プロローグ 『知らぬ世界の入り口』
…目覚めた。俺は目を開けた。
明るい。晴れている。陽光が気持ちいい…このまま二度寝を…。ってどこだここ、というか俺は誰なんだ?記憶喪失したやつのテンプレみたいなことを呟いていると、一つの結論に至った。
わからん。どこなんだほんとにここ俺も誰だ。とりあえず何もわからないなりに状況を把握してみようとし、俺は周囲を見渡す。青々とした草原に聳え立つ城塞都市。そして見渡す限り雲一つない青空には男のロマンであるドラゴンが…というわけではなく多分ここは日本だ。異世界転生でも期待したが、ここは日本だ。看板には日本語で『飛び出し危険!』とある。小学生の通学路かなんかなのかな…聳え立っているのは城塞都市ではなく、程よい高さのビルだ。そして空にいるのは飛行機。地には車が走っている。俺が寝ていたところは公園のベンチだった。暖かな太陽の恵みが柔らかく俺の体を包み込んでくれて気持ちがいい。やはり二度寝を……ってダメだってば。というか俺自分のこと分からないくせに周りのことは結構知ってるな。ここがどこかは都道府県までは無理だったが日本までは絞れた。改めて考えよう。俺は本当に記憶喪失した人なんじゃないか?自分で言うのもなんだが、ここまで常識も備わっているのに自分のことだけ分からないなんて…記憶喪失確定じゃん!こういう時は…まあとりあえず交番にでも行ってみよう。近くの病院から抜け出してきちゃったとかありそうだからな。俺はベンチから立ち上がり公園を出る。
すると運がいいことに交番は公園のすぐ隣にあった。運いいなと思いながら俺は交番に入った。
中にいる警官がすぐさま俺に駆け寄り聞いてくる
「どうしました?」
「あの…俺さっきまで隣の公園のベンチで寝てたんですけど…自分のこととかここがどこかとか分からなくって、ちなみにここってどこですか?」
「ここは愛知県の名古屋市ですよ」
俺は正直驚いた。数ある中で三大都市の一角を引き当てるなんて…ラッキーだ。味噌カツは絶対食おう!そのためにまずは自分のことを知らなきゃな…俺は再び警官に問う
「俺もしかしたら記憶喪失患者かもしれなくて、近くの病院から抜け出してきたとかあり得そうなんでこの近くの病院教えてくれませんか?
「あーこの近くの病院…分かりました。もう少しで交代入るので送りますよ。少し歩きで行くには遠いので」
「いいんですか!?ありがとうございます!!」
なんて優しい警官なんだ。ハグしてやりたいくらいだぜ。いやしてやるよ。いくぞ、優しき警官!!なんて冗談が浮かんでくるくらいには嬉しいな。
俺は警官に連れられてパトカーに乗り、近くの病院まで送ってもらった。パトカーに乗るというのは少し変な気分だった…
マジか。精神病院じゃん。俺…精神病患者だったのか?もしかしたら監禁病棟に隔離されててそこから抜け出したとか…!!そんなことを考えていたら警官から声をかけられる。
「行きましょうか」
「えっ!あっ、はい。」
俺どうなるんだろ…これでシャバの空気は最後かもしれん。たっぷり吸っておこう。深呼吸深呼吸スゥーハァースゥーハァー。
「大丈夫ですか?」
「あっごめんなさい。もしかしたら俺ここの監禁病棟にでも隔離されててもう今が最後のシャバの空気だと思うと…」
「あはは、そんなに心配ならここに入院することになったら二日後僕に電話でもかけてきてください。もしそれがなかったら助けに来ますよ」
ああ。この警官は聖人だ。なんて優しい人なんだチューしてやろうか!
そして俺は病院に入り検査を受け、入院することになった。隔離病棟ではなかったから安心だ。警官が帰った時は少し怖気付いたが。俺は今案内された部屋のベッドに寝転んでいる。俺は記憶喪失患者として数日間の検査入院になるらしい。俺は自分のことこそ分からなくなっているが社会で生きるために必要な常識は抜け落ちてなかったのでそこまで重傷ではないらしい。この検査入院のうちに俺の身元も探してくれるらしいし一件落着ってやつだな。
だが一つ問題がある。暇だ。病室なんもないし病院のテレビはテレビカードってやつを買わないとつけれないらしい。一文無しの俺には苦しい環境だ。いやここでゲームをしよう!あれだ!あれ!両手でジャンケンだ!片手ずつ意識を分散させて…これならできる!いける!ジャンケン…ポン!!
両方ともグー…
なるほど!手強いな左手め!
俺の主意識は右手にあるらしい。
もう一度だ!ジャンケン…ポン!
左手はパー。右手はチョキ。
勝ったぁ!!!やったぜざまあねぇな左手!!!。。……何してんだ俺。ああ俺ほんとにここに入院してたのかもしれないな。なんだ片手ずつに意識を分散って笑えねぇよ…
俺が感傷に浸っていると病室に俺を診察した医師が来た。
「やあ。暇でしょ君」
「いやそんなことないですよ。ひとりジャンケンしてたんで」
「暇じゃん」
この医師は20代後半くらいの顔つきで見るからな優男って感じだ。まあコイツも暇なのかな。仕方ねぇな。おしゃべりに付き合ってやるよ!
「はいはい。暇ですよ。すっごい。」
「やっぱりじゃん。じゃあさ、君を診察したうえで面白い話があるんだけど」
医師は聞いて欲しそうな顔をしてやがる。まあ俺も面白い話は好きだし聞いてやるよ
「どんな話ですか?」
「いやね、都市伝説的な話なんだけど、『夢人』って話。この話君に少し似てるんだよね」
「へぇ。どんな話なんですか?」
「夢人はね。誰かの夢に出て。その夢を見ていた人を夢主と呼ぶとするとその夢主が目覚めてからその夢に出てきた人物の存在を強く願う。それで現実に生まれるのが夢人。夢人は自分のことが分からなくて、記憶喪失した人みたいなんだって。そして夢人は人に長く覚えられない。つまり一定期間経つと忘れられるんだ。夢も一定期間したら忘れちゃうじゃん?そんな感じなんだと思うよ」
ゴクリ…と俺は固唾を飲んでその話を聞く。手に汗握るとはこういうことなんだろうな。実際今俺の手汗はとんでもないことになってる。
「そしてね。夢人は夢主に忘れられると消える。どんなに長く覚えてる夢でもいつかは忘れちゃうからそうゆうことなんだと思うよ。そして夢主に忘れられた夢人は消滅する。でも夢人はそれが嫌だから夢主に会いに行って夢主に強い衝撃を残して、存在を確立するんだって。でさ、この話今の君の状況に少し似てるよね。今君は自分のことだけ分からない記憶喪失…もしかしたら君は夢人かも…はい!話は終わり!またね」
「はい…」
医師はパン!と手を叩いて話を締めると颯爽と病室を出ていった。俺は手汗どころじゃ無くて脇もびっしょりだった。俺が夢人…?忘れられたら消滅する…?いやあくまで都市伝説だ。気にすることない。とりあえずあの優しい警官に電話でもかけよう。10円くらいくれるでしょ。
俺は病室を出て看護師さんにお願いして50円貰い、公衆電話から電話をかける。相手はあの警官だ。別れ際に電話番号だけ教えてもらった。俺は番号を入れ、電話をかけた電話はすぐ繋がりあの警官の安心する声が聞こえてくる。
「はい!どちら様ですか?」
「俺ですよ警官さん!昼に病院まで送ってもらった」
「え?」
警官は疑問の声を出す。俺はこの警官も俺に慣れてきてユーモアが出てきのかななんて思い復唱する。
「もーやだなぁ!昼の記憶喪失の人ですよ!」
「いや…ほんとに誰ですか?俺、昼は誰とも会ってません」
「は?」
「変な悪ふざけはやめてください。どなたが存じ上げませんが、切りますね」
切られた。俺は少しの怒りを覚えた。なんなんだあの警官。公務中じゃなかったらあんななのか!ふざけやがって…いやあの医師が言ってた…
「夢人は人に長く覚えられない」
これで…記憶喪失なこと。数時間前に会った人に忘れられていること。二つ揃った…
俺は…もしかして夢人なのか?