施設を出るとき同居に誘った幼馴染が想像以上にかわいい
久しぶりの投稿です。最後まで読んでいただけると嬉しいです。
時計を見てみると、時刻は午後十一時半を回っていた。
俺は年末恒例の歌番組を観ながらごろごろと横になり、そろそろ迎える年明けを待っていた。
今年は大学受験だが、これが最後の休みなんだと自分に言い聞かせながらこの年末を過ごしている。
ふと周りに目を向けると、さっきまで『今日は絶対に寝ないからな!』と言っていた子供たちがスヤスヤと寝息を立てて寝ている。
それをみて微笑ましい気持ちになっていると、すぐ横から笑い声が聞こえてきた。
視線を上げると、そこには一人の幼馴染がいる。
どこまでも深く綺麗な黒髪に、つやつやとした白磁のような白い肌。
黒曜石のような黒い瞳と滑らかな薄ピンクの唇は、テレビを見て微笑んでいた。
ただ俺と同じようにテレビを見ているだけのはずなのに、まるで一枚の美しい絵画のように見えた。
思わず意識が吸い込まれる錯覚に陥るほどだ。
彼女の名前は七瀬花代。
俺とは物心つく前から一緒にこの施設で育ってきた同い年の幼馴染。
俺がそんな風に花代を見つめていると、俺の視線に気づいた花代と目が合った。
「ん、何ー?」
そう言い、コテンッと首を傾げあどけない様子で聞いてくる花代。
いや、かわいすぎるだろ。
そう叫びだしたい衝動をぐっと抑え込む。
一つ一つの動作が天使のようにかわいい。いや女神かもしれない。
幼馴染という贔屓目を抜いて見ても、花代は美少女だろう。
黒髪に黒い瞳だからか、大和撫子という言葉がしっくりくる。
時折見せる、あのようなあどけない仕草も相まって彼女の中には可愛いと美しいが同時に存在していた。
つい先日だって男子から告白されていたほどだ。
高校三年間で考えると、百人以上からは告白されていたと思う。
しかし、そのすべてを花代は断っている。
いつだったか、花代にその理由を聞いたことがあったがその時は花代が不機嫌になって大変だった。
不機嫌になった理由は今でもわからない。
だけど、その時は俺も花代の答えで嫌な思いをしたからこれはお互い様というものだ。
「………あー、いや何でもな―――」
そこまで言いかけて、頭の隅を『あること』がよぎった。
………………いやでもなー。これはさすがにまずいか。
「もう! 本当にどうしたの? 私の顔になんかついてる?」
何も言わなくなった俺を訝しんでか、花代は体を近づけて俺の顔を覗き込んできた。
しかし、俺は『あること』を考えていてそれに気づかない。
んー、でもお互いにメリットはあることだし、普通に考えてめちゃくちゃいいアイデアなんだけど、花代がそれを了承してくれるかなんだよな。
花代にはもう何言っても恥ずかしくないんだけど、もし断られたら軽くこの真冬の海にダイブできる自信がある。
いやーでも、花代は断らないか。んー、でもなぁもしかしたら断るかもしれない………。
「おーい、おーい! 聞こえてるー!?」
くそ! 考えがまとまらねぇ! もういい、やらないで後悔するよりもやって後悔した方が全然マシだ。勝率はきっと五分五分、どうにかなるはず。世の中の心配ごとの八割は大体大丈夫!!
いっけぇえぇえぇえ!! おれえぇぇえええぇええええ!!
「―――花代!」
「わっ! びっくりした~ 何なのもう!」
Oh、顔ちけぇ。超かわいい。びっ、ビビったー。
やべ、何言うんだっけ? 花代のせいで全部飛んだ。やべえぞ。
また何も言わなくなった俺にしびれを切らしたのか、花代は一度「何なのよ」と呟くと、意識をテレビに戻そうとした。
それは棘のあるような言い方とは裏腹に、いつもの聞き慣れた優しい声だった。
その時だ。俺はこの瞬間言わなければ、花代と二度と会えないような気がした。
どうして今そんなことを思ったのかは自分でもわからない。
だけど、どんどんと花代が遠ざかっている気がする。
今を逃せばもう二度とこの手が届かない距離まで行ってしまう。そんな気がした。
俺と花代の進学する予定の大学は違う。
施設に居れる時間もあと少しだ。
だから、遠ざかっているという表現もあながち間違ってはいない。
さっきみたいな花代の優しい声も聞くことができなくなる。
一緒に学校に行く相手だって、ご飯を一緒に食べる相手もいなくなる。
頼むから、お願いだから、離れてほしくない。
俺は花代と離れてしまうのがとても恐ろしい。
いつも隣にいてくれた存在が居なくなるのは、本当に怖いことだと俺は思った。
パシッ。
気づけば、リモコンを取ろうとしていた花代の手を掴んでいた。
花代は俺の手を振り払おうとはせず、心配したように黒い瞳を揺らし俺を見た。
見慣れている花代の顔。
こうした何でもないような瞬間にいつも思うのだ。
やっぱり俺、花代のことが―――
ドクドクと心臓がうるさい。視界もなんだか揺れている。
だけど、言わないと伝わらない。
この恐怖だって消えはしないのだ。
「ね、ねえ? さっきからおかしいよ。本当にどうしたの?」
「聞いてくれ、花代」
「ん、なに?」
花代の黒い瞳に自分の姿が映る。
その姿は不安そうで、今にも泣き出しそうだった。
あーまじでやばい。心臓、耳についてるんじゃないのこれ? 自分で何言ってるかもわからないし……。
再び不安と緊張が襲ってきて、視線を花代から外して目を閉じてしまおうと思った。
しかしそれと同時に、右手に暖かいぬくもりを感じた。
それに驚いて見ると、花代の小さくて繊細な手が俺の手をギュッと握り返していた。
力を入れれば折れてしまいそうな小さな手が、今は不思議と心強かった。
思わず、目を見開く。
さっきまで暗くて灰色だった視界が、カラフルに色づき始める。
そしてゆっくりと視線を上げ、花代の顔を見た。
どこまでも俺を心配したような、そんな顔をしていた。
ああ。やっぱり言うべきだ。
俺は彼女と離れたくない。心の底からそう思う。
それは、自分でも驚くほどすんなりと口からでた。
さっきまでのあの緊張はどこへ行ったのやら。
足りてなかったのは、どうやら覚悟だけだったみたいだ。
「俺と、同居しませんか?」
「……………………ふぇ?」
花代の顔がまるで咲き誇ったかのように赤く染まった。
安堵か喜びか、はたまたその両方か。
思わず俺はそれを見て笑ってしまう。
あの時の花代の顔を、俺は一生忘れることはないだろう。
◇◇◇
朝、目を覚ますと時計は午後二時を示していた。
まだ少し眠気とだるさが残っているが、時間的にもう起きなきゃいけないと自分の体を無理やり起こす。
体をぐうっと伸ばすと、幾分かぼやけた思考もクリアになってくる。
そして、クリアになった私の頭は昨日あった出来事を思い出させた。
昨日、私は年明けを迎えた後、雪靖くんと一緒に近所の神社へ初詣に行ってきた。
『あんなこと』の後だったからなのか、雪靖くんの行動は終始おかしかった。
賽銭箱に栄一さんを入れてしまうほどにはボーっとしていたし、普段は飲めないって言って飲まない甘酒もぐびぐび飲んでいた。
私を誘ってくれた時は、本当にかっこよかったのになぁ………………。
そんなことを考えながら一階の大広間に降りていくと、中央に置いてあるコタツの中で雪靖くんが寝ていた。
子供たちは別室で園長の百合子さんとテレビを見ているようで、大広間には雪靖くん一人しかいない。
私は雪靖くんを起こさないように、そおっとコタツに近づいていき雪靖くんの隣に座った。
雪靖くんは気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立てている。
雪靖くんの寝顔は毎日見ているけど、昔とほとんど変わっていない。
年の割にとても幼く見える。
それを見ていたら、なんだか無性に頭を撫でたくなってきた。
右手がうずうずする。
「(ごくり)ど、どうしようかなぁ」
そんなことを考えたら止められないのが人間の性さがというもの。私は一瞬だけ迷ったが、雪靖くんの頭を優しく撫でた。
さらさらとした感覚が指の間を流れていって気持ちがいい。
「………………………………(ワシャワシャワシャ)」
ど、どうしよう、撫でる手が止まらない。
大型犬みたいでなんかいいかも……。
少し空いているカーテンから眩しい日差しが差し込んでいる。
私と雪靖くん、二人だけの静かな空間。穏やかな時間がそこには流れていた。
私は彼の頭を撫でながら、昨日の彼の言葉を思い出す。
昨日の雪靖くんの言葉。
あんなにも雪靖くんが輝いて見えたのはとても久しぶりだ。
私の頭に一つの記憶が蘇る。
『俺が、お前と一緒にいるよ』
そう言って差し出される小さな手。
私が暗い視界をそこからあげると、そこにはそれを吹き飛ばすほどの彼の笑顔があった………………。
そんな昔のことを思い出し、フッと自分が微笑んだことがわかった。
私はゆっくり雪靖くんの耳元に顔を近づけていく。
「本当にかっこよかったよ」
そして、そう雪靖くんに呟いた。
もし雪靖くんが起きていたなら、恥ずかしくて絶対に言えないけど、こうして寝ている今なら私は自分の本心をさらけ出せる。
普段から素の私を雪靖くんには見せているけど、この気持ちだけは中々見せることができない。
いつだったか、彼が私にどうして男子からの告白を断るのか聞いてきたときがあった。
その時、私はついにチャンスがやってきたと思って彼に言ったのだ。
『うーん………………私に、好きな人がいるからかな』
これはもう完全に決まったと思った。
それでこの後、雪靖くんが私に『それは誰なんだ!』って聞いてきて、それに私が『あなたです』って答えて、そして二人はめでたくゴールイン。その予定だった。
しかし、この男。こんなことをぬかしやがった。
『それは……………………お幸せにな』
私のさっきまで優しく撫でていた手が、ギリギリと雪靖くんの頭を鷲掴みにする。
今、思い出しても腹が立ってくる。雪靖くんは全く乙女心というものをわかっていない。
それに加えて、雪靖くんは私が言わないと部屋の掃除もしないし、ほっとくと朝ごはんも食べない。起こしに行かないと朝だって起られないし、寝ぐせだって私が直さなきゃ直そうともしない。
雪靖くんはいろいろとだらしない。
けど、一緒に歩くときはさりげなく車道側を歩いてくれるし、部活で夜遅くなったときは学校まで迎えに来てくれる。困ったときは相談に乗ってくれるし、なんなら気分転換にご飯にも誘ってくれる。
私だけが知っている彼のこと。
物心ついたときから一緒にいて、今までどんなときもずっと隣にいてくれた。
結局、私は彼に拒絶されるのが怖くて自分のこの気持ちを言えなかった。それなのに、雪靖くんと離れるのはもっと怖くて、彼がどう思っているのかさえ怖くて聞くことができなかった。
私はまた一人になるのが怖かった。
施設を出ていく時が近づけば近づくほど、この恐怖は増していく。
雪靖くんと離れたくない。
怖いよ。助けて、助けて、助けて―――。
黒い闇のような何かが、日々私を侵食していっている。
もう、このまま離れちゃうのかな。
そう思っていた時だった。
『俺と、同居しませんか?』
私の中に光が差した。
黒い何かがひび割れていく音がした。
私は本当にバカだった。
雪靖くんが私を拒絶することなんてありえないのに。
私が彼のことを知っているように、彼も私のことを知っている。お互いがそれだけのことを知れる時間を、今まで一緒に過ごしてきた。
本当に嬉しかった。本当に救われた。
彼も私と同じ気持ちでいてくれていたことが、なによりも嬉しかった。
彼の顔を見ていると、胸がとても熱くなってくる。
「雪靖くん、本当にありがと―――んぇ!?」
「ぅ、ぅ~ん」
ガシっ!!
感謝の言葉を言いかけたタイミングで雪靖くんが私に抱き着いてきた。
さっき、鷲掴みしちゃったせいで眠りが浅くなったのかもしれない。
そんなことよりこの状況はまずい。
今、彼は私の腰に手をまわして、太もものあたりに顔をうずめる体勢になっている。
もしも彼が今起きたりなんかしたら、私も雪靖くんも後で悶絶するに違いない。
「ゆ、雪靖くん、離れて。さすがにこれはダメだよ!!」
「…………zzz」
まじか、こいつ全然おきねえぞ。
なら、もういっそこのままでいいか。お前も私と道連れだ。起きたらからかってやろう。そして、二人で顔が赤いのを見せ合おうじゃないか。
なんだか、今の私は嬉しさのあまり浮かれているのか、変なことを考えている気がする。
その時、大広間のドアが開いた音がした。
目を向けると、そこには顔をひょっこりと覗かせるようにして百合子さんが立っていた。
「あらあら~。お熱いことねぇ」
「あっ、百合子さん」
私が声をかけると彼女は雪靖くんを起こさないようにゆっくりと来て、私の隣に座った。
「子供たちは?」
「寝ちゃったわ。疲れたみたい」
そうやって話す彼女は、相変わらずの優しい目で私たちのことを見ている。
昔から変わらない、優しい眼差し。
しかし、そんな優しい目が突然光ったような気がした。まるで獲物を見つけた肉食動物のようだ。
背筋に悪寒が走る。
「花代、雪靖から何か言われたの?」
「いっ、いやぁ。まぁ……はい」
くっ、勢いがすごい。この歳の女性はこんなにも恋バナに飢えているのか。
ズイズイと体を近づけて、目をキラキラと輝かせながら聞いてくる百合子さん。
彼女の中の少女の部分がそうさせているのか、とても四十代には思えない身のこなしだった。
「シィ―……雪靖くん起きちゃう」
「そうね、ごめんなさい。もう少しこのままでいたいわよね」
「ち、違わい!!」
「起きちゃうわよ」
私の慌てた様子を見て、ケラケラと笑う百合子さん。
そんな笑い方なのに、どこか上品さを感じるのは流石大人の女性という感じがした。
一通り笑ってツボが収まったのか、百合子さんは笑うのをやめ、少し真剣な表情に切り替わる。
百合子さんがこの表情をするのは、真面目な話をする時と決まっているので私も少し身構えてしまう。
「それで花代。実際のところ雪靖と何があったの?」
ほんの少しだけ咎められているように感じるが、それも仕方ないことだろう。
初詣の時から雪靖くんの行動がおかしかったのもあるし、私も平静を保っているように思っているだけで、はたから見るといつもとは様子が違うのかもしれない。
突然、二人ともこんな調子になってしまって、大学受験を迎えることを百合子さんは心配しているのだと思う。
きっとそれだけじゃない。
たぶん、百合子さんは雪靖くんが私にどんなことを言ったのか大体は想像がついている。
二人の子供の将来のことだ。親として、心配するのは当然だ。
私たちに血のつながりはないけれど、それでもこんなに私たちを想ってくれる百合子さんには、感謝してもしきれない。
なら私が最低限すべきことは、胸を張って雪靖くんとの今後のことについて話すこと。
百合子さんを安心させてあげることだ。
一度、深呼吸をしてから百合子さんの目を見る。
それからゆっくりと私は言った。
「雪靖くんと同居することになりました」
そして感謝の気持ちを込めて、ペコリと一礼をする。
一体、百合子さんはどんな反応をするのだろうか。
「………………………………」
あれ? なんか思ってたのと違う。
もっと、『キャー!!』とか『そうなのね』って言いながら涙を流すとか、そんな反応をすると思っていたのに。
なぜだ。なぜ何も言わない。
あっそうか。まだ、同居の許可を百合子さんに取ってなかった。
普通許可が先だよな。うん。
「百合子さん。雪靖くんと同居させてください」
「………………………………」
私は中々反応がないため、恐る恐る顔を上げる。
そこには信じられないものを見るような目で、私を見ている百合子さんの顔があった。
その顔を見て、私の頭の中に一つの疑念が浮かぶ。
もしかして、ダメとか言わないよね………………。
もしそうだとしたら、私と雪靖くんは同居できない。
無理やりにもしようとすればできる。だけど、百合子さんから反対された状態で同居なんかしたくない。祝福されて私は雪靖くんと暮らしたい。
だからお願い。『いい』って言って。
「………………ダメですか?」
「……………………………………きゃ」
「きゃ?」
「きゃあああああああああああ!!」
私の疑念を吹き飛ばすかのように、突然叫び出した百合子さんの顔は真っ赤だった。
両手で顔を隠す仕草がなんだかあざとい。
美人がそんなことをすると、ギャップがすごかった。
「同居? 同居ですって? 告白もしないで同居に誘うって!?」
「あの……ダメじゃない?」
私が不安そうに聞くと、百合子さんは一度きょとんとしてから、ふっと表情を緩ませて私に言った。
「もう! そんな不安そうな顔をしないで。全然ダメじゃないわ。あなたたちが考えて決めたことだもの。これから、しっかり雪靖に守られなさい」
「………………はい」
百合子さんの顔は安心したように微笑んでいた。
私もつられて一緒に笑い合う。
これで、百合子さんの許可も取れたことだし大学生になったら雪靖くんとの同居生活が始まる。
なんだかこのことを考えると、少し恥ずかしいような嬉しいようなそんな気持ちになる。
「そうと決まれば、私は二人のために部屋を探すわね。こう見えてもツテはあるから期待してて」
「そんな! いいんですか?」
「いいわよ。可愛い子供のためだもの。それじゃあ後は若い二人でね~」
「………………?」
少し視線を下げ、ニヤニヤとした表情で立ち上がり、大広間をそそくさと出ていく百合子さん。
一体、何を見て笑っていたのか。
気になって私もそこに目を向ける。
「………………っ!…………… おはよう花代………………」
「………………………………お、おはよう雪靖くん」
ばっちり雪靖くんと目が合った。
それからお互いに見つめ合って、何とも言えない雰囲気になる。
そんな雰囲気に耐え切れなくなったのか、雪靖くんから視線を切る。
「………………起きる」
「………………………………そうだね」
そう言って、離れていく雪靖くんの体温。
以前までならとても怖かったかもしれない。
だけど今は、離れないとわかっている。
「―――好きだよ。雪靖くん」
聞こえるか聞こえないかの、そんな大きさの声で呟く。
本当は聞こえていてほしいけど、今は聞こえなくてなくていい。だって、これからは何度だって伝える時間はあるのだから。
「―――ん、なんか言ったか?」
ほら、予想通り。
いつもと変わらない雪靖くんがそこにいる。
その当たり前が、今は幸せでたまらない。
「………………雪靖くんのばぁーか」
「なんで!?」
だから、きっと気のせいだ。
ほんのりと雪靖くんの顔が赤い気がするのは。
ぼーっと離れていく雪靖くんを見つめる。
これからどうなるかはわからない。
新しい生活に不安だってあるし、どきどきだって止まらない。
だけど―――
「………………やっぱ気変わった」
「ん?」
私は離れていく雪靖くんの腕をつかむ。
ごつごつしてて大きくて頼もしい彼の腕。
そっと視線を上げるとどこまでも優しい彼の顔がある。
これからどうなるかはわからない。
だけど、きっと彼が一緒なら私は幸せだ。
「―――雪靖くん大好きだよ!」
「……………………は、はー!?」
どうか、この幸せがいつまでも続きますように。
赤く染まった雪靖くんの顔を見ながら、私はそう願うのだった。
【完】
読んでいただきありがとうございます。生活が忙しく久しぶりの投稿になりました。モチベーションのためにも評価とブクマをよろしくお願いします。誤字脱字報告もよろしくお願いします。それではまた次の物語で。