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第12話 初めての依頼

 食べ物屋さんが並ぶストリートに入ると、美味しそうな匂いが漂い、急にお腹が空いてくる。

 買って帰ろうと思っていたけれど、今すぐ食べたい。


「フォティアスさん、あそこの串焼き食べてもいいですか?」

「ああ。好きにするといい」


 何の肉なのかはわからないが、鉄板の上で焼かれ肉汁がじゅわっと溢れ出ていてすごく美味しそうだった。

 私はその串焼きを二本買ってきて、フォティアスさんに差し出した。


「これ、フォティアスさんもどうぞ」

「どうして……」

「今日、連れてきてくれたお礼です。それと、これからよろしくお願いしますという挨拶です。それに、二人で食べる方が美味しいですからね」


 一人で食べるのは気が引ける。二人で食べた方が美味しいのはたしかだし。

 それに、これからフォティアスさんにはたくさん頼ることがあるような気がする。

 

「レーナは、変わってるな」

「そうですか?」

「普通、女性が男性に奢ることはしない」

「もしかして私、すごく失礼なことしてますか? これ、いりません?」

「そういうわけではない。 挨拶、として有難くもらっておく」


 フォティアスさんは串焼きを受け取ってくれた。

 私は安心してお肉にかぶりつく。


「美味しーい!」


 思っていた以上にほろほろの食感で、それでいてしかっりとしたうま味がある。

 久しぶりのお肉は格別に美味しかった。

 フォティアスさんも食べながら口元を緩めている。


「美味いな」


 渡しておきながら、フォティアスさんと串焼きって似合わないなと思ったことは言わないでおく。


 その後、精肉店やパン屋を案内してもらい、たくさん買い物をした。いくら買っても四次元の籠があるため荷物にならないのが嬉しい。


 帰りも森の入り口まで送ってくれるというので、お言葉に甘えることにした。

 一人で帰れないことはないけど、もう少し聞きたいことがある。


「あの、この世界の人たちはみんな魔力を持っていると言っていましたけど、みんな魔法が使えるということですか?」

「いや。魔法を使うには大量の魔力とそれなりの訓練がいる。全ての人が使えるというわけではない」


 魔法を使うのは簡単ではないんだ。何の努力もせず魔法が使えるようになってしまったけど、その分この力を大事にしないとな。


「あと、魔女と呼ばれる人は他にもいるのですか?」

「他にも魔法が使える女性はいるが、自ら魔女だと名乗る人はいないな」

「あまり魔女というのは好ましくないということでしょうか」

「昔は大勢いたが、魔術師団ができたことで王宮に帰属する者が主になったということだ。魔法を使う女性は特に国に属するものが多い。魔術師だけでなく医術師や騎士、神官や魔道具師なんかも魔法は使うから一概には言えないが」


 職業によって様々だということか。

 遠回しな言い方だったけど、魔女という存在は一匹狼的なもので嫌厭されているのかもしれない。

 森の噂もあるし、黒呪病の呪いの原因も魔女だというし、世間一般には良くない印象があるのかも。

 やっぱり私は素性を明かさないように生活していかないといけないんだな。

 でもまあ、今日フォティアスさんと街を歩いていても特別なことはなにもなかったし、普通にしていればいいか。


 話をしているとあっという間に森についた。

 

 この森は街を出て、北に三十分ほど歩いたところにある。街から近いところにあるけれど、噂のせいか、誰も寄り付かない。

 と思っていたら、入り口にある私便箱がなぜか赤く光っている。

 森を出るときは光ってなんかいなかったのに。


「中に何か入っているんだろう」


 私が不思議そうにしているとフォティアスさんが教えてくれた。何か入れられると光るんだ。

 中を開けてみると手紙が入っている。


『私は生まれつきの縮れ毛に悩んでいます。魔女様、どうかサラサラで艶のある美しい髪になれる薬をください』


「これは……」


 薬の注文というやつだろうか。もう百五十年依頼はきていなかったはずなのに。

 それにしても、縮れ毛に悩む女性か……。エアミルさんに塗ったあのクリームでは艶は出ても真っ直ぐな髪にはならないよなぁ。


 手紙をじっと読んでいると、フォティアスさんが覗き込んできた。


「薬の依頼か。こういった類のものは受けなくてもいい」

「ですが……」

「一度受けると大変なことになるぞ。ただでさえ、今エアミル嬢のことが噂になっている」

「エアミルさんのこと、ご存知なのですか? それに噂って?」

「エアミル嬢はマドルア子爵のご令嬢だ。私は先日のウィルソン公爵との結婚式にも参加した。ひと悶着あったがな」


 ひと悶着あったとは義妹とのことだろうか。

 それより、公爵との結婚?! ってことはエアミルさんは公爵夫人ってこと?

 

 フォティアスさんの話によると、マドルア家は子爵ながらも貿易業で成功し、莫大な資産を持っていた。一方でウィルソン公爵家は由緒ある家柄だが資産運用に苦難していた。公爵家との結びつきを持ちたいマドルア家と資金援助の欲しいウィルソン家の利害が一致し、婚姻を結ぶことになったそうだ。


 一見政略結婚だけど、エアミルさんと婚約者さんは愛し合っていたんだよね。

 でも、義妹は自分が公爵家の跡取りと結婚しようとしたんだ。


 結婚式の前日、エアミルさんが急死し、結婚するのは妹になったと通達されたそうだが、式が始まる直前、エアミルさんが戻ってきて騒ぎになったらしい。

 

 エアミルさんを貶めた義妹とそれを手引きしていた継母にマドルア子爵は激怒し、二人は国外追放。エアミルさんは無事に結婚し、公爵家の嫁として忙しくしているそうだ。


「エアミル嬢のあの姿はレーナがやったのか?」

「そう、です……。エアミルさんには言わないで欲しいとお願いしたのですが、噂になっているとは……」

「彼女の口からは何も言っていない。だが義妹が、あの森から出てくるなんておかしい、そんな綺麗な姿になって、あれは化け物だ、とかなんとか言ってわめいていたからな。この森に入って美しくなる魔法をかけられたんだと令嬢の間で噂になっている」


 美しくなる魔法か。まるでシンデレラのお話みたいだな。そんな簡単なものではなかったけど。

 噂になっていることも全く知らなかった。


「どうして噂になってるってすぐに言ってくれなかったんですか?」

「初対面の相手にわざわざ噂話などしない」

「そうですか……」


 やっぱりちょっと素っ気ないんだよな。


「だが、こういった依頼が増えるようなら話は変わってくる。もし何か困るようなことがあれば言ってくれ」


 でもやっぱりちゃんと優しい。


「困ったらなんでも言っていいんですか?」

「聞くだけ聞こう」

「私、できるだけ依頼された薬をつくりたいと思っています。もちろん、黒呪病の薬もちゃんと作ります。その上で、私自身がやりたいことがあるんです」


 私は、私の想いをフォティアスさんに伝えた――。

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