはいかない。

 でも、一剤による軟化がなければ、ストレートアイロンで髪を伸ばしただけの状態にすぎない。濡れてしまえばまた癖がでてくるのだ。

 でも、形状記憶の薬があれば『ストレートアイロンで髪を伸ばしただけの状態』を維持することができる。

 それに、アイロンを当てたときに失敗したとしても、やり直すことができる。

 納得のいく状態になったあとで薬を塗布すればいいのだから。


 手帳を見ながら、形状記憶の薬を調合する。傷んだ髪を修復させる薬と保護する薬も。

 薬の材料は全て森に生息する薬草だった。

 作り方はどの薬もほとんど同じで、薬草を乾燥させ、粉末にし、聖水を加えて煮る。

 塗り薬は、樹脂を加えることでクリーム状になる。


 薬が出来たので自分で使って試してみることにした。

 マスターから借りてきた、拍子木のようなヘアアイロンで自分の髪を挟み、スーッ伸ばす。


「おぉ、けっこうしっかり伸びる」


 棒が別々なので、力が入れにくいなと思ったけれど、しっかりと伸びていた。

 それに、ふと気づいたけれど……


「プレート、熱くない!」


 おそるおそる触ってみたけれど、熱くないのだ。手のひらでぎゅっと握ってみても熱くない。どういうことだろうと思い、また髪を挟んでみたけれど、ちゃんと伸びる。

 どういう原理なのか今度マスターに聞いてみよう。


 それから作った薬を塗り、仕上がりを確認する。

 薬は浸透し消えていくので洗い流す必要はない。でも効果を確認するため、塗ったあとに髪を洗ってみることにした。

 これで伸ばした状態のままだったら成功だ。


 洗ったあと、髪が乾くのを待つ。

 この世界にドライヤーはない。ヘアアイロンが作れるならドライヤーも作れないかな、なんて思いながら椅子に腰かけた。

 

 あ、そうだ。私、乾燥させる魔法が使えるじゃん!


 座ったまま手のひらに魔力を集中させ、髪に流し込んでいく。魔力を引き上げるように水分を引き上げて――。


 滴が髪からポツポツと湧き出てきた。髪も乾かせるなんて便利な魔法だ。

 でも、乾燥させすぎないように気をつけないと。潤いがなくなってしまったら意味がない。

 加減を調節しながら乾燥させていくけれど、やっぱりドライヤーが欲しいと思った。

 それに、この世界の人たちはだいたい自然乾燥だ。みんなが魔法を使えるわけではないから。

 濡れたまま放置すれば髪は傷みやすいし、寒い時期なんかは風邪をひいてしまいそう。

 いつかマスターにドライヤーを作ってもらえないかお願いしてみようかな。


 そんなことを考えている間に髪が乾いた。櫛で整え状態をチェックする。

 

「悪くはないけれど、アイロンを当てた状態よりは少し落ちてるか……」


 もっと形状記憶の効果を強くしたほうがいいかも。

 仕上がりの艶ももっと欲しいな。


 私は何度も試作を繰り返していった。

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