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第二話 「主の夢・愛」

ーー暗転。

俺が目を開けるとそこは暗い病室ではなく。草原の真ん中。目の前には一軒の小さな白い家が立っている。これはなんなんだ?流石にこれは異世界としか感じられないのだが。しかもなんか体に違和感がある。自分の体じゃないみたいな感覚。自分の全てを掌握出来ていないような感覚。…!体が、動かない。金縛りのような感覚だ。意識はあるし目も見える。だが体が言うことを聞かない。ってうおっ!動いた?いや動かされてる?なんだこの感覚VRでも見てるような感覚だな。いやこれもしかして俺の視界じゃないんじゃないか?誰かの視界を見させられているのか?とりあえずこの視界の主のことをC君と呼ぼう。C君は白い家に入った。うお…室内なんもねぇなC君はミニマリストかなんかなのか?白い小さな家の中では部屋分けなどが無く。家というより倉庫のような感じだ。倉庫といっても何も物が無いんだが…C君はこんなところに何しにきたんだ?自家発電でもするのかい?それなら俺が視界からいなくなってからしてほしいものだが。俺がバカなことを言ってるとC君はクレヨンを取り出した。

おっお絵描きするのか?視界になんも無いから暇だったんだ漫画でも書いてくれよC君。

C君は家の床にすらすらと何かを描いていくその手は止まることを知らずに動き続けるそして段々と完成に近づくにつれ俺は恐怖が込み上げてきた。

完成。C君が描いていたのは…おそらく…俺だ。このフツメンに二重で無造作マッシュな感じ…俺だ。普通クレヨンの絵じゃ自分の特徴が描かれたくらいじゃ分からんものだがC君の絵は怖いくらい上手く、写真のようだ。

おいおいC君なんてもの描いてるんだ消してくれよ恥ずかしいじゃないか。というかなんで俺を知ってるんだ?俺の家族かなんかなのかな…家族なんだとしたら女の子がいいな。妹か姉だったら妹が良いな。おにいちゃ〜ん!って呼ばれてみたいもんだぜ。おっC君の腕が再び動き出した。次は赤のクレヨンを持っている。うし!今回は完成まで目瞑るか。また俺が描かれるなら過程からずっと見るより完成だけを見た方がまだ精神的に楽な気がする。というか目瞑れんのかな…おっいけるのか!よし!描く音が止まったら見よう。


俺は目を瞑った。視界に広がるのは暗闇だ。だがそこに一種類だけの音が聞こえてくる。異常なほど。あえて効果音を書くならこうだろう。

「ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ」

とんでもないスピードでクレヨンが擦り減る音がこだまする。小さな子供が聞いたら泣くんじゃないかってほど、荒く、激しく、怖い音だ。そしてその音はまだ続く。

「ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ…ガン!!」

音が…止んだ。最後英語のピリオドでも打つような一音高い音を鳴らして。正直見たくはない。この暗闇から出た瞬間目に広がる光景が良いものである気がしない。アマテラスが天岩戸に隠れた時もこんな気持ちだったのだろうか。見たいない。でも見なければ何も進まない気がする。今C君の動きは止まっている。俺が視界を開けるのを待っているかのように。

俺は恐る恐る目を開けてみる。だがそこにあったのは、俺の絵…に夥しい程の数の文字が刻まれていた。それは一種の愛であり呪いだった。どっかの目隠しした先生が「愛ほど歪んだ呪いはない」と言ってたけどその通りだ。歪んだいる。これがもしC君なりの愛情表現なのだとしたら悪いがC君は頭がおかしいのだろう。

「好き好き好きすき好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て来て…」

この狂った愛が俺の絵が描き潰されるほど床に敷き詰められ書かれていた。C君…いやここはもう女の子と思って少しでも気を軽くしよう。愛をすごくたくさん伝えてきたから『アイちゃん』で行こう。アイちゃんは満足したのか俺の絵から離れ、家を出た。そして次は初めてアイちゃんが声を出す。

「夢人さん…お願い出て来て…」

え、喋っ…

その声を聞いた瞬間思考する間もなく俺の意識は闇に落ちた。


「ぶはぁ!!!……ハァ…ハァ…」

病室だ。さっきのは夢だったのか?いや、あんなリアルな夢があってたまるものか。あの草原、あの白い家、そしてアイちゃんが喋った瞬間現実に戻された…

体が重い。さっきまでほぼ金縛りのような状態だったからか体の主導権を握る感覚を忘れていたらしい。

「…落ち着け、俺。深呼吸だ深呼吸。スゥーハァー」

時計を見ると針は2時を指していた2時か…あの夢の中に2時間囚われていた…

「脱走…いや今日は…いいか。」

この状態で何か考えても良い結果になる気がしない。俺は再び深呼吸して無理やり瞼を閉じた。


「おはようございます。体調はいかがですか?」

「ん…おはようございます。大丈夫ですよ。」

「よかったです。えっと今日は…主治医の先生が午前中に診察に来る予定ですから、それまではゆっくりとお過ごしください。」

7時過ぎ。起こしてくれたのは昨日トイレまでの道を教えてくれた看護師さんだ。そうだ。脱走せずともここで実験してしまおう。もう、あれより怖いものなんてそうそうないゆえ、別に俺が夢人確定してもそこまでショックは受けない。

「あの…俺のこと覚えてますか?昨日の消灯前話した…」

「えっと…ごめんなさい。人違いじゃないでしょうか?私昨日の消灯前は書類作成していたのでどの患者さんとも会っていません。」

「そうですか…すみません人違いだったみたいです。」

「はい…では朝のお食事ここに置いておきますね。ではまた!」

まあ…そうだよなこれで俺は夢人確定で、アイちゃんが俺の夢主なんだろう。

「俺が…夢人…」

あの夢で見た視界はおそらくアイちゃんのものなのだろう。そして、俺に話しかけてきたようだった。

俺が考えに没頭していると、廊下から複数の足音が聞こえてきた。聞き慣れた看護師の声に混じって誰か別の声がする。

なんとなくその声が気になって廊下を覗いてみた。

そこにはさっきと違う看護師さんが立っていた。だが俺はその看護師さんのエプロンに目が留まった。

「は?それは…」

エプロンのポケットに入ったメモ帳が少しはみ出している。その端っこにクレヨンで描かれた赤い文字が見えた。

「好き好き好き好き好き来て来て来て来て」

俺は無意識にそのメモの内容を口にしていた。

まさか、夢が現実に影響してきている…?

すると看護師さんが俺の声に気付き少し顔を赤らめながら言う

「あ、あのそういうの少し困るので…」

「え?あ、、ごめんなさい…」

「いえ、大丈夫ですよ。勤務時間終わったらお話聞きますよ」

声に出ていたらしい。しかもなんか看護師さんの気を引いてしまった。ミスったか。まあ半日後にはこのことも忘れているだろうし別に良いか。初めて夢人で良かったと思えたぜ。

立ち去る看護師を見送る。もちろんポケットのメモを見ながら。だがメモの赤文字は少しずつ薄れ、消えてしまい最後には綺麗なメモ帳になった。

「俺だけに見えてるみたいなやつか…」

アイちゃんの夢を見てから少しおかしくなってきている。俺、どうなっちゃうんだろ。

不安が募る中俺は味の薄い朝飯を食べ始めた…


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