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第10話 森の噂

 王都の街までの道のり、気になっていたことをフォティアスさんに聞いてみた。


「ジェルバさんはこの世界の人たちを救う黒呪病の薬を作っている方なのに、この森に呪われるという悪い噂があるのはどうしてなんですか?」

「人々は、この森の青い魔女が黒呪病の薬を作っているとは知らないんだ。ただこの森に住んでいる薬師魔女というだけ」

「それにしても呪われるなんて……」


 ジェルバさんはこの噂をどんなふうに思っていたのだろう。

 何百年もこの世界の人たちのために薬を作り続けてきて、感謝されるどころか恐れられていたなんて。

 だから、身分を隠さなければいけなかったんだ。

 騒がれるというのは、良くない意味でだったんだ。


「この森に入ると呪われるという噂は、青い魔女の師匠だった黒い魔女の頃に生まれたものだ」


 そういえば、黒呪病の薬の研究は師匠から受け継いだと書かれていた。研究が始まったのはもう七百年以上前のこと。


「黒い魔女……その頃になにかあったのでしょうか」

「当時はまだ、黒呪病の薬は研究段階で多くの人の命が失われていた。その研究もあの森で行われていて、黒呪病の患者があそこでたくさん亡くなっている。亡くなった者たちは森で埋葬され、帰ることはなかった」

「埋葬……されている」


 黒呪病の薬を作るために患者さんを連れてきていたのだろうか。それでもなかなか薬は完成せず、病が治ることのないまま亡くなっていった。だから、迷い込むと呪われて帰ることができないという噂になったんだ。


「あの森が怖いか?」

「いえ。とても穏やかなところですし、怖いというより、なんだか守られているような気がするんですよね」

「なかなか鋭いじゃないか」

「なにか、あるのですか?」

「あの森は魔女の館を隠し、守っている」


 魔女の館ってあの家のことだよね? 隠してるって……まあ森の奥にあるし隠れてるっちゃかくれてるか。


(あるじ)に招かれた者以外、どんなに探し歩いてもあの館にはたどり着くことはできないんだ。私でも一人で行くことはできない」


 家から森の入り口までは真っ直ぐ一本道だった。迷うことなんてないけど、それは私がジェルバさんの跡を継いで主になったからということ?


 そういえばエアミルさんも迷ってしまったと言っていた。

 少し歩けば家までの一本道があったのに。

 それに、出口にもたどり着けなかったということは、入ってしまえば出ることもできないってこと?

 迷い込むと出られないって噂、あながち間違ってないじゃん。


「それって、入ってしまえば出ることもできないってことですか?」

「いや、むしろ招かれざるものは強制的に森の外に出される」

「そうなんですか?」


 ということは、エアミルさんはたまたま迷い込んでしまったんだ。

 あの姿で帰ることにならなくて良かった。

 

 話をしていると、街へ着いた。


 食べ物屋さんなどの露店が並び、他にもレンガ造りの建物に雑貨屋や食堂、パン屋、洋服店、たくさんのお店がある。


「お肉の焼けた美味しそうな匂いがする~! 後で買って帰ろう」

「そういえば君は、ちゃんと食事などはできているのか?」

「あの、遅れましたが私、レーナといいます。ちゃんと食べてますよ。焼き立てのままのパンがたくさんありましたし、畑の野菜も美味しいです。ただ、お肉は食べていなかったので食べたいなぁと」

「そうか。さっき渡した薬の代金があれば好きなだけ買えるだろう」


 フォティアスさんて、見た目はちょっと威圧感あるし口調も素っ気ない感じだけど意外と優しいよな。

 ちゃんと食べてるか、なんて親みたいな心配してくれるし、さっきも質問に丁寧に答えてくれた。

 落ち着いてるし、昔のことも良く知っている。

 ジェルバさんなんて三百七十二歳だったし、フォティアスさん師団長さんだし、けっこうな年齢なのかな?


「フォティアスさんておいくつなんですか?」

「二十三だ」

「あ、そうなんですね……」


 若い。まさか私より年下だったなんて。いや、見た目的にはそのままなんだけど、予想外だった。

 

「なにか?」

「なんでもありません……。きっと優秀な方なんだろうなと思っただけで」

「そんなことはない」


 話をしながら商店街を抜け、王宮の近くまでやってきた。

 王宮の横にある大きな病院の中に、黒呪病患者の療養施設があるらしい。


 病院には誰でも入れるようでそのまま入っていったが、施設に入るには特別な許可がいるそうだ。

 病院の中庭を通った奥の建物には厳重な柵があり、門番のような人もいる。

 ただ、私は薬師団長の連れということでフォティアスさんに付いて中へと入った。


 人から人へ感染する病ではないはずだけど、こんなに隔離されてるんだ。


 私たちは病室へと足を進める。

 そこは体育館ほどの広さの場所に等間隔でたくさんのベッドが並んでいて、黒呪病に侵されている人たちが看護をされていた。


 症状は様々なようで、痛みに呻いている人もいれば、ベッドの上で読書をして過ごしている人もいる。

 よく見ると手は黒く染まっていた。指先だけの人もいれば前腕全て黒くなっている人も。範囲が広ければ広いほど痛みがひどいようだった。


「随分と進行している人もいるのですね」

「ここに来るのが遅かったんだ。薬の摂取が遅ければそれだけ進行するし薬の効きも遅くなる。もちろん痛みも伴う」

「薬があるとはいえ、病に侵されるのは苦しいことですね……」


 薬を飲めばすぐに良くなるわけではない。ここにいる間は家族にも会うことができず、ただ完治するのを待つしかないそうだ。

 治る病ではあるけれど、それまでは苦しい思いをしまければいけない。

 治療中も楽になる何かがあればいいのだけれど。


 いろいろなことを考えながら、しばらく病室の様子を眺めた。


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